なぜ殺すのか
「殺人事件かぁ……」
雨宮桜はニュースを眺めながら、ぽつりと呟いた。
「まぁ、同種がいるから当たり前かな」
春は特に興味もなさそうに答える。
「けど、春は人を殺さないじゃん」
「え?」
春は不思議そうに桜を見た。
「あ……ここ数年は、だけど」
「僕たちは感情を喰らうからねー。恐怖心を糧にして生きてるんだ」
「……あれ? 春は?」
「んー? 桜って、なんやかんや僕のことを怖がってるからね。最低限、生きていく分には困らないよ!」
「…………」
桜は何も答えなかった。
「ん? どうしたの?」
「あ……なんでもない。けど、感情なら何でもいいんじゃないの?」
「恐怖心以外の感情は嗜好品かな。調味料みたいなもので、主食にはならないんだ」
「そっか……だからゲヒュールは人を殺すんだ……」
「まぁ、殺さずに怖がらせることもできるけどねー。僕も基本的には、殺すのは相手の感情が麻痺して、味がしなくなってからかな」
「……私のことも、そのうち殺すの?」
「桜は特別だよ!」
春はいつものように、屈託のない笑顔で答えた。
しかし、雨宮桜は知っている。
春が自分を特別扱いするのは、自分が向ける愛情や、春の言動に喜ぶときの感情を気に入っているからだ。
それは人間が考えるような愛情とは違う。
だからこそ、雨宮桜は春の言葉を素直に喜べなかった。
「あれ? おかしいな」
春は首を傾げた。
いつもなら喜んでくれるはずなのに。
思い通りの感情が返ってこないことを、春は不思議に思っていた。




