第四話「家庭科の宿題、フレンチの皇帝が本気を出した」
引き継ぎお楽しみください
【ナレーション】
中学校の家庭科という授業は、なかなかよくできている。
料理の基礎を学び、食の大切さを知り、生きる力を育む。
初回の宿題は至ってシンプルだった。
「簡単な料理を一品、家で作ってみましょう」
簡単な料理。一品。
これが佐藤家に伝わった瞬間——
「簡単」という概念が、音を立てて崩壊した。
◆ 午後四時。佐藤家・リビング。
「家庭科の宿題で、料理を一品作ってこいって言われました」
太郎が宿題プリントをテーブルに置いた瞬間。
「任せろ」
信玄が即答した。
「拙者も作る」
秀吉が即答した。
「……俺も作る」
信長が即答した。
「戦略的料理というものを見せてやる」
ナポレオンが即答した。
「エジプト料理を作るわ」
クレオパトラが即答した。
「……義の飯というものがある」
謙信が、少し間を置いてから言った。
太郎は六人の顔を順番に見て、深呼吸した。
「一品でいいって言いましたよね」
「「「「「「一品では足りぬ(わ)(だ)」」」」」」
六人が見事にハモった。
太郎の右のこめかみが、ぴくりと動いた。
【ナレーション】
ここで問題が発生した。
全員が「作る」と言った。
つまり台所の使用権をめぐって、六人の歴史的偉人が争うことになる。
これを調整するのは——当然、太郎の仕事だ。
「なんで俺が……」
クレオパトラが涼しい顔で言った。
「家の政治を任せたから」
「そういうことじゃないんですけど!!」
◆ 会議開始。テーブルを囲む六人+太郎。
「まず台所を使う順番を決めます」
太郎がホワイトボード——もともと父が買ってきたもので、今や家族会議に使われている——にマーカーで書き始めた。
「料理が一番得意な信玄さんが最初。次に——」
「待て太郎」
ナポレオンが手を上げた。
「何ですか」
「順番ではなく、同時進行にすべきだ。戦略的に効率がいい」
「台所が一つしかないんですよ」
「問題ない。役割分担をする」
「六人が台所に入ったら動けないですよ!」
「ナポレオン式布陣で解決できる」
「料理に布陣はいらない!!」
結局、くじ引きになった。
くじを作ったのは太郎。
引いた順番——
一番:ナポレオン
二番:信玄
三番:秀吉
四番:信長
五番:謙信
六番:クレオパトラ
「よし、ナポレオンさんから——」
「待て」
信長が立った。
「何ですか信長さん」
「くじの結果が気に食わない」
「それがくじの意味なんですよ!!」
「俺は四番では納得できぬ」
「じゃあ信長さんは最後でいいですか」
「……それはもっと嫌だ」
「四番のままでいてください!!」
◆ 午後四時三十分。台所・ナポレオンのターン。
ナポレオンはエプロンをつけて、台所に立った。
エプロンは父のものを借りた。「BBQキング」と書いてある。
ナポレオンがそれを見て一瞬眉をひそめたが、他に選択肢がなかったので黙ってつけた。
「ナポレオンさん、何を作るんですか」
太郎が横から覗く。
「コンソメスープをベースにした、クラシックフレンチのポタージュ・パルマンティエだ」
「……ポタ、なんですか」
「じゃがいものポタージュだ。フランス料理の基本中の基本」
「え、それって難しくないですか、家庭科の宿題なのに」
ナポレオンが、太郎をちらと見た。
「簡単な料理と言ったか?」
「言いました」
「フランスにおいて、ポタージュは家庭料理だ。簡単だ」
「日本の中学の家庭科的には難しいんですよ!?」
「問題ない」
ナポレオンはそう言って、じゃがいもを手に取った。
【ナレーション】
ナポレオン・ボナパルトは、コルシカ島出身のフランス皇帝である。
