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ボクと隣人さん。  作者: あさくらまひろ


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7月 隣人さんと家電量販店

7月XX日


 セミ来る!

 網戸にして寝ていたけどセミがうるさすぎて夜しか眠れない。

 なのでとうとう隣人さんと一緒に扇風機を買いに行くことにした。

 駅前に新しくできたショッピングモールの中に入っている大型家電量販店!


 一度は行ってみたかったんだよね。

 ほら、ショッピングモールって、ひとりで歩いていても変な目で見られないじゃん?

 それに涼しい。

 地元にいたころに同じショッピングモールがあったら、たぶん地域住民全員そこにしか行かなくなるんじゃないかな?


 いつになく外出に乗り気なボクがおかしいのか、隣人さんは何やらケラケラ笑っている。


「なにさ? ボクだってたまには外に出るんだから、そんなに笑うことないんじゃない?」


 ちょっと不満そうにいうと、焦った様子でパタパタ手を振った。


「違うよ。ほら、その恰好がおかしくて!」


 言われて自分の服装を見る。

 麦わら帽子にサングラス、アロハシャツ、短パン、そしてサンダル。

 うちわを片手にパタパタ仰いでいる。

 どこからどう見ても、夏の、夏らしい装備だ。


「地元じゃ普通だったんだけど……」


「…………え、そんなことあったかなぁ?」


 隣人さんが考え込むようにして、ボソッと何か言っていた。

 聞き取れた限りでは「そんなことあるかなあ」と言っていた。

 残念ながらそんなことあるんだよ。


 ボクの指摘したファッションに対して、隣人さんは、明るいミント色のシャツに、白いフレアスカートを履いている。

 うん、今日も似合っている。

 地味目の服も似合うけど、今日みたいな清楚系? な服装も似合うね。


「まあ隣人さんほど美人でザ・都会人! みたいな人にはこのファッションがわからんのですよ。これぞ地元の最先端ですよ最先端。ボクこそがファッションリーダーだって、よく妹も幼馴染の女の子も言ってましたよ」


「え」


 そう言うと隣人さんの顔が固まった。

 もしかして地元丸々ファッションがなかったのか?

 だからセンスのなさにビックリしたのか?


「き、きっと妹さんも幼馴染さんも、そのときは本当にそう思ってたんじゃないかなあ~?」


 歯磨き粉を最後まで使う時くらい頑張って言葉を絞り出す隣人さん。

 フォローがフォローになってないですよ。


「さささ、気を取り直して扇風機!」


「まあ……いいんだけどね。そうだったんだね……ボクはセンスがなかったんだね……」


 落ち込むボクの手を強引に隣人さんが引っ張って、ショッピングモールの中に入る。

 外とは違って空調完璧でかなり涼しい。

 ここで生活したいくらいだ。

 いや、もうここで生活すればよくない?

 よく海外の警察番組でショッピングモールの死角に住処を作って住んでましたーとか聞くし。


「ほら。家電量販店は入ってすぐそこにあるっぽいよ!」


 隣人さんが指さすほうを見ると、入り口から入ってすぐの場所にお店があった。

 時期が時期だからだろう。

 家電量販店の出入り口には、クーラーの広告チラシがたくさん貼ってある。

 クーラーを導入するのもいいけど、残念ながらそんなお金はない。

 買うのに二十万円くらいと、さらに設置費もとるだなんて、ボクが払えるわけないよ。

 ただでさえ今だって隣人さんのご飯で生活してるのに……


「そういえば、新しい炊飯器も見たいから先に扇風機だけ選んでてくれる?」


「うん、わかったよ。じゃあ先にいってるね」


 ボクと隣人さんは途中で各々が欲しいもののところへ向かった。

 ついていかないよ?

 なんてったって、扇風機売り場は扇風機が回ってて涼しいからね!!


