5.5
アリィシアの友人のつぶやきです。
アリィシア・フォン・メリディアン様という方をご説明するなら私が適任でしょう。
幼馴染というには畏れ多いですけれど、幼い頃からご学友ということで身近に過ごさせていただいておりますので。
わたくし、ファリーナ・エヴラールと申します。父は侯爵領を賜っております。アリィシア様と初めてお会いしたのは私たちが10歳のときでした。
さすが筆頭四家でいらっしゃる。すらっと伸びた背筋も、ご挨拶のお言葉も、首の傾げ方すらも既にレディと呼ばれるに相応しい立ち振る舞いで、同伴していた父には後から「お前ももっと頑張りなさい」と、私が小言を言われたものです。私の出来が悪いのではございません。アリィシア様が凄いのです。
ふんわりとした淡い色合いの金髪が、お召しになっていた濃紺のトラディショナルなドレスに映えてなんとも上品なお姿。
流行りのパフスリーブにレースたっぷりのドレスを勢い込んで選んでいった自分が恥ずかしくなるくらいでした。
殿下方の前に立った緊張で固くなる私たちを安心させるようににこりと微笑んでくださった時。柔らかく下がった目尻がなんともお優しげで、私は一瞬で大好きになりました。
あぁ、この方はお姫様だわ、と思ったのを覚えております。
実はこの時、殿下にもお会いしておりました。というより、殿下に面通しするために高位貴族の令嬢、令息が集められた会だったのでした。ホストが王妃様、その補佐をアリィシア様が務められており、筆頭四家は、家臣とはいえ我々とは違うお立場なのだと子供心に感じたものです。
王家のお近くに侍るお立場ですから、すでにアリィシア様とランスロット様は親しくされており、この頃からランスロット様がアリィシア様をとくべつに想われていることは明らかで、王太子の婚約者を狙っていた私の父のような方々も、早々に路線変更したのでした。
つまり、私たち娘はランスロット様の婚約者、王太子妃を目指すのではなく。王太子妃となられるであろうアリィシア様と親しくなっておくことを命じられたのです。
王太子妃、そして将来の王妃、というのは名誉なお立場でしょうが、こちらのことが眼中にない男性のお気持ちを取り合うなどというはしたない真似をしないで済むことは、本当に良かったです。
陛下も皆様も、アリィシア様をお迎えするつもりなのは明白でしたから、学園を卒業されたら、ご婚約期間を少し設けてご結婚なされるのだろう、と誰もが疑いもしませんでした。
ですのに。
神子姫、ノゾミ様。
あの方が入学されてから、アリィシア様とランスロット様の距離がどんどん離れていくように感じています。
それも、生徒会にノゾミ様が出入りするようになってからは加速度的に。
まさかあのランスロット殿下が、と目を疑う日々です。
あの、ランスロット殿下とは——
アリィシア様が大好きすぎてこじらせている思春期男子。
それが、私達のランスロット殿下です。
クラスではいつもアリィシア様が何をしているか気を配られて、図書館に行くとみては、呼ばれてもいないのにいそいそと忠実な騎士のように付き添い。
出来るだけ一緒に居たいからなのでしょうが、アリィシア様とクラス当番が一緒の時だけやけにお仕事をさぼりがちになったり。
そうそう、こんなこともございました。
ダンスの授業の際、本来なら練習相手は毎回変わるはずでしたのに、ランスロット殿下は「礼法の精度を上げるには固定した方が効率がいい」と、いかにももっともらしい理由をつけてペア固定制を提案なさったのです。
社交界に出れば、いろんな方と踊らなければならない機会もあるでしょうから、本当にそうか?とみな頭の中では思いましたが、殿下の鬼気迫る様子に、講師ですら何も言えずにその案を飲んだのでした。
その翌週、いつもの講師がお休みで、代打できた講師の指示でアリィシア様が別の男子生徒と組むことになったとき。
殿下は珍しくあからさまに機嫌を悪くされました。
……あれで隠しているつもりなのですから、本当に困ったお方です。
それらをみんなクラスメイトにバレていることすら気付かない必死なランスロット殿下が、いくら神子姫様とは言えノゾミ様に心を移すはずがない。
私だけでなく、このクラスの皆がそう信じています。
ノゾミ様のことで、最近の殿下は確かにお忙しそうです。
殿下の傍らに神子姫様のお姿があるのも、もう珍しくなくなりました。
けれど——
廊下から響く、少しだけ急いだ足音。
私たちは視線だけで、言葉を交わし、頷きました。
来ましたわ。
タイイクサイの準備であれほど慌ただしいのに、今日もちゃんと戻ってこられたのです。
これからきっと図書館へ向かうアリィシア様に付き添いに。
……ですから、やはり大丈夫。
そう簡単に、変わるものではありません。
これが七歳から続く、私たちの大切な任務。
『殿下の恋、見守り隊』——本日も任務成功、ですわ。
アリィシアは垂れ目なのです。




