月日が過ぎ
「桜、起きて」
春の呼びかけで、雨宮桜はゆっくりと目を覚ました。
「もうそんな時間かぁ。春は早起きだね」
「桜が遅いだけ」
春は呆れたように答える。
桜はそんな春を眺め、楽しそうに微笑んだ。
「それにしても……やっぱり春は可愛いなぁ」
「この見た目、気に入ってるんだ! 警戒されずに近づけるから」
春は嬉しそうに自分の姿を見せる。
「……あー、うん」
桜は少し曖昧な返事をした。
雨宮桜と、あの日父親を殺したゲヒュール――春。
二人はゲヒュールの被害に遭った子供として保護され、それから月日が流れていた。
そして今日は、施設を出る日だった。
春は荷物をまとめる桜に声をかける。
「桜、施設には私と同じ同種はいなかったけど……」
「ん? ゲヒュールって基本的に森とかにいるよね?」
桜が不思議そうに尋ねると、春は頷いた。
「そうだよ。でも、人間社会に適応している個体もいるから気をつけて」
「ん? 仲良くなりたいから適応してるんじゃないの?」
「違うよ。森にいると、人間が来るのを待たないといけないでしょ? だから、食事の都合で人間社会に紛れているだけ」
春は当たり前のことを説明するように答えた。
「えー、なら守ってよ」
「はぁ……」
春は小さくため息をつく。
「施設を出るんだから、早く荷支度して」
「はーい」