『いらっしゃあせー! 今なら冷房設備関連が二割引き! ポイントも大幅還元! っしゃあせー!』


 涼をとりに向かってると、熱を感じる声がボクを出迎える。

 店内の売場案内通りに扇風機が置いてある場所に行くと、店員さんが声を張って声掛けしていた。

 必要なときはこっちから声をかけたい派のボクは、声をかけられるのも嫌なので、気配を消しながら興味ないふりして店員さんの前を素通りする。

 店員さんも空気を察してかボクには声をかけなかった。


 扇風機をいろいろ見る。

 小型のサーキュレータータイプ? とか昔ながらの置き型の扇風機とか、羽根のないやつとか。

 迷わず昔ながらのを選ぶ。

 なんたって安い。

 涼しいんだったら一番安いやつでいい。

 でも値段は数百円程度の違いしかないのに、同じタイプでもたくさん種類がある。

 どこが違うのか全然違いがわからない。


「あの、すみません。ちょっと聞きたいんですけど――」


『今なら大特価! 夏本番が来る前に買わなきゃ損損! さあそこ行くお姉さんどうですか? ちょっとでも涼んでいきませんか!!』


「あの――」


『今こそ買い替え時! さあさあ買わなくても寄って涼んでいってぜひ性能を確かめて――!!』


 ボクが声をかけているけどまったく気づいていないようだった。

 これほど呼び込みに熱が入ってるんだから、きっと夏のボーナスがかかってるんだろう。

 どうせ性能を聞いたところで安いのを買うことになるんだし、忙しそうだし、別に聞かなくてもいいや。

 隣人さんが戻ってくるまで思う存分涼んでおこう。


 大人しく待つことおよそ十分。

 炊飯器を大事そうに両手で抱きしめた隣人さんが売場にやってきた。


「ねえ見てこれ! 土鍋炊きでふっくらおいしい炊飯器だって! 魔法瓶だから保温でカチカチにならないみたいだよ!」


 嬉しそうに抱えるそれは虎印の炊飯器だった。

 めっちゃ高いやつ。

 お値段なんと約十五万円。

 そんな炊飯器買うの?

 いや、別にいいんだけどさ……


「普段のご飯もおいしいけど、もっとおいしくなるってことでいいのかな?」


「え!? お料理上手でお嫁さんにほしいだって!? いやあ照れちゃうよ~」


 捏造が過ぎる。

 そんなこと、一言も言っていない。


「そういうキミはどの扇風機にするか決まったの?」


「うん。この安いのにするよ。念のため店員さんに違いを聞きたかったんだけど、忙しいみたいで……」


 スルーされちゃったんだよね。


「ま、まあそういうこともあるよ! 店員さんも、忙しいみたいだからね!」


 なんだか慌てている様子の隣人さんが、困った顔で苦笑いするように笑っている。

 …………もしかして、ボクがコミュ障だから本当は声かけてないって思ってる?

 よし、もう一回トライだ。

 隣人さんの目の前で話しかけたら、本当に無視されたってことがわかるはずだ。


「わああーれええーわああーれええーはああーうううちゅぅぅーじぃぃんだあああああ」


 さっきの店員さんは忙しそうだったので、きょろきょろほかの店員さんを探しているとまた隣人さんが変なことをし始めた。

 扇風機に向かって、子供がよくする宇宙人ごっこだ。

 懐かしい。

 これがしたくて実家ではよく、妹と幼馴染と扇風機の前を奪いあってたな。


「隣人さん、それが許されるのは小学生までだよ……」


「えぇ!? そんなことないよ……ないよね?」


 でもさすがに懐かしくても、いい歳した女性が外でやるのは恥ずかしいと思う。


「……帰ったら、家でならいいと思うよ? さすがに外だと、ボクまで恥ずかしいよ」


「ガビーン!」


 ガビーンという効果音が似合いそうなポーズで、本当に口に出して言う隣人さんを置いて、新品の扇風機が入った箱を持ってレジへ向かう。

 そのあとを焦った様子で隣人さんが追いかけてきた。


「あ! 待って! ワタシがレジに持っていくから! キミは入り口のベンチで待ってて!!」


「え……? いやでも……」


「お願いだから……」


 いったいどうしたんだろうか?

 隣人さんがいつになく真剣で、とても深刻な顔をしている気がする。

 その気迫に気圧されて、ボクは仕方なくベンチで座って待つことにした。

 買い物くらいひとりでできるんだけどなあ。

 もしかして隣人さんの中ではボクは十九歳の大人じゃなくて、子供みたいな扱いなのかな?

 それはそれでちょっと、いや、かなりショックなんだけど……


 思わぬ事実に頭を抱えてベンチに座っていると、


「お待たせ!」


 元気よく隣人さんがやってきた。

 左手に炊飯器の箱。

 右手に扇風機の箱。

 箱をヒモで縛って、片手でも持てるようにしているようだった。


「ジャジャーン! 実は扇風機はキミの誕生日プレゼントだよ!」


「え、いいの!? やったーうれしいなあ」


 どうやら扇風機を誕生日プレゼントにするために、支払いをさせないためにボクをレジに行かせなかったみたいだ。

 たぶんレジに行っていたら、誕生日プレゼントだって言われても、「いやいや申し訳ないから払うよ」「プレゼントだから!」「払うよ」「プレゼントだから!」という不毛な戦いが始まっていたかもしれない。

 それを見越してだったか……

 勝手に勘違いして、恥ずかしいや。


「本当に、嬉しいよ。なんかこうやって誰かからプレゼントもらったの、めっちゃ久しぶりかも」


「そう? だったら嬉しいな」


「うん。本当に、ありがと」


 嬉しい気持ちでいっぱいになりながらショッピングモールを後にした。



 外に出ると、ショッピングモールとの温度差でやられそうだった。

 ボクと隣人さんは仲良く、大きな箱を持ってアパートへと帰るのだった。




 そういえば………………






 隣人さんは………………




 いつ………………






 ボクの誕生日を知ったんだろうか?

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