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15.

昨日の深夜にも更新しています。

その夜。


オスカーは、寮の自室に入ろうとドアを開けて……閉めた。一瞬、部屋を間違えたのかと思ったのだ。

なぜなら、同級生と相部屋のその部屋の窓辺に——それも真っ暗な部屋で——兄が仁王立ちしている姿があったからだ。閉めたドアの前で、左右を見渡す。


うん、オレの部屋だ。


これは面倒なことになってるな——分かってはいたが、ため息をつきながら再度ドアを開けた。


「遅かったな、オスカー」


兄の声は、絶対零度に冷え込んでいる。確実に、さっきの様子をどこかから見かけたのだろう。兄の、想い人と話していた様子を。


「うん、ちょっとね」


ぼやかして様子見しようとしたところ、悪手だったらしい。無表情だった兄が、くいっと片眉を上げて笑った。いや、笑ってない。目が。

さすが王族だ、口角はしっかり上げられている。


「ちょっと……?なんだ、ちょっとアリィシアと抱き合ってきたのか?」


そんなことを言われて吹き出す。


「いやいや、抱き合ったってなんだよ!幼馴染がどこかの誰かのせいで泣いていたから慰めてたんじゃないか!」


(しかも、相変わらず変な方向へ突っ走りそうになるのをフォローまでしてきて……)


この二人を見守ってきた、これまでの自分の気苦労を思うと、さすがに腹が立ってきて、今日はいつもより言ってやってやろうという気持ちになる。普段ははたから口出しするのは問題を大きくするだろうから静観しているのだが。

どうせ、これ以上こじれることはないくらいにこじれている。


「なんなんだよ。兄さんが訳わからない理論でシアを振ったりするからこんがらがってるんじゃないか! ずっと好きだった女の子と誰からも認められて婚約できることの何が不満なんだよ」


「お前に何が分かる!シアが王妃になったら毎日可哀想だろうが!」


自分によく似た顔を悲壮感に歪ませて兄が叫んだ。

が、しかし。


「……は?かわいそう?」


何を言ってるんだ?とオスカーは混乱した。

イヤイヤ、大好きな幼馴染と一緒にいたくてずっと王妃になるべく勉強をしてきて、それを断られるほうが可哀想なのではないか?


優秀な兄だが、昔からアリィシアについてだけは本当に意味の分からない言動が多い。

この人、大丈夫かな——そう思って兄を見つめると、ため息をつかれた。


分かってないな、お前。

そんな態度にオスカーは正直イラついた。


「お前は知らないだろうがな、アイツは国家行事で舞を披露するような時なんか一週間前から緊張でろくに食事も取れなくなるし、当日は腹も下してヘロヘロになってるんだぞ。今までは王家の代打という形だったのが王妃になんかなったら、それこそ公務で人目に付く機会が多くなるじゃないか。そしたら一気にノイローゼだ。

それに、そもそも母上に憧れて王妃になりたいだけだろうしな……。あいつが好きなのは、王妃(ははうえ)であって俺じゃ無い。それなのに、王妃になったら重責に一生苦しめられる。そして俺はそれを隣で見ていても救うことは出来ないんだぞ」


息をほとんど吐かずに高速で語られた。

まるで、好きな物語の主人公について語るヴィクトルのようだ。

ノゾミの国の言葉で言うと、そう言う人のことをオタク、と表現するらしい。


「……可哀想だろ?」


だよな?と目線で確認されて、オスカーは曖昧に頷いた。


「つまり……兄さんは、シアのことが好きすぎて辛い思いをさせたくないから結婚したくないってこと?」


驚きながら兄を見れば、答えはないがすっと視線を逸らしたから答えは明白である。


「それで、シアじゃなきゃ誰でも良いとか言ったわけか」


ようやく合点がいった。あの台詞を聞いたときには、嫉妬で狂って失言したのかと思っていたのだが。

だって、アリィシアが大事そうに抱えていた紙束——ヴィンセントが持っていたはずの帳簿——を目にした兄の目つきと言ったら……紙が、発火してもおかしく無いくらいの凶悪さだった。


自分が思っていた以上に兄は幼馴染にとち狂っているらしい。

というか、アリィシアじゃなければ辛くても良いと言うなら、奥さんになった人に対して失礼すぎる。

そんな不幸な人が生まれないためにも、今ここで自分が背中を押してあげるべきだろう。


「兄さんの気持ちは分かったけどさ、」


確実に、自分の言葉は兄の背中を押すだろう。

ただ、崖から突き落とすことになったら嫌だな、と少し心配になりながらもオスカーは情報提供を心に決めた。


(まぁ、いいか。だってライバルは俺じゃないし)


「お隣の王子が、シアにプロポーズしたってよ?」


ずっと書いてあったシーンをようやく世に出せて感無量ですー。

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