料理については、歴史的な記録によると「質素な食事を好み、食事時間は短かった」とされている。
しかし。
フランスという国は「料理文化の最高峰」であり、ナポレオンの時代のフランス宮廷料理は世界最高レベルだった。
何が言いたいかというと——
ナポレオンは「本場のフレンチ」が骨の髄まで染み込んだ男だということだ。
そして彼が「簡単」と言うときの基準は——
中学生の家庭科の基準ではない。
「まず玉ねぎを薄切りにする。焦がさないよう、弱火で二十分じっくり炒める。これが核心だ」
「二十分……」
「焦る必要はない。戦略に焦りは禁物だ」
「料理の話ですよね?」
「料理も戦略だ」
ナポレオンは玉ねぎを、見事な手つきで薄切りにし始めた。
包丁さばきが、素人のそれではない。
「ナポレオンさん、料理できるんですね」
「陣中でも飯は作る。軍の士気は食事で決まる」
「へえ……」
「腹が減った兵は戦えない。これは戦略の基本だ」
太郎は少し感心した。
リビングでは他の全員が、首を伸ばして台所を覗いていた。
「じゃがいもは皮をむいて、一センチ角に切る。厚さは均一に」
「なんでそんな細かく?」
「火の通りが均一になるからだ。戦の陣形と同じだ——全員が同じタイミングで動かなければ崩れる」
「……料理と戦の例えが多いですね」
「同じことだ」
バター。玉ねぎ。じゃがいも。チキンスープ。
ナポレオンの手が、淀みなく動く。
鍋に材料が入り、弱火でことことと煮える。
台所に、じんわりといい匂いが広がり始めた。
リビングから、信玄が顔を出した。
「……悪くない香りだ」
「信玄さん、まだ自分の番じゃないですよ」
「わかっている。ただ、見ているだけだ」
秀吉もひょこりと顔を出す。
「ナポレオン殿、さすがじゃのう!なんか本格的じゃ!」
「当然だ」
「拙者も负けておれん……!」
「秀吉さん、順番守ってください」
◆ 二十分後。
「太郎、ミキサーを出せ」
「ミキサー……あったっけ」
「調べろ」
太郎が台所の棚をあさると——奥から、ほこりをかぶったミキサーが出てきた。
「あった」
「よし」
ナポレオンは煮えたじゃがいもと玉ねぎを、ミキサーにかけ始めた。
なめらかなクリーム色のピュレが出来上がる。
それを鍋に戻して、生クリームを加える。
塩。白コショウ。
小さじ一杯ずつ、正確に。
「……ナポレオンさん、すごく丁寧ですね」
「雑な仕事は認めない。戦でも料理でも」
ナポレオンが仕上げに細かく刻んだパセリを散らした。
白いスープの上に、緑が映える。
「できた」
ナポレオンは鍋を火から下ろして、腕を組んだ。
台所に六人が集まってきた。
「いい匂いじゃ……!」
「……本格的だな」
「綺麗な色ね」
「義を感じる……」
「義は関係ないです謙信さん」
太郎がスプーンでひとくち味見をした。
沈黙。
「……うまい」
素直に言った。
ナメらかで、じゃがいもの甘みと玉ねぎの旨みが重なって、後味にバターと生クリームのコクが来る。
「本当に家庭料理なんですか、これ」
「フランスでは家庭料理だ」
「日本じゃレストランレベルですよ!!」
ナポレオンが、ふんと鼻を鳴らして言った。
「フン。これは——基本だ」
【ナレーション】
ナポレオンの「簡単な一品」——完成。
ポタージュ・パルマンティエ(じゃがいものポタージュ)
評価:★★★★★(信玄による)
◆ 信玄のターン。
「次は俺だ」
信玄が静かに台所に立った。
エプロンは、信玄が自分で買ってきたものだ。紺色の、いかにも「料理人」という雰囲気のエプロン。
「信玄さんは何を?」
「ほうとう……ではなく」
信玄がわずかに間を置いた。
「今日は豚汁にする」
