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23 セレナの日記

王国暦1023年 雪華の月7日


今日はリリアが「一緒に外へ行こう」と誘ってくれました。

本当は……わたくしも一緒に行きたかったです。

けれど、アウレリアを捨てることは出来ません。

この家には千年以上続く使命があります。

その役目を放棄することだけは、わたくしには出来ませんでした。

リリアは好奇心旺盛で、誰にも縛られない子です。

あの子には自由な空がよく似合います。

きっと外の世界でも、リリアらしく笑って過ごしていけるでしょう。

お父様はリリアが家を出たことを、とてもお怒りでした。

けれど、それだけリリアのことを大切に思っておられるのだと信じています。

いつか以前のような、優しいお父様に戻ってくださる日が来ると信じています。

リリアがいなくなって、とても寂しいです。

でも、あの子が何者にも縛られず、幸せに暮らしていてくれることが、わたくしの一番の願いです。


追記:この日から、わたくしは物置部屋で暮らすことになりました。



王国暦1024年 花咲きの月15日


今日はアルフレッド殿下が屋敷まで会いに来てくださったそうです。

殿下にお会いするのは、二年ぶりです。

久しぶりにお会い出来ると思っていたので嬉しかったのですが……

わたくしがそのことを知ったのは、殿下がお帰りになる直前でした。

殿下は何度もお手紙を送ってくださっていたそうです。

けれど、わたくしは一通も受け取っておりません。

応接室ではエミリアがお相手をしていたそうで、フェリクスも今日は珍しくお使いで屋敷を離れていました。

急いで会いに行くと、殿下は「事前に手紙を送ったのに、なぜ返事をくれなかった」とお怒りでした。

わたくしは手紙を受け取っていないと申し上げましたが、信じていただけませんでした。

とても悲しかったです。



王国暦1026年 金色の月17日


今日は久しぶりに外出のお許しをいただきました。

孤児院や修道院の皆さまに会いに行こうと思い、フェリクスへ馬車の用意をお願いしました。

支度をしている途中、階段でエミリアと会いました。

「みすぼらしい服」と笑われました。

新しい服はありません。

着ているのは、お母様のお洋服をわたくしが仕立て直したものです。

形見でもある大切なお洋服なので、そのことを伝えました。

するとエミリアは「当てつけなのね」と怒り、お洋服を破ろうとしました。

止めようとして揉み合いになった、その時です。

ちょうど戻ってきたフェリクスの目の前で、エミリアは自ら階段から落ちました。

フェリクスが抱き止めました。

エミリアは泣きながら「お姉様に突き落とされました」と言いました。

違います。

わたくしは押しておりません。

そう何度も申し上げましたが、フェリクスはわたくしを見ることなく、失望したような目を向け、エミリアを抱き上げてそのまま医師のもとへ向かいました。

屋敷で唯一、味方でいてくださると思っていたフェリクスまで……

今日は、とても悲しい一日でした。



王国暦1028年 花咲きの月1日


今日はセレスティア魔導学院の入学式でした。

総合首席ということで、新入生代表の挨拶をお願いされましたが、お断りいたしました。

アルフレッド殿下がいらっしゃるのに、わたくしが前に出るべきではないと思ったからです。

殿下のご挨拶は、とても立派でした。

その後、アルヴィン様、ヴィクトル様、ガイアス様がお祝いのお言葉をくださいました。

ガイアス様から、リリアが元気に暮らしていると伺いました。

自由に、リリアらしく過ごしていると聞けて、本当に嬉しかったです。

この数年で、一番嬉しい日になりました。



王国暦1028年 夏空の月10日


今日は校外演習がありました。

数日後の実技試験に向けた素材採集が目的です。

魔獣はほとんど現れない森ですが、人喰い植物や毒を持つ植物には十分注意しなければなりません。

演習中、とても珍しい毒花を見つけました。

強い毒を持っていますが、適切に処理すれば優れた治癒薬になる貴重なお花です。

摘み取る前に魔力を与えなければならず、無理に触れると猛毒を吐いてしまいます。

わたくしが魔力を流していると、エミリアが近づいてきました。

危険です、と何度もお止めしました。

ですが、エミリアはそのまま手を伸ばし、毒を浴びてしまいました。

すぐに治癒魔法を施したので命に別状はありませんでした。

騒ぎを聞いて殿下たちも駆けつけられました。

するとエミリアは泣きながら、わたくしが摘み取るよう命じたと仰いました。

違います。

わたくしは止めました。

けれど、誰も信じてくださいませんでした。

「忠告したのなら、触るはずがない。」

皆さまはそう仰いました。

悲しい一日でした。



