死の予感
「桜、服ちょっと買いすぎじゃない?」
春は、雨宮桜が抱えている買い物袋を見ながら言った。自宅のクローゼットに服が増えていく光景を想像して、少し呆れたような表情を浮かべる。
「良いのー。女の子だからオシャレしないと」
「今日はご飯を買いに来たって言ったじゃん」
「いいじゃん……」
そんな他愛のない会話を交わしている二人の前に、銃を手にした男が歩いてくる。
犬飼透だ。
春は男の姿を認めると、特に驚く様子もなく口を開いた。
「ふーん、まぁ……僕たちは武器を隠したところで敵意が分かるから、ある意味正しいね!」
「だろ?」
犬飼が短く答えた。
直後、銃声が二度響く。
春の肩に傷が走った。
春は、なぜ犬飼が遠距離から狙撃しなかったのか、その理由に納得する。
マーキングの範囲内――つまり、このショッピングモール内であれば、春は殺気を感じ取ることができる。
そのため、20メートル以上離れた相手の攻撃であっても、ある程度は回避できる。
だが、犬飼は二丁の銃を使い、春が回避した先にもう一発を撃ち込んできた。
早撃ちを成立させるには、ある程度近づく必要があるのだろう。
春はすぐさま踵を返し、逃げ出した。
犬飼は出口へ向かう春の背中に銃口を向ける。
しかし、春が逃げ込んだのはトイレだった。
犬飼は足を止める。
トイレの構造上、逃げ場は限られている。入口を押さえれば、春が外へ出ることは難しいはずだ。
それなのに、なぜトイレに逃げ込んだ?
犬飼は奇襲の可能性を考慮し、すぐには踏み込まなかった。
しばらく入口の様子を窺い、最大限の警戒を保ったまま、ゆっくりとトイレの中へ足を踏み入れる。
奥には春が立っていた。
犬飼は銃を構えたまま、慎重に距離を詰める。
何しろ目の前にいる相手は、指鉄砲で人を殺せるような存在なのだ。警戒するに越したことはない。
そのとき、銃声が響いた。
しかし、春は動かなかった。
外した?
そう考えた直後、犬飼の身体がふらつく。
「……毒ガス?」
犬飼は思考を巡らせる。
こいつ、毒ガスまで作れたのか?
だが、すぐに別の可能性が浮かび、犬飼は背後を振り返った。
個室トイレの下から、液体が垂れている。
清掃用の洗剤を複数切り裂き、床にばら撒いたのだ。
だが、そこで犬飼は一つの疑問を抱く。
――何故、目の前のこいつは平然としている?
いや、違う。
そもそも、こいつは人間じゃない。
人間よりも長く息を止められたとしても、不思議ではない。
そこまで考えたところで、犬飼透の意識は途切れた。