「ほうとうじゃないんですね」
「ナポレオン殿の料理を見て、汁物対決になると思った。ならば俺も汁物で勝負する」
「対決じゃないですよ!宿題ですよ!!」
「料理に対決は自然に生まれる」
「生まれなくていいです!」
信玄の豚汁は、見ていて惚れ惚れするほど手際がいい。
大根、人参、ごぼう、こんにゃく、豚肉——全部を同じ大きさに切る。
「信玄さん、切り方揃えすぎじゃないですか。定規で測ったみたいな」
「目で測れる」
「……すごい」
「料理は規律だ。兵站と同じだ」
「また戦の話だ」
「戦も料理も、準備が九割だ」
ごま油で炒めて、だしを加えて、味噌で仕上げる。
最後に豆腐を入れて、ねぎを散らす。
台所に、今度は和の香りが満ちた。
「……いい匂いですね」
「豚汁は冬の食い物だが、春でもうまい」
太郎が一口。
「……うまい」
「当然だ」
こちらも、うまい。
方向性は全然違うが、ナポレオンのポタージュと信玄の豚汁、どちらも本気の一品だった。
◆ 秀吉のターン。
秀吉が台所に入ってきた。
「拙者の出番じゃ!!」
「何作るんですか」
「炊き込みご飯じゃ!」
「……それ、作るのに時間かかりませんか」
「かかるが、うまい!これ真理!」
秀吉は米を研ぎ始めた。
「秀吉さん、米研ぎ慣れてますね」
「足軽時代から炊事は得意じゃ!貧しかったからな、何でも作れるようになった」
「……そっか」
「太郎殿、出汁の取り方を知っておるか?」
「えっと……だしの素があれば……」
「それもよいが、今日は本物を教えてやる。昆布とかつおで取るのじゃ」
秀吉が昆布を水に浸ける。
「じっくり待つのがコツじゃ。人間関係も、じっくりが大事なんじゃ」
「料理の話してください」
「料理も人間関係も同じじゃ!」
「そうかなあ……」
「そうじゃ!人の心は出汁のように、時間をかけて引き出すものじゃ!」
「……それは少しわかる気がする」
「じゃろ!」
◆ 信長のターン。
信長が台所に立った。
「信長さん、何作るんですか」
無言。
冷蔵庫を開けて、中を見渡す。
「……卵はあるか」
「あります」
「ネギは」
「あります」
「だしは……秀吉が昆布出汁を取ったな」
「そうですね」
信長が振り返った。
「……茶碗蒸しを作る」
「茶碗蒸し!?信長さんが!?」
「なぜ驚く」
「なんか……意外で」
信長が、微妙な顔をした。
「……俺は茶の文化を重んじた。茶碗蒸しは、茶の席にも出る料理だ」
「あ、茶人でもあったんですね」
「千利休を知っているか」
「知ってます、歴史の授業で——」
「……あれには世話になった」
信長がぽつりと言った。
太郎は、何も言えなかった。
信長が静かに卵を割り始めた。
茶碗蒸しは、火加減が命だ。
「蒸らしすぎると、す(気泡)が入る。弱火で、ゆっくりだ」
「信長さん、繊細ですね、料理」
「……うるさい」
「褒めてます」
「……わかっている」
信長は無言で蒸し器を火にかけた。
◆ 謙信のターン。
謙信が台所に立った。
「謙信さんは、何を作りますか」
謙信は少し沈黙した。
「……太郎、越後の料理を知っているか」
「あまり……知らないです」
「鮭の焼き浸しだ」
「鮭の……焼き浸し」
「越後は鮭が名産だ。塩をふって焼き、だしに浸す。シンプルだが、義がある」
「料理に義があるんですか」
「ある」
「どういう……」
「素材を活かす。余計なことをしない。それが義だ」
太郎は少し考えた。
「……それは、なんかわかる気がします」
謙信がわずかに頷いた。
「わかるか」
「素材を活かすっていうのは、確かに大事だと思う」
謙信がもう一度頷いて、鮭をまな板に置いた。
包丁を持つ手が、静かで、ぶれない。
