8月
8月――日
実家に帰ってきて――日目。
昨日は疲れていて、夕飯を食べたらすぐに眠ってしまった。
最近夕飯を食べたらすぐに寝てしまっている気がする。
やっぱりだいぶ体力落ちちゃったのかなあ。
つい最近までバリバリ現役高校生してたはずなんだけどなあ……
「兄貴、めしぃー」
二階の自室のベッドに座って、外を眺めていたらミズキに呼ばれた。
定位置で外を眺めるのは、実家でもアパートでも、ほとんどやっていることが変わらない。
ベッドから降りて、リビングに行こうと立ち上がる。
『――くん』
「…………?」
誰かに、呼ばれた。
なぜか既視感を感じる。
半年ぶりに実家に帰ってきたから、なつかしさに脳がバグってるのかな?
『――くん』
ふわっ、と。
風が吹いた。
窓を開けっぱなしにしていたようだ。
虫が入ると嫌なので窓を閉めてから降りよう。
田舎育ちとはいえ、虫は怖い。
「…………?」
窓の外に、見覚えのあるようなないような、何かを見た気がした。
けど気のせいだったようで何もなかった。
8月――日
「兄貴、めしぃー」
二階の自室のベッドに座って、外を眺めていたらミズキに呼ばれた。
定位置で外を眺めるのは、実家でもアパートでも、ほとんどやっていることが変わらない。
ベッドから降りて、リビングに行こうと立ち上がる。
『――くん』
「…………?」
誰かに、呼ばれた。
なぜか既視感を感じる。
半年ぶりに実家に帰ってきたから、なつかしさに脳がバグってるのかな?
『――くん』
ふわっ、と。
風が吹いた。
窓を開けっぱなしにしていたようだ。
虫が入ると嫌なので窓を閉めてから降りよう。
田舎育ちとはいえ、虫は怖い。
「…………うぅっ」
視界が揺らいだ。
強烈な既視感を感じる。
こんなこと――前にも……
ズキっと痛む頭を押さえながら窓に手をかけると、
「…………隣人さん?」
家から少し離れたところに、見覚えのある後姿が見えた。
見間違いようもない。
この半年で、ずっと見つめ続けてきた背中だった。
なぜだか咄嗟に身体が動いた。
「兄貴どこ行くの!?」
ボクが家を飛び出ると後ろから妹が叫んでいるのが聞こえる。
けど振り返ることなく隣人さんを追いかける。
追いかけても追いかけても追いつけない。
全力で走って、息が切れて動けなくなりそうでも、それでも追い続ける。
街を離れ、山へ入っていき、山道を転びそうになりながら追いかける。
するとあたりがひらけたところへ出た。
山の中の、それほど高くない場所。
そこは――
「…………墓?」
墓地だった。
立派な墓石がたくさん並び、各家庭のご先祖様を祀っている。
どこかを探せば我が家の墓石もどこかにあるはずだ。
『――待ってたよ』
とある墓石の前に、隣人さんが立っていた。
こちらを見て、にっこりとほほ笑んでいる。
「やあ隣人さん。こんなところで奇遇だね」
『ふふふ。ワタシも、里帰りってところかな』
もしかしたらボクは夢を見ているだけなのかもしれない。
だってこんなところに隣人さんがいるはずない。
隣人さんがいることに驚きながらも、ゆっくり近寄っていく。
背後の墓石に書いてある文字は、なぜか読めない。
「それにしても隣人さんと同郷だったなんて、驚きだなあ」
『そう? ワタシはそうでもなかったよ』
普段はかなり明るい派手めな服を着ている隣人さんが、今日は黒一色の、喪服のような服を着ていることに気づく。
誰か亡くなって帰ってきていたのかな?
こういうときってどういっていいのかわからなくて、とりあえず神妙な顔つきになって見せる。
『へへへ…………そんな顔しなくても大丈夫だよ。別に誰か亡くなったわけじゃないから』
「え? あ、そう?」
そういうわけじゃなかったみたいだ。
それなら普通にお墓参りってことか。
「そういえば隣人さんってどのあたり住んでたの?」
『んー? ふふふ。秘密です』
「そっか。残念」
なぜだか久しぶりにあった気がする。
そのせいかちょっとだけ、いや、ほんとちょっとだけなんだけどどんな会話をしていたか思い出せない。
ボクが少し居心地悪そうにしていると、
『ねえ、そろそろ帰ろ?』
隣人さんがボクの手を掴んだ。
「え? 実家に着いたばかりだよ?」
と答えるが、隣人さんは首を振った。
『ううん、キミが帰る場所は……ワタシのいるところだよ』
「アパートに、ってこと? うん、一緒に帰ろっか」
行きはひとりだったし帰りはふたりで、なんてロマンチックなことは言わないけど、一緒に帰れるなら一緒にがいいかな。
なんて思っていると、突風が吹いた。
さっきまで昼だったはずなのに、あたり一面が一気に暗くなり、ボクと隣人さんを闇に包んでいく。
そういえば、と感じた違和感が強烈になってきた。
隣人さんに触っているのに、体温を感じない気がする。
まさか…………
隣人さんは…………
もう…………
そこでボクの意識が落ちた。
目を覚ますと、実家ではなく、いつものアパートだった。
見慣れた天井。
見慣れた景色。
いつもの――。
夢、だった?
たしかボクは実家に帰っていたはず。
お盆だからって、わざわざ五時間ちょっとをかけて。
「あれ……おかしいなあ」
もしかして、里帰りの時期だけど、帰ろうかどうしようか悩んでいたボクに強烈な夢を見せていた、とか?
精神状態が夢に左右されるとはよく言われるけど実際目の当たりにすると本当だったんだなあと実感する。
「――お寝坊さん、やっと起きた」
ガチャリ、と玄関が開く。
玄関には両手いっぱいに袋を抱えた隣人さんが立っていた。
いつも通りニコニコと笑い、何をしていても楽しそうな優しい笑顔だ。
「おはよう隣人さん。今日はどうしたの?」
「なんと! なんと!!! 花火を買ってきたよー!!!」
「……え? どうして花火?」
「お盆と言えば花火! 花火と言えばお盆!」
どういうことだってばよ。
「まあまあいいじゃんいいじゃん! お盆って言えば花火するんだよ!」
ははーん。
さてはまたテレビの影響だな。
まったく、隣人さんはすぐテレビに影響されるんだから……
「じゃあ今夜花火しよっか」
「打ち上げ花火チキンレースしよっか! 先に逃げたほうが負けね!」
「いややらないけど」
「ガビーン!」
今回の里帰りは見送ろう。
両親と妹と幼馴染には申し訳ないけど、またそのうち帰ろう。
それに今はなぜか隣人さんと一緒にいたい気分だった。




