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17.

朝投稿したつもりが出来ていませんでした…

10才の頃、ランスロットにとっての転機があった。


3歳上の兄、レイモンド。

母の違う長兄は、王宮の中で独立した宮を与えられてひっそりと暮らしていた。たまたま、弟のオスカーと庭の見回り(この頃の二人には、警備兵ごっこが流行っていた)をしていたときだ。


建物の裏手で、一人鍛錬をしている兄を見つけた。


型をなぞるだけの稽古ではない。目の前に敵がいると仮定し、間合いを測り、踏み込み、斬り返す。実戦を意識し、よく考えられた動きだった。


「えええええ!あれ、レイモンド兄さん?すっごいなぁ!」


師範のような腕前に、オスカーが興奮して声を上げた。弟は剣術が好きだから、食い入るように見ている。それくらい本当に美しく力強く、それでいて儀礼的ではない、相当な腕前だった。


少し距離感があるとはいえ兄弟だ。一緒に騎士達の訓練に参加したことは何回もあった。その時の動きと、スピードも、キレも、鋭さも全く違っていた。


その時は少し不思議だな、と思った程度だった。けれどそれ以降、兄に会うたびに観察してみたら……剣だけではなかった。知識や礼儀作法、判断力、全てが優秀で、それなのに慎重に──本当に慎重に、それを誰にも気付かせないようにしていることに気づいた。


例えば大事なところでランスロットに譲る。

周りの人間を誘導して気付かせる。

知らないふりを、分からないふりをする。


(……なんで)


胸の奥に、小さな疑問が落ちる。

これだけできるなら、どうしてもっと前に出ないのか。どうして“王”になる人として扱われていないのか。


(じゃあ、俺はなんなんだ?)


その瞬間、初めて気づいてしまう。


自分は「王太子」として育てられている。けれど今目の前にいる兄は、それよりずっと“それらしい”。

剣も、知識も、立ち居振る舞いも。

なのに、その人はそれを隠している。


(俺は何のために、こんなことを)


王は誰よりも優秀でなければならない、と教えられてきた。だからこそ自分は学び、剣を振り、それなりに努力してきた。


でも。

“追いつくべき人”が、最初からそこにいるなら。


(……兄上がやればいいじゃないか)


そう思ったら、努力する意味が分からなくなった。



「ねぇ、ランス……最近どうしたの?」

「ん?どうしたって?」

「だって……前は、ケイトリン先生の国際情勢論は好きだったじゃない。サボっておいて、憂鬱な顔してるし」


天気の良いある日。

講義を抜け出し、二人並んで警備用の尖塔から城下を見下ろしているとアリィシアが聞いてきた。

ランスロットは、自分の気持ちが上手く話せる気がしなくて小さく唸った。代わりにポケットの中の干し肉を取り出して齧る。アリィシアにも差し出すとといらない、と首を振られたので、代わりにキャンディを出せば今度は目を見開いて嬉しそうに受け取った。

以前キャンディボックスから選んでいた桃色の包み紙のキャンディは、どうやら正解だったらしい。口に含んだ瞬間にふわりと微笑んだ。


それを見たら、少し、気持ちが上向いた。


「昨日話してたこと……関係ある?」


その前日、アリィシアには愚痴ったのだ。

兄が、王になればいいと。


うん、と頷いて、アリィシアに答える。


「兄上のほうが、俺よりなんでも出来るんだ。俺がなるより、兄上がなったほうがいいってシアも思うだろ?」


アリィシアにうん、と言われたらきっと傷付く。

でも、そんなことない、と言われても信じられなかっただろう。


ランスロットの複雑な気持ちなど知らないアリィシアはこてん、と首を傾げた。


「私、王様の仕事ってまだよく分からないけれど」


カラン、と、アリィシアの口の中の飴が音を立てる。


「新年祭のときのフレデリック様の金色の王冠とマント。あれを身に付けたらランスロット、すごく格好良いと思うからそれは見てみたいわ」

「……見た目の話かよ」


呆れたように答えたけれど、これはこれで嬉しかったのだ。正装した父の姿はランスロットにとっても憧れだったので。


もちろんアリィシアだって、王になることが儀礼の衣装を身に付けるかどうかだけの問題でないことは分かっている。その上で、兄に比べてどうかとか、王として相応しいかどうかではなく、ランスロットが格好良いだろうから見てみたい、と言ってくれた。

お陰で少しだけ肩の力が抜けた気がする。


だから、兄のところに行って聞いててみることにしたのだ。

「兄上が王になってくれませんか」

と。



アリィシアは、甘いものが好きではないランスロットが自分のために飴を持っていてくれたと分かったから、喜んだのでした。

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