◆ クレオパトラのターン。
最後にクレオパトラが台所に立った。
「何を作るんですか」
「コシャリよ」
「こ……シャリ?」
「エジプトの国民食。米、レンズ豆、パスタを合わせて、トマトソースとフライドオニオンをかけるの」
「……初めて聞きました」
「太郎、世界は広いわ」
「それはそうですけど」
「エジプトには三千年の食文化がある。今日はその一端を見せてあげる」
クレオパトラはエプロンも何もつけずに、涼しい顔で調理を始めた。
なぜかエプロンなしでも服が汚れないのは、さすがとしか言いようがない。
「米は炊いてある。レンズ豆は……信玄、残っているか」
「ある」
「パスタは少し固めに茹でる。トマトソースは——」
「クレオパトラさん、本当に何でもできるんですね」
「政治家は民の食を知らなければならない。カエサルもそれは——」
「カエサルの話はいいです」
「……そう」
クレオパトラが少しだけむっとした顔をした。
太郎は若干後悔したが、謝らなかった。
ここで謝ると、クレオパトラにカエサルとアントニウスの話を交互に一時間聞かされることが経験則でわかっているから。
◆ 午後六時三十分。テーブルに六品が並んだ。
・ナポレオン作:ポタージュ・パルマンティエ
・信玄作:豚汁
・秀吉作:鶏と舞茸の炊き込みご飯
・信長作:茶碗蒸し
・謙信作:鮭の焼き浸し
・クレオパトラ作:コシャリ(エジプト風混ぜご飯)
テーブルが、料理で埋め尽くされた。
「……多い」
太郎がぽつりと言った。
「足りないよりいい」と信玄。
「豪勢じゃ!」と秀吉。
「フン」とナポレオン。
「……義の膳だ」と謙信。
「バランスがいいわ」とクレオパトラ。
「これが……俺の茶碗蒸しだ」と信長。
そこへ父と帰ってきたさくらが、リビングに飛び込んできた。
「ただいまー!あ、すごい!!ごはんいっぱい!!」
父・健一が目を輝かせた。
「おおー!なんだこれ、豪勢だな!!」
「父さん、今日これ審査してほしいんですけど」
「審査!?いいじゃん!!」
◆ 審査開始。
「審査員は父さんとさくら」
「やったー!全部食べる!」
さくらが意気揚々と椅子に座った。
健一も腕まくりして座る。
「本格的にやるか!じゃあ順番に食べて——」
「その前に」
ナポレオンが手を上げた。
「何ですか」
「審査基準を明確にしろ。基準なき審査は無効だ」
「家庭の夕食の審査に基準は——」
「必要だ」
太郎はため息をついた。
「……わかりました。①味 ②見た目 ③家庭科の宿題に合っているか。この三点で」
「③が余計だ」
「③が一番大事なんですよ!!」
審査が始まった。
まず、ナポレオンのポタージュ。
さくらがひとくち飲んだ。
「……んー!おいしい!!」
健一がひとくち。
「うわ、本格的だ。レストランじゃん」
「当然だ」
ナポレオンが腕を組んだ。
「でも、宿題の『簡単な一品』には——」
「黙れ太郎」
「言わせてください!!」
信玄の豚汁。
さくら「あったかーい!おいしい!」
健一「これはうまい。体に染みる」
信玄「当然だ」
ナポレオン「……悪くない」
信玄「そちらも悪くなかった」
二人が静かに頷き合った。
太郎はなぜかその光景が少し感動的だと思った。
秀吉の炊き込みご飯。
さくら「香りがいい!!もりもり食べれる!」
健一「これご飯何杯でもいけるやつだ!」
秀吉「じゃろ!じゃろ!!」
秀吉がテーブルをばんばん叩いて喜んだ。
「秀吉さんうるさい」
「嬉しいんじゃ!!」
信長の茶碗蒸し。
さくら「つるつるしてる!おいしい!」
健一「……信長くん、これ本当にうまいな。繊細だ」
信長が少し黙った。
「……そうか」
「なんか照れてる?」
「照れていない」
