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アパートに住む僕と隣人のデスゲームスタッフ  作者: そばあきな
デスゲームスタッフの私とアパートに住む一般人
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7/9

1話

*隣人視点の話です(本編読了推奨)

 私が中学生の時に、父は蒸発した。

 小学生の時に母が病気で死んでいたので、それからは高校生の姉と二人きりで生活していくことになった。


 記憶の中の父は、物事に無頓着で、よく物を散らかしては姉に怒られている印象が強かった。

 けれど、不必要に干渉せず、子供に暴力を振るうこともなかったので、ちょっとだらしないところはあるものの、いい父だったのだろうと思う。私たち姉弟を静かに見守る、室内に置かれた観葉植物のような人だった。

 蒸発する前日も、父の様子は特に変わりはなかったように思えたので、初めは事件性も疑われたが、身代金の要求などの電話も来なかったので、そのまま行方不明扱いになってしまった。

 おそらく姉も周りも、父の蒸発の理由を知らなかっただろう。


 しかし、私だけは父が蒸発した理由を知っていた。


 部屋の隅に積まれた雑誌の間に挟まれていた、父宛ての封筒。

 その中には、口外禁止の時給の高いアルバイトの案内が書かれていた。

 文章の最後には「読み終えたら裁断するか燃やすなどし、書類を残さないようにお願いします」としめられていた。それが目に見える形でまだ存在しているという事実が、書いていることをろくに読まない父らしいと、一人思った。

 うちには確かに余裕があるほどのお金はなかったけれど、こんなものに手を出すほどまで困っていたのだろうか。口外禁止の時給の高いアルバイトなんて、どう考えても怪しいはずなのに。

 いくら考えても、その時の父の心情を知るすべはなかった。


 そして、書類を見て怪しげな仕事があると知った私はというと、そこに書かれていた会場へと足を運んでいた。

 幸いにも、会場にはまだ人が残っていた。復讐をしに来たわけでも、通報するわけでもなく、ただただ単身で乗り込んだ私の姿に動揺していた運営たちに対し、一言伝えた。


「高校を卒業したら、ここの社員として働かせてもらえませんか?」


 父が蒸発した時、姉は高校三年生で、すでに就職先が決まっていた。

 だから生活が安心というわけでもないのに、姉は「稼ぎは任せて」と私に向けて微笑んでいた。

 私は姉の重りになりたくなかった。姉が仕事で得たお金は、姉自身のために使って欲しかった。

 だから私は、一刻も早く就職先を決めて自立しようと思ったのだ。


 上層部での話し合いを経た結果、私は高校卒業後に社員として雇ってもらえることになった。

 要求がのまれず消されることも考えたけれど、ここに来る前に私が誰かに告げ口をしていたら、行方不明になった時点でどっちみち通報されるから、運営側も下手な対応はできなかったのだろう。それなら、要求をのんで監視できるところに置いていた方が安心というものだ。

 渡された契約書に目を通し、自分の名前を記入する。

 今回は父の無頓着さに救われたけれど、今後はルールが破られることがあってはならない。

 これから職場になるこの場所が、すぐに倒産して無職で放り出されることのないよう、私はペンを持つ手に力を込めた。


 それからは、口封じでデスゲームに参加させられることなく、バイトで生活費を稼ぎながら平和な学生生活を送っていた。

 もちろん就職先がデスゲーム運営会社などとは誰にも言っていない。

 周りが大学進学だの就職活動だの言っている中で、すでに進路が決まっているのは楽だなと思った。


 ただ、姉にだけは、高校卒業後に仕事の関係上行方不明になること、連絡はとれないが元気にしていることなどをあらかじめ伝えた。

 私の話を聞き終えた姉は一言「スパイでもやるの?」と笑っていた。

 まあそんな感じ、と返し、姉とは高校の卒業式の日で別れた。


 それからは、会社の社宅に住んで、誰も知らない街で暮らすことにした。

 万が一この仕事が明るみになって捕まるようなことがあった時、「高校を卒業して以降、連絡を取っていない弟」よりは「高校を卒業して以降行方不明になり、生死も分からない弟」の方が、姉には迷惑をかけないと思ったのだ。


 だけど、姉にとっては、相談できる相手を減らすことになり、結果的に追い詰めてしまったのだろうか。



 次に姉の話を聞いたのは、ニュースの中だった。

 親切にした高校生を拉致監禁したが、罪の意識に耐えられなくなり、最終的に自ら命を絶った被疑者として、姉の名前は伝えられていた。

 別に身内だからと、姉のやったことを正当化するつもりはなかった。

 実際に拉致監禁された高校生だっているのだから。

 この事件が起きる前に、姉は長い間付き合っていた恋人に浮気されて捨てられていた、というのは、モザイクで配慮された姉の働く職場の同僚へのインタビューで知った。

 きっと、姉は寂しかったのだろう。

 テレビの中で聞く姉の様子は、随分と可哀想に思えた。



 母は病気で死に、父も蒸発――実際はデスゲームに参加――して行方不明、弟も高校卒業後に行方不明――私自身は実際には生きているけれど――で、他の身寄りもなかった姉の死を悼む人は誰もいなかった。


 一瞬だけでも、姉のいた街に足を運ぼうかとも思ったけれど、ダメだと考え直した。

 街に行って私の顔に覚えのある人がいたら、仕事場にも支障をきたす。

 マスコミから追われ、連鎖的にこの仕事が明るみに出たら、私は消されてしまうことだろう。


 だから姉の墓参りも見送った。

 姉には申し訳ないとは思ったが、生きている自分自身を優先することにして仕事に没頭することにした。



 それから、二年が経った。

 ずいぶんとデスゲーム運営の仕事にも慣れ、なんとなく日々を生きている中で、運営の上層部から「近いうちにデスゲームの新しい会場を作るので、そちらの方に配属になります」と告げられた。


 普通の職で言うところの「転勤」とか「異動」とかにあたるのだろう。まさか二号店のようなノリで新しい会場ができるとは思わなかった。

 基本的にこの仕事は、誰かから依頼されないと発生しない、結婚式や葬式のようなものだ。

 新しい会場ができるということは、仕事の軌道が乗ってきたのだろうか。世間のデスゲームブームも近いのかもしれない、なんてブラックジョークまで頭に浮かんだ。

 特に親しい付き合いをしている人もいなかったので、そのまま「はい」と返事して、新しい会場ができる予定の街に移ることした。



 初めは、変わった人も世の中にいるのだなと思った。


 うちの運営とほとんど同時に契約をしたせいで、人が死ぬ会場の上に住むことになった青年。

 周りに言わなければ別の場所に引っ越すことだってできたのに、青年はそのままアパートの契約を結んでいた。確かに家賃は安かったが、家賃の安さを天秤にかけたとしても、普通の人間なら選ばないだろうと思うので、その青年は相当変わった人なのだというのは、上司からの説明を聞いただけでもよく分かった。


 しかし、上司から無関係の住人が一人住むことになったから、と見せられた顔写真を見た時は、息が止まりそうになった。


 ネットで何度も見たから、間違いない。


 二〇一号室の契約をした青年の顔は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


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