王国暦1028年 実りの月24日


以前、ガイアス様との訓練を終えたレオンハルト様をお見かけしました。

全身が傷だらけでした。

けれど、レオンハルト様は誰よりも努力を惜しまない方です。

幼い頃、リリアに何度打ち負かされても、食らいつき、本気で打ち勝とうとしていた唯一の人物でもあります。

そのお姿を思い出し、打ち身や裂傷によく効く薬を調合しました。

直接お渡しすると気を遣わせてしまうと思い、練習仲間の方へ「誰からとは言わず、自然に渡してください」とお願いしました。

今日、偶然レオンハルト様とエミリアがお話しされているところを見かけました。

レオンハルト様は、あのお薬のお礼をエミリアへ伝えていました。

エミリアは微笑みながら「当然のことですわ」と仰っていました。

……あのお薬は、わたくしが作ったものです。

けれど、お二人が笑顔だったので、それで良いのだと思うことにしました。



王国暦1028年 紅葉の月26日


昨夜は十五夜でした。

今日は、とても嬉しいことがありました。

幼い頃、カイン様と「いつか二人で月涙花(げつるいか)を咲かせましょう」と約束をしました。

何度も失敗を繰り返し、もう咲かないのではないかと思ったこともありました。

それでも諦めずに育て続け、ようやく一輪だけ花が咲きました。

王国でも滅多に咲かない、とても貴重なお花です。

見た目は少し恐ろしいですが、その毒を正しく精製すれば、最上級の治癒薬や解毒薬になるそうです。

きっとカイン様も喜んでくださると思い、大切に抱えて研究室へ向かいました。

ですが、エミリアは月涙花を見るなり悲鳴を上げました。

その拍子に、カイン様は植木鉢を取り落としてしまいました。

鉢は砕け、ようやく咲いた月涙花は床へ落ちました。

わたくしは動くことが出来ませんでした。

エミリアは、その花を踏みつけたまま去っていきました。

三年間、毎日魔力を注ぎ続けて育てた花でした。

どうして涙が出たのか、自分でも分かりません。



王国暦1028年 星灯の月20日


今日はユリウス様とお話しする機会がありました。

最近、お疲れのように見えたので、幼い頃によく皆さまで集まった秘密基地へ行きませんかとお誘いしました。

けれど、「今日は予定がある」とお断りになられました。

残念でしたが、ご都合があるのですから仕方ありません。

帰り道、ふと秘密基地の方を見ると、ユリウス様がエミリアを案内していました。

あの場所は、わたくしたち幼なじみだけの秘密でした。

皆さまで星を眺めたり、お菓子を持ち寄ったり、他愛のない話をして笑い合った、大切な思い出の場所です。

「この場所は僕たちだけの秘密だよ。」

そう言って笑っていたユリウス様のお顔を、今でも覚えています。

もう、あの秘密は秘密ではなくなってしまいました。

少しだけ寂しい一日でした。



王国暦1029年 始まりの月7日


今日は卒業式でした。

最高学年であるアルヴィン様、ヴィクトル様、ガイアス様が学院をご卒業されました。

初めての創立記念大舞踏会では、緊張するわたくしを優しく導いてくださいました。

学院生活でも、いつも気にかけてくださり、何度も助けていただきました。

今日は、お三方の新しい門出です。

寂しくはありますが、笑顔でお見送りしようと決めていました。

「何があっても、私たちは君の味方だ。」

そう言ってくださった時、涙が止まりませんでした。

お三方が学院の門をくぐり、新しい道へ歩いて行かれるお姿を見送りました。

これからは、わたくしもしっかりしなければなりません。

お三方に胸を張って再会できるよう、精一杯頑張ろうと思います。



王国暦1029年 陽炎の月12日


今日は、アルフレッド殿下に呼び出されました。

エミリアを虐めたと仰られました。

身に覚えはありません。

何度違うと申し上げても、誰も信じてくださいませんでした。

レオンハルト様も。

ユリウス様も。

カイン様も。

フェリクスも。

皆さま、エミリアのお言葉だけを信じておられます。

いつからなのでしょう。

わたくしの言葉は、誰にも届かなくなってしまいました。

皆さまの目に、今のわたくしはどう映っているのでしょうか。

少しだけ……怖くなりました。



王国暦1029年 黄金の月3日


もうすぐ創立記念大舞踏会です。

少し、疲れてしまいました。

信じることも。

期待することも。

アルフレッド殿下は、きっとエミリアとの未来を望んでおられるのでしょう。

舞踏会が終わりましたら、お父様へ婚約解消をお願いしようと思います。

フェリクスも、エミリアにお譲りします。

わたくしのことを必要としてくださる方は、もうどこにもいないようです……

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