8月
八月 日
実家に帰ってきて――日目。
昨日は疲れていて、夕飯を食べたらすぐに眠ってしまった。
何泊かして帰る予定だったし帰省――日として、滑り出しは順調だったんじゃないかな。
てか、やっぱり久しぶりに長時間外出すると疲れる。
体力落ちちゃったかなあ。
つい最近まで現役高校生してたはずなんだけど……
「兄貴、めしぃー」
二階の自室のベッドに座って、外を眺めていたらミズキに呼ばれた。
定位置で外を眺めるのは、実家でもアパートでも、ほとんどやっていることが変わらない。
まあ人の習性とか行動を簡単に変えるのって難しいと思うんですよボクは。
べつに言い訳じゃないですよ言い訳じゃあ。
「いまいくー」
ほとんど寝間着姿のままでリビングに行ったらテーブルの上に何も置いてなかった。
あれ?
ご飯の時間になったわけじゃないの?
「お昼ご飯は?」
そう聞くとミズキが気だるげに「カレー」と答えた。
まだ残っていたのかカレー……
母さんはいったいどれだけ作ったんだ……
「しゃあない。温めなおすかー」
「兄貴任せた」
「…………おい妹よ」
「……なんでごいやしょう兄上どの」
「いちから料理しろとは言わないけど、もういい年齢なんだし、ナナちゃんみたいに料理のひとつやふたつくらいできるようにならないと」
「うぜー。兄貴うぜー。いいもんアタシはナナちゃんにご飯作ってもらうんだから」
「やれやれ……」
本当に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだよ。
ってあれ?
「母さんと父さんは? もしかして旅行にでも行った?」
「え、兄貴エスパー? なんでわかったん?」
「マジか」
雑誌から目を離して心底驚いた顔でボクを見るミズキ。
冗談のつもりで言ったんだけど本当に旅行に行ってるらしい。
「母さんも父さんも、相変わらず仲いいなあ」
帰ってきた息子を置いて旅行に行くくらいだから、事前に決まっていたのかもしれない。
ボクも急遽里帰りを決めて帰ってきたわけだし。
「とりあえずカレー温めなおすから」
「よろー」
…………?
あれ、おかしいな。
鍋に火をかけて、かき混ぜようと蓋を開けると、カレーに芋以外の具材が残っている。
母さんのカレーは具材溶け溶けのカレーだからこんなことはないんだけどな。
「ねえ兄貴まだー?」
「ああ、ごめんごめん。すぐ持っていくから」
たぶんミズキに聞いてもわからないだろうなあ。
もしかしたら家を留守にするから具材を足していたのかもしれない。
「ほらお待たせ。食べるから雑誌しまっとけよ」
「あーい」
席についてカレーを食べる。
おいしい。
おいしいけど、具材がたくさん入っていて、何が入っているのかよくわからない。
かろうじて人参とジャガイモはわかった。
他は、まるで冷蔵庫の中の材料をとにかく切って足しました、みたいな具材ばっかりだ。
ボクには好きはあっても嫌いはないので、気にせずに食べ進める。
「うぇー、アタシ――嫌い~」
「こら。好き嫌いせずに食べなさい」
「でも~」
「でもじゃなーい」
ミズキと、和気あいあいとカレーを食べる。
普段見ない生活を送っているからなのか、テレビはつける気にはなれなかった。
食後、お茶を飲もうと冷蔵庫を開ける。
いつも置いてある場所にお茶がない。
「あれー? ボクの麦茶は?」
「知らなーい。アタシが知ってるわけないじゃーん」
「それもそうか」
ということは、母さんが買い忘れてただけか。
ずっとボクいなかったし仕方ない。
この家では、ボクしか麦茶は飲まない。
みんな水かコーヒーか。
『――くん』
声がした。
また、だれかがボクを呼んでいるような気がした。
また?
ボクはいったいだれに呼ばれているんだろうか。
やっぱり幽霊なんだろうか。
お盆だから、幽霊が帰ってきているとか?
おお怖い怖い。
わからないまま、次第に気にしなくなっていって考えるのをやめた。




