6話(本編最終話)
「そういえば、一つ聞きたいことがあったんですよね」
今日は燃えないゴミを捨てる日だ。
ちゃんと燃えないゴミだけを袋にまとめてゴミ出しの指定場所に出向くと、隣人も同じ目的で外に出ていたようだった。
挨拶もそこそこに、僕は隣人に対して聞きたいことを尋ねた。
「あなたのことは何と呼べばいいですか?」
本名を教えてくれるわけはないと思ったので「あだ名でもいいですけど」と付け加える。
第三者に「あの人は誰ですか?」と聞かれたなら「同じアパートに住む隣人です」と答えればいい。
ただ、「名前は何ですか?」と聞かれたら、僕はおそらく言葉に詰まってしまう。
今は「付き合いがなく名前すら知らない隣人」という関係性は多いだろうし、別に名前がなくても怪しまれることはないだろうけれど、不安材料はできるだけなくしておいた方がいい。第三者に疑問を抱かせることは、向こうにとっても避けたい事態のはずだ。
「確かに、呼び名がないのは色々と不便ですからね」
隣人は納得するように頷き、少し考え込んでから口を開いた。
「……そうですね。あまり詳しくは言えませんが、仕事で動物に例えられることがありますね」
「ちなみに何の動物ですか?」
「ウサギですね」
「ええ……」
思わず変な声が出てしまった。
似合わないとまでは言わないが、もっと似合いそうな動物がいるように思う。
というか、仕事で動物に例えられるってどういう状況なんだろう。
デスゲームの運営中は動物をあしらった着ぐるみの頭を被っているとかなんだろうか。
気にはなったけれど、不用意に質問をして知りすぎてしまったと判断されてはいけないので、それ以上の質問はやめることにした。
僕の微妙な反応を見て、隣人はいたずらっぽく笑いかける。
「ちなみにあなたから見て、私は何の動物に似ていると思いますか?」
どんな質問なんだと思う。
でも、元はと言えば僕が隣人に質問したことがきっかけなのだから、真面目に考えてみることにした。
何の動物に似ているだろう、と今一度隣人の姿をじっと見つめる。
……細身だからか「キリン」という言葉が真っ先に思い浮かんだ。
他の動物も思いつかなかったので「キリンですかね」と伝えると、隣人は「肉食動物じゃないんですね」と意外そうに口にした。
「それは、職業的にってことですか? ……別にあなたが直接手を下しているわけじゃないんですよね?」
「そうですけど……本当にあなたは不思議な人ですね」
なぜか定期的に不思議な人物扱いをされる。
そんなに変な言動をしているのだろうか。特に指摘してくれる友人もいない自分にはよく分からなかった。
しばらく悩んでいた隣人は「じゃあ」と僕に向き直って口を開いた。
「じゃあ、キリシマと呼んでください」
キリシマ。僕が「キリンに似ている」と言ったからだろう。
どんな漢字を当てはめるのかは分からないが、目の前の隣人にしっくりくる名前だと思った。
「分かりました、キリシマさん。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ、唯一のお隣としてよろしくお願いしますね」
そして、僕たちは普通の隣人のように笑い合った。
僕の住んでいるアパートの地下ではデスゲームが行われている。
とはいえ、僕はデスゲームの関係者ではないので、いつ頃にデスゲームをしているかのスケジュールも聞いておらず、現在進行形で行われているかの判断はつかなかった。
ただ、真下でデスゲームの真っ最中かもしれないことを抜きにすれば、街の喧騒も聞こえない静かな場所だし、同世代の隣人もいるので、僕はこのアパートのことをそれなりに気に入っている。
完




