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ボクと隣人さん。  作者: あさくらまひろ


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8月 ―――①

8月XX日


 ガタンガタン。

 どこまでも走り続ける電車。

 かれこれ四時間は乗っていると思う。

 最近は、なんだかんだで隣人さんとよく一緒にいるので、ぼーっとしている時間が短くなったと思う。

 なんでぼーっとしていたのかも、今となってはあまり覚えていない。

 何も考えることなく、ただただ電車の窓に頭をもたれかからせ、ずっと外を眺めている。

 アパートの部屋で天井を眺めている時とは違って、どんどん景色が変わっていく。


 街中を走り、山を走り、トンネルを抜け、海が見える。


 今住んでいる場所には海がないので、海を見ると、地元に帰ってきたんだなあと、なんとなく思う。


 もうわかったかもしれないけど、ボクの地元は、海沿いの小さな町。

 人口もそれほどいない。

 都会の学校の生徒数のほうが多いんじゃないかな?


 人口が少ないので卒業すれば、地元で就職する場合、ほとんどエスカレーター式で知り合いの会社、みたいなところはある。

 そういえば妹は都会に出て働くことが夢だったな。

 幼馴染も、町から出てひとり暮らししてみたいって言ってたか……


 まだ地元を出て半年も経っていないはずなのに、なんだかもう何年も前だったかのように全部が懐かしく感じられる。


『次は~〇〇~。次は~〇〇~』


 感傷に浸っているともう着いたようだ。

 時刻は午後四時。

 電車を乗り継いで、片道約五時間ちょっとの道のり。

 同じ日本国内のはずなのに、県をまたいで帰ってくるだけでこんなに時間がかかるんだね。


 電車がゆっくり減速していき、次第に停車していく。

 完全に停車してから、座席から立ち上がり、長旅でバキバキになった体をほぐすように、伸びしながら下りる。


 潮の香りが、帰ってきたのだと、ボクの脳に強制的に実感を与えてくる。

 この電車は、町から出る時にしか誰も乗らない。

 なので最後にここから海を見たのは半年前。

 けれど、しばらく海から離れていたということもあって、この海特有の香りがくすぐったく感じる。


「ただいま」


 ちょっと気取っていってみる。

 すると、


「おかえり」


 声がした。

 そちらを見てみると妹のミズキが立っていた。

 半年前に見たときと何も変わらない姿で。


「ただいま。元気してた?」

「もちのろんでしょ」


 ニシシといたずらっぽく笑った。

 相変わらずでよかった。


 ボクと妹は三つ離れた兄妹だ。

 年齢が三つ離れていると、世代が違って、もう完全にまったく別の生き物だ。

 小さい頃は同じアニメを見て漫画を見て、もちろんテレビも同じように見るので話題が尽きなかったけど、いつしか趣味も見る番組も違ってきて、少し距離のある兄弟になったんだっけ。


「おにーさん! おかえりなさい!」


 ボクとミズキが駅から出ると、女の子が待っていた。

 幼馴染ちゃん――ナナちゃんだ。

 いや、正確にはボクのじゃなくて、妹の幼馴染だ。

 ミズキの数少ない友人で、ちっちゃいころからよくウチに泊まりにくるほど仲がいい。

 そんなわけもあって、おまけ程度にボクともほどほどに仲がいい。 


「こんにちは。あとただいま。ナナちゃんは相変わらずかわいいね」


「へへへ~、おにーさんそんなこといっても何も出ないですよ~?」


「あ、バカ兄貴! ナナちゃんはアタシのだかんね!?」


 照れてクネクネするナナちゃんとプンプン怒っているミズキ。

 仲がいいのはいいことだけど、百合だのレズだの、あんまりいい目で見られないぞ。


「ほら、バカやってないで早く帰るぞ」


「はーい」


「は、はい!」


 二人に呆れて、家に向かって歩き出すとその後ろを二人がついてきた。

 ボクが前でミズキたちが後ろで。

 この構図は懐かしいな。


「あ、今日の夜ごはんは兄貴の大好きなカレーだって!」


「お、カレーか。楽しみだなあ。母さんのカレー。あのカレー食いに帰ってきたところあるもんな」


「兄貴そんなこと言ってていいの~?」


 ミズキが二ヒヒ~と笑っている。

 何かを企んでいるなこいつ。


「なんだよ? なんかあんの?」


 ボクが聞くと、ナナちゃんが手をもじもじさせていた。

 どうしたんだろうか?


「ババン! 実は、今日のカレーは母さんじゃなくてナナちゃんが作るのでしたー!!」

「おにーさんにおいしくたべてもらえるようにがんばってつくります!」


 重大発表を受けて、ナナちゃんが照れくさそうに顔を真っ赤にしていた。

 な、なんだってー!?


「ナナちゃんが作ってくれるの? うれしいなあ」


 ナナちゃんの料理スキルを知っているボクは、表情を読み取られないように全力で取り繕う。


「…………本当にそう思ってる?」


 ミズキがボクの顔を覗き込んでくる。

 目を合わさないよう、しれーっと目をそらした。


「…………ええ、思っておりますとも」


「ほんとかな~?」


「ほ、ほんと――ってあれ?」


 駅から家までの道を歩いていて、道中で見慣れない建物が目に入って立ち止まった。

 真新しい建物はトラックが出入りしていて、工場のように見える。

 そもそもここに何があったっけ?


「ここにこんなのあったっけ?」


「ん~? あー、ここかー」


 ミズキは知っているようだった。


「知らない間にできてたー」


「は?」


「は、はい。ワタシも、知りませんでした……」


 知らない間って、そんなことあるのか……?


 外からパッと見る限りでは、ここ半年で出来たわけじゃなさそうだった。

 つまりボクがここを離れる前からあった工場というわけだ。

 でも記憶にない。

 こんなに大きな建物を見落とすはずないし……


 駄目だ。

 思い出せない。

 もしかしてボクって、興味ないことは興味なさ過ぎて全然覚えてない? 


 ふ……興味ないね。

 なんてどこのソルジャーですかって話。


「ま、まあ普通の工場っぽいし、ボクたちに関係ない建物だから覚えてなかっただけだよきっと」


「そうだよそうだよ」


「ですね」


 気を取り直して、家へ向けて再び歩き出す。


 ただ――本当に、記憶にないのが引っかかる。


 興味がないにしても、新しくできるなら覚えてるもんだけどなあ。








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