表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

6.

ノゾミの「センシュセンセイ」から始まったタイイクサイは、ことのほか盛り上がっている。


紅組、白組の二組に分けられた生徒たちは、競技ごとに他クラスや下級生とも関わることになり、これまで身分差を意識してどこか距離のあった者同士も自然と打ち解けていった。

練習会の頃から積み重ねてきた熱気は本番でさらに高まり、どちらの組も驚くほどの団結力を見せている。



それを盛り上げるように、青く抜けるような空に疾走感のある宮廷音楽が響く。

ノゾミの要請に国王が快く宮廷楽団を送り出してくれたらしい。


贅沢にも、校庭の隅で軽快に指揮棒を振っているのはこの数年表舞台に立っていなかった巨匠(マエストロ)だ。アリィシアの祖父がパトロンをしていたため、アリィシア自身もよく面識のある人物だが、非常に気難しい人で『本物の音楽を探しにいく』と言って事実上の引退状態になっていた。


口癖は、「品行方正なガキほどつまらんものはない」。

アリィシアは祖父のおまけで可愛がってもらっていたが、常識よりも『面白いもの』を好む人だから、きっとノゾミとも気が合うだろう。

今日はご機嫌のようで、拍がたまにずれるほど指揮が乗っている。聴こえてくる調べはどこか異国風で、ノゾミの国の音楽をアレンジしたものだろうと窺い知れた。


演奏に来る、と知らされてもいなかったアリィシアは、サプライズ成功とばかりに笑った巨匠に同じ笑顔を返すことができなかった。今までの自分の世界が、どこか別のところに移ってしまったような、そんな心許なさを感じてしまったので。



ノゾミ発案のタイソウギは、伸縮性のある素材で作られていて赤みを帯びた赤褐色をしている。(この色は『アズキイロ』と呼ぶらしく、ノゾミのこだわりだと言う説明があった)

画期的なのは女子生徒用のものでも、パンツスタイルだという事だった。この国では女性はほぼスカートで、よほど『男勝りの』女子でもない限りズボンを履くという習慣がない。春大祭でのアリィシアの衣装はアクセサリーや色合いで女性らしい仕上がりになったが、普段使いに移行していくには時間がかかると思われていた。

そんなわけで最初は生徒達も敬遠していたのが、タイイクサイの準備のため、放課後タイソウギに着替えて学園内を飛び回っているノゾミの姿が各所で見られるようになると、一緒に作業をする女生徒を中心に着用者がどんどん増えていった。

ペンキやノコギリなどを使った工作も多く、作業上の必要性もそれを後押しした。


貴族クラスの女子ではまだ着用者は少ないが、全校で見れば女子生徒、男子生徒ともに大半が着ているようだ。運動の時などにこれを着るらしいのだが、確かに制服が汚れるのを防ぐためにはかなり有効だろう。女子の制服は紺地の短いジャケットに同じ色のロングスカートで、高級な素材を使った布地の着用感は良いのだが、実際のところ、野外実技の時などでは服を汚さないようにかなり気を遣っている。


生徒達の手作りによるモニュメントや体操場のクラスごとの飾りは、コンテストを催していて優勝クラスには食堂からの協賛品のアイスクリームが供されるらしい。

アイスクリームの希少性もさることながら、ここは活躍の場!とばかりに普通クラスの生徒達が奮起し、劇場の舞台のような飾りが校庭のあちこちに設置されていて目にも楽しい。


(これが、ノゾミ様の作り上げたタイイクサイなのね)


制服のまま、自クラスの観覧エリアで競技を眺めながらぼんやりとそんなことを思う。


彼女の努力を、アリィシアは目にしていた。毎日遅くまで、文字通り学園内を駆けずり回る姿を。


会場入口の大きな門は、彼女が手ずからイラストを下書きしたものだった。この国の聖獣である竜を、あそこまで大胆な色合いで表現するのは彼女だけだろう。でも、その荘厳さは保守主義の保護者達も見入ってしまう出来栄えだ。


目新しい競技のどれもこれも、異世界のものだから面白いのではない。きっとこの学園の生徒が馴染みやすいようにルールがアレンジされている。

生徒一人一人に配布された、丁寧な手書きのルールブック。それが完成至るまでには何度も何度も書き直されたことだろう。ノゾミの机の近くに落ちていた、下書きにある朱書きの数々がそれを物語っていた。


先生方への根回しも。国王陛下の口利きだけではこうはいかない。主催者として、学園長にノゾミが何度も怒られている姿を見かけた。


アリィシアは今まで、色んなことを開催する立場だったから、それがどんなに大変なことなのか分かってしまう。

疲れた顔すら人に手伝いたいと思わせるような健気さがあって、最終的には誰もがこのタイイクサイに関わっていた。


(彼女の努力を知っているのに、なぜ、わたしは)


新しいイベントにうきうきと湧き立つような空気に入るに入れず、かと言って空気を壊したくはないアリィシアはにこやかな表情を貼り付けたたまま、心の中で自分に問いかけた。



——次は、『オウエンガッセン』です。

各組の応援団の前に、生徒会役員による全校応援が披露されます。


魔力拡声器による場内アナウンスが響くと、楽団の音が鳴り止んだ。全校生徒が、固唾を飲んで生徒会役員のテントの幕が開くのを待つ。


ややあって、

幕が開けられ、

生徒会メンバーが全校生徒の前に並んだ次の瞬間。


運動場に、歓声が爆発した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