細切れ肉
「バァ!」
ベギーデは男の横から、ひょいと視界に入り込んだ。
男と目を合わせると、目を細め、両手を後ろに回したまま体を近づける。
まるで、抱きしめてもらうのを待っているかのように。
男がベギーデを抱きしめると、彼女はギュッと目を閉じた。
そして、見上げていた顔を男の胸元に下ろし、今度は自分からも抱きしめ返す。
体重を前に預ける。
男が少しでも体を引けば、そのまま倒れ込んでしまいそうなほどに。
ベギーデはそのまま20秒ほど抱きしめられ、やがて再び男を見上げた。
「お兄ちゃんは優しいなぁ。私に優しくしてくれるなんて」
「えー、優しいよー」
男のそんな事無いという返答に対してベギーデはムッとした表情を見せる。
「知ってるでしょ? 私がゲヒュールだって!」
ベギーデは嬉しそうに続けた。
「私ね、優しさを感じ取れるんだよ!」
「だから、お兄ちゃんが優しいのも分かるんだ」
「ぽかぽかする。あったかい」
そこまで言うと、ベギーデは少しだけ目を細めた。
まるで、目の前の男に見惚れているかのような表情だった。
この人なら安心できる。
ずっとそばにいたい。
そう思っているかの様な顔だ
「アハハ、今日はお家に泊めてくれるんだったっけ!」
「もうちょっとだけ、ギュッとして」
ベギーデは男の匂いを嗅ぎ、ゆっくりと目を閉じた。
細切れの肉片になる者の、最後の夜だった。




