ベギーデ
雨宮桜と春は、買い物を終えて帰路についていた。
「ねぇ……本当に大丈夫?」
桜が心配そうに春の顔を覗き込む。
「桜ー、心配し過ぎ!」
襲われたのも記憶に新しい。桜が心配するのも無理はない。
そんな二人の前に、一人のゲヒュールが現れた。
「フェレ君! 久しぶり!」
ベギーデが春に向かって、親しげに声をかける。
「…………」
春は何も答えず、黙り込んだ。
「誰?」
桜が不思議そうに春へ尋ねる。
「皆からはベギーデって呼ばれてるけど、好きに呼んでいいよ!」
「フェレ君と同じゲヒュール仲間!」
ベギーデはくるりと一回転し明るく自己紹介する。
自分がゲヒュールであることを隠す気すらないようだ。
両手を後ろに組み、桜に近づきながら顔を見上げる。
桜と目が合うと、ベギーデは目を細め、嬉しそうに顔をくしゃっとさせた。
「春にも友達いたんだ。意外」
桜が意外そうに春を見る。
「お姉ちゃんとも仲良くしたいー」
ベギーデは桜に近寄ると、その腕を背中に回した。
一瞬だけ力を込め、安心したかのように身体の力を抜く。
桜は春と長く一緒にいる。
ゲヒュールが何のために可愛らしく振る舞うのかも知っている。
それなのに。
「ガオー!」
ベギーデは可愛らしい声を上げ、顔を桜の身体に密着させた。
「お姉ちゃん、駄目だよー。ゲヒュールにこんなに近づいちゃ! 食べちゃうぞ!」
ベギーデは桜を抱きしめたまま、無邪気にそう告げる。
「あ……うん、そうかも」
桜は曖昧に返事をした。
知識としては警戒すべき相手だと理解している。
だが、本能では目の前の相手を警戒できない。
それどころか、守ってあげるべき存在だとさえ感じてしまう。
一方、春は先程から黙ったままだった。
理由は単純だ。
勝ち目のない相手だからである。
弱体化した今の状態で、ベギーデに勝てるほど春は楽観的ではない。
逃げ切れるかどうかさえ怪しい。
(あれを使うか? いや、魔力の消費量が莫大すぎる……。できれば使いたくない)
春はベギーデを警戒しながら、対抗手段を考えていた。
「バイバイ!」
ベギーデは桜から離れると、手を振った。
「ん! バイバイ!」
桜も笑顔で手を振り返す。
春は何も言わず、去っていくベギーデの背中を見送っていた。




