涙
少女は息を切らしながら路地裏を走っていた。
まるで、化け物から逃げ惑うかのように。
走る途中、足元の石に躓いて転倒する。膝から血が流れ、少女の目には涙が浮かんでいた。
そして、かすれた声で呟く。
「パパ……」
その声を聞いた瞬間、少女を追っていた者の動きが止まった。
直後、銃声が路地裏に響く。
少女の額に穴が空き、その身体が地面に崩れ落ちた。
「……先輩、殺さなくてもよかったんじゃないですか?」
女性隊員が、銃を構えたままの男性隊員を振り返る。
しかし、男性隊員は少女の遺体から目を離さず、冷たく言い放った。
「捕獲すればよかったと?」
「だって……可哀想じゃないですか」
女性隊員の言葉に、男性隊員は呆れたようにため息をついた。
「お前さぁ、馬鹿だろ。なんで銃をさっき降ろした?」
「いや……だって」
「考えてみろ。あのゲヒュールは足を負傷していて、まともに動ける状態じゃなかった。だからこそ、同情を誘って油断した瞬間に殺そうとしたんだよ」
「でも、あの顔……」
「人間みたいだったろ? 同情したろ?」
男性隊員は、ようやく女性隊員へと視線を向けた。
「何故だと思う?」
「……感情があるから、ですか?」
「あー……上手いよな。だって、何回も見てるんだから」
男性隊員は少女の遺体へ視線を戻す。
「人間が泣き叫ぶ姿をな」
「嘘だって言うんですか?」
女性隊員は納得できない様子で問い返す。
男性隊員は少しだけ間を置いてから、淡々と答えた。
「去年、こいつに殺された奴はな。信じるんじゃなかったって、泣きながら死んだよ」
「…………。」