「照れてるじゃないですか」
「……うるさい、太郎」
さくらが言った。
「信長、すごいね」
信長がわずかに表情を緩めた。
「……当然だ」
謙信の鮭の焼き浸し。
さくら「おさかなー!おいしい!」
健一「これ……シンプルなのに深い味だ」
謙信「……鮭に感謝する。素材の義だ」
「謙信さん、食材に感謝するの好きですね」
「当然だ。命をいただいているのだから」
太郎は少し黙った。
「……それは、そうですね」
クレオパトラのコシャリ。
さくら「なにこれ!初めて食べた!おいしい!!」
健一「エスニックな感じだけど食べやすい!これ何料理?」
クレオパトラ「エジプト料理よ。三千年の歴史があるわ」
健一「三千年!!すごい!」
クレオパトラが、満足そうに微笑んだ。
◆ 審査結果。
「じゃあさくら、一番おいしかったのは?」
さくらが少し考えた。
全員が固唾を飲んで見ている。
六人の歴史的偉人が、小学五年生の女の子の言葉を待っている。
「……全部!!」
「「「「「「……」」」」」」
沈黙。
太郎が代表して言った。
「それは審査じゃないよ、さくら」
「だって全部おいしかったもん!!」
「……まあ」
さくらが続けた。
「あ、でも——信長のやつ、また食べたい!」
信長の目が、ぱっと輝いた。
全員が信長を見た。
信長は咳払いをした。
「……そうか」
「また作ってくれる?」
「……考えておく」
「やったー!!」
太郎は信長の横顔を見た。
耳が、少し赤かった。
【ナレーション】
父の総評は「全員合格、でも宿題の趣旨から全員外れてる」だった。
太郎はこの日の宿題に何を書けばいいか三十分悩んで、結局「家で豚汁を作りました(手伝いをしてもらいました)」と書いて提出した。
先生からは「上手にできましたね!」とコメントが返ってきた。
何も間違っていない。
ただ、「手伝いをしてもらいました」の「手伝い」が歴史上の偉人六名だということは——
永遠に言わないことにした。
◆ 夕食後。
全員が満腹で、リビングにくたっとしている。
ナポレオンでさえ、珍しくゲームを置いていた。
「……今日の飯は悪くなかったな」
信長がぽつりと言った。
「珍しく素直ですね」
「うるさい」
信玄が緑茶を飲みながら言う。
「料理というのは、作った者の性格が出る」
「どういうことですか」
「ナポレオン殿の料理は緻密で計算されていた。秀吉の料理は豪快で人なつこい。謙信殿のは……真っ直ぐだった」
謙信が静かに頷いた。
「信長殿のは——繊細だった」
信長が黙った。
「信玄さん自身は?」
信玄が少し考えた。
「……温かければ、それでいい」
太郎はその言葉を聞いて、今日の豚汁を思い出した。
確かに。
あの豚汁は——温かかった。
さくらがうとうとしながら言った。
「ねえ、明日もみんないる?」
「いるぞ」と秀吉。
「いる」と信玄。
「……いる」と信長。
「義がある限りいる」と謙信。
「ランキングがある限りいる」とナポレオン。
「いるわよ」とクレオパトラ。
さくらが「よかった」と言って、そのまま眠ってしまった。
信長がそっと立って、さくらに毛布をかけた。
誰も何も言わなかった。
【ナレーション】
佐藤太郎の家庭科の宿題は、こうして無事に——いや、無事かどうかは微妙なラインで——終わった。
翌日、クラスメートに「どんな料理作ったの?」と聞かれた太郎は、
「豚汁」
と答えた。
「へえ、普通だね」
「……まあ、普通だよ」
太郎は笑った。
普通じゃなかったけれど。
それでも——おいしかった。
第四話・了
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