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ボクと隣人さん。  作者: あさくらまひろ


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11月 隣人さんと秋の味覚

11月XX日


 ポケーッとマヌケヅラで、いつも通りボーっとしているボク。

 でも今回は部屋に寝転がって天井を見ているわけじゃない。


 聞いて驚きなさい。

 なんと今回は、揺りイスがあるのだー!

 隣人さんの知り合いがまだ使えるから捨てるにはもったいないということで、隣人さんがわざわざボクのためにもらってきてくれた。

 これを部屋に置いてからはボクの定位置は床からイスへとランクアップ。

 気分はまるでお金持ちさ。


 え?

 違う?

 お金持ちってだいたいこういうイスに座ってるもんじゃないの?


「どちらかといえばおばあちゃんが座ってるイメージかなあ?」


 ボクがイスでとろけているのを見て苦笑いしている隣人さん。


「えー、失礼な。これはロッキングチェアっていう立派なおしゃれ家具だよ?」


「なんでワタシより詳しいのかなあ? そんなことより今日はお目当てがあるの!」


「ん? お目当て?」


 首を傾げると、隣人さんはドヤ顔で背中に隠していた紙袋を差し出してきた。

 カサカサと音を立てる袋の中からは、ほんのり泥の匂いと、太いサツマイモがいくつか顔を覗かせている。


「じゃーん! さつまいも~! 秋と言ったらやっぱりこれでしょー!」


「おぉ~焼き芋かー」


「正解! 近所のおじいちゃんから落ち葉集めを手伝ったら、お礼にっていっぱい貰っちゃった! というわけで、これからお庭で焚き火して焼き芋作るよ! 焼き芋パーティーだよ!」


「バーベキューはよかったけど、地面に直火は大丈夫かなあ?」


「大丈夫! こんなこともあろうかとすでに許可を取っているのだよワトソン君!」


 誰がワトソン君だ。

 まあホームズではないことは確かか。


 それにしても相変わらず隣人さんの行動力とコミュニケーション能力には頭が下がる。

 ボクがゆらゆらと揺り椅子から立ち上がると、隣人さんは嬉しそうにボクの背中を押した。


「ささ、お金持ちさんも働いてくださーい。 落ち葉集めはもう終わってるから、あとは火をおこすだけ!」


 外に出ると、十一月の風はすっかり冷たくなっていた。

 隣人さんは「ふぅー」と白い息を吐きながら、踊るように階段を降りていく。

 集めた落ち葉で山を作るとマッチで火をつける。

 小さな炎がカサついた葉っぱを舐め、パチパチと心地よい音を立てて広がり始めた。


「煙、そっち行ってない?」


「大丈夫だよ。それにしても……なんか、落ち着く匂いだね」


「でしょ! 秋といえばやっぱりこれだよね!」


 アルミホイルで厳重に包んだサツマイモを、隣人さんが手際よく火のくべられた葉っぱの中に放り込む。

 二人で焚き火の囲み、小さく立ち上る煙を眺める。


「ねえ、隣人さん」


「んー?」


「いつもありがとね」


「なに言ってるの。ボクくんはそこにいて、ゆらゆら揺れて笑っててくれればそれでいいんだよ」


 隣人さんはそう言って、焚き火の赤みを見つめたまま、やわらかく微笑んだ。

 その横顔が、どこか遠くを見ているみたいで。

 ボクはなんとなく、ポケットの中で自分の手を開いて、閉じた。

 焚き火の熱が顔に当たって温かいはずなのに、自分の指先はずっと冷たいままのような気がした。

 ボクってこんなに冷え性だったかな?


「よし! そろそろ焼けたかな!?」


 しんみりした空気を吹き飛ばすように、隣人さんが火挟みでアルミホイルを取り出す。

 焦げたホイルを剥がすと、黄金色の実が紫の隙間から見える。

 隣人さんは熱そうに右手左手と、芋をポイポイと転がしている。

 半分に割ると湯気が立ち上り、甘い香りがアパート周辺に広がった。


「うわぁ……めちゃくちゃ美味しそう」


「ふふん、大成功! ほら、熱いから気をつけてね」


 熱々の片方をボクに差し出してくれた。

 そのとき、一瞬だけ隣人さんの指がボクの手に触れる。


「……あ」


 隣人さんが一瞬、寂しそうな顔をした。

 どうしたんだろうか?

 少し心配になって顔を見つめていると、隣人さんがふいっと顔をそらした。

 けどそんな顔もすぐに、いつものとびきりの笑顔に戻った。

 何かあるなら本人の口からそのうち言ってくるだろう。

 気にする必要はないか……


「冷めないうちに、早くたべよ!」


「……うん。いただきます」


 はふはふと息を吹きかけながら食べた焼き芋は、びっくりするくらい甘くて、砂糖でもなめているんじゃないかと錯覚するほどだった。

 それに濃厚でねっとりとした口あたりが、このままゴマでも振ってスイートポテトですって出されてもわからないほどだ。


「こんなにおいしいお芋、初めてかも。隣人さんは芋焼き名人かもしれないね」


「へへへ……そうでしょうとも! なんと! この日のために! 地域のボランティアで何回も焼き芋会に参加してきたのだー!」


「すっごい熱意だ……」


 自信満々に胸を張る隣人さん。

 凄すぎるよ。

 さすがにその熱意は凄すぎるよ。

 いくら何でもそこまで焼き芋に熱くなれないよ。


「ワタシは何事にも全力投球! 一撃必殺! 先手必勝!」


「すごいや。対戦ゲームで受けループを使ってる人とは思えないや」


 こんなに熱血系なのに、なんでゲームの対人戦になると耐久型になるの?

 こうして楽しい時間は過ぎていく。

 秋の日の楽しい楽しい一頁。

 きっと、これから秋になると、思い出すんだろうね。





 けど、ボクはまだ、この日を境に隣人さんとは、距離があいてしまうことになるとは思っていなかった。

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