歪な出会い
私の名前は、雨宮桜。
桜という名前は、母が好きだった花に由来している。
母が亡くなってから、父は変わった。
私に暴力を振るうようになったのだ。
自暴自棄になっていたのだと思う。
けれど、きっと父は私のことが好きではなかったのだろう。
父が好きだったのは、母だったのだから。
そしてこの時間帯は本来なら父に殴られている筈だが、今日だけは少し違った。
父は今、泣き叫びながら命乞いをしている。
人語を話す獣――ゲヒュールが現れたのだ。
目の前で命乞いをする父を見て、そいつはニマニマと笑っていた。
ゲヒュールが父を痛めつけ始めてから、三時間ほど経った頃。
父はついに反応しなくなった。
「……あーあ。もう動かなくなっちゃった」
ゲヒュールは少し残念そうに呟くと、今度は私の方へ歩み寄ってきた。
私はそいつに駆け寄り、抱きついた。
「ありがとう」
私がそう告げると、ゲヒュールは不思議そうに首を傾げた。
「……おかしいと思ったんだよね」
「何が?」
「子供って、親を殺されると恐怖するものなのに。君からは、なんだか楽しそうな味がするんだ」
ゲヒュールは私を見つめながら、さらに言葉を続けた。
「でも……変わった味の感情だね。こんなの初めて食べたけど、気に入ったよ」
こうして、雨宮桜と、人ならざる獣との歪な関係が始まった。




