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うちに歴史の偉人が住み着いた  作者: 膝栗毛


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第八話・続き「三日目、暗闇の中で本物になった」

引き継ぎお楽しみください

【ナレーション】

林間学校、三日目。

この日の夜に、肝試しが予定されていた。

山の中の遊歩道を、二人一組で歩く。

懐中電灯一本。

約二百メートルのコース。

先生たちが要所に隠れて脅かす、という——

中学生の定番イベントだ。

怖い、と言いながら、みんな楽しみにしている。

しかしこの日の肝試しは——

「定番」では、終わらなかった。


◆ 三日目・午前。長距離ハイキング。


朝から快晴だった。

八時出発、十三キロのハイキングコース。

「十三キロ!?」

「きつそう……」

生徒たちが顔を見合わせる中、太郎は淡々と水筒を確認した。

信玄の行動食——干し柿とおにぎりが、まだリュックに入っている。

「行動食、持ってきてよかった」

「行動食って何?」

木村が聞いた。

「途中で食べるやつです。干し柿とおにぎり」

「誰が作ったの」

「……信玄さんが」

「武田さん、本当に何から何まで用意してくれるな」

「そうなんですよ」

「俺、お菓子しか持ってきてない」

「あとで分けます」

「いいの?」

「信玄さんが多めに作ってたので」

木村が少し黙った。

「……武田さん、わかってたんかな。お前が誰かに分けるって」

太郎が少し止まった。

「……そうかもしれない」

「怖いな、武田さん」

「怖くはないですよ。ただ——よく見てる人なんだと思います」


ハイキングが始まった。

最初の三キロは緩やかな道だった。

四キロを過ぎたあたりから、道が険しくなった。

「……きつい」

木村が汗をかきながら言う。

「水飲んでください」

「うん……あ、うまい」

「ゆっくり歩けばいいんです。速さより、リズムが大事で——」

「また武田さんの言葉?」

「……そうです」

「今日一日、武田さんが頭の中にいるな、お前」

「否定できないです」


七キロ地点。

一人の女子生徒が足をくじいた。

「痛い……っ」

「大丈夫か!?」

田村先生が駆け寄る。

太郎が立ち止まった。

班の中で、誰も動けていない。

先生が一人で対応している。

太郎がリュックから何かを取り出した。

「先生、これ使ってください」

テーピングテープだった。

田村先生が驚いた顔をした。

「佐藤くん、なんで持ってるの」

「……山に行くときは持っていけと言われたので」

「誰に」

「居候の人に」

田村先生が苦笑いした。

「……ありがたい。貸して」

女子生徒の足首に、テーピングを巻く。

「……佐藤くん、巻き方知ってるの?」

「少しだけ」

「やってくれる?」

「はい」

太郎がテーピングを巻いた。

信玄に教わった巻き方——外側を固めて、内側を緩めに。

「……痛くない?」

「……大丈夫、ありがとう」

女子生徒が少し安堵した顔をした。

田村先生が太郎を見た。

「……佐藤くん、本当に色々できるね」

「居候の人たちが教えてくれたので」

「あの方々は——本当に、色々な方たちなんだね」

「……そうですね」


【ナレーション】

テーピングを教えたのは信玄だった。

ある日の夕食後、なぜか突然「太郎、足首の巻き方を覚えろ」と言い出して、信玄が丁寧に教えてくれたのだ。

太郎は「なんで突然」と思ったが、黙って覚えた。

山に行く三日前のことだった。

信玄は何も言わなかったが——

わかっていたのだと思う。


◆ 昼。山頂付近の休憩ポイント。


十三キロを歩ききった。

全員くたくただったが、山頂からの景色に、疲れが吹き飛んだ。

「わあ……」

誰かが言った。

眼下に、街が広がっている。

遠くに海が光っている。

空が、広い。

「……すごいな」

木村が隣で言った。

「うん」

太郎は景色を見ながら、信玄の行動食を出した。

干し柿とおにぎり。

「木村、食べますか」

「もらっていいの?ありがとう!」

二人で食べた。

「……うまい」

「おにぎり、うまいです」

「武田さんが作ったの?」

「そうです。具はなんだろう……梅かな」

「山頂で食べる梅おにぎり、最高だな」

太郎もうんと頷いた。

「信玄さんに帰ってから言います。山頂で食べたって」

「喜ぶかな」

「……嬉しそうな顔をして、でも『当然だ』って言うと思います」

木村が笑った。

「キャラが濃いな、武田さん」

「全員濃いです」

「幸せなことだよな、それって」

太郎は景色を見た。

広い空。

遠い海。

「……うん、そうかもしれない」


◆ 夕方。施設に戻る。夕食。入浴。


施設に戻ったのは夕方四時だった。

全員が疲れ果てていたが、夕食を食べたら復活した。

「肝試し、今夜だな」

「楽しみ!というか怖い!」

「佐藤は怖い?」

「少し」

「正直だな」

「嘘ついても怖いもんは怖いので」

木村が笑った。

「俺めちゃくちゃ怖い。お前と組んでいいか」

「いいですよ」

「頼れる雰囲気があるんだよな、佐藤って」

「そんなことは」

「あるよ。今日一日見てたらわかる」

太郎が黙った。

「……ありがとう」

「褒めたのに素直に受け取るんだな」

「クレオパトラさんに言われたんです。謙遜しなくていい、事実を認識しろって」

「クレオパトラさんって?」

「女性の居候です」

「どんな人?」

「頭が良くて、綺麗で、全部見透かされる感じがある人です」

「それは怖い」

「慣れます」

「慣れるのか」

「慣れました」


◆ 夜八時。肝試し開始。


空は完全に暗くなっていた。

月は雲に隠れて、ほとんど光がない。

山の夜は、本当に暗い。

生徒たちが施設の玄関前に集まった。

田村先生が説明する。

「肝試しのルールを説明します。二人一組で、懐中電灯一本持って遊歩道を歩きます。コースは約二百メートル。折り返し地点にある赤い旗を取って戻ってきたらゴールです。先生たちが途中に隠れていますが——」

「隠れてる!?」

「脅かしに来ます」

「やだー!!」

「先生に触れたら失格です。落ち着いて歩いてください。では、二分間隔でスタートします」

「佐藤、行こうぜ」と木村。

「うん」

太郎はポケットの護符を確認した。

ある。


一組目、二組目が出発した。

施設の中から、悲鳴が聞こえてくる。

「きゃー!!」

「うわああ!!」

「やばい、先生が出てきた!!」

生徒たちが笑ったり怖がったりしている。

太郎と木村の番が来た。

「行くぞ、佐藤」

「うん」

懐中電灯を持って、遊歩道に入った。


◆ 遊歩道。


木が茂っていて、懐中電灯の光しか見えない。

道の両側に闇が広がっている。

虫の声。

風の音。

葉の擦れる音。

「……怖いな」

木村が小声で言った。

「大丈夫ですよ」

「お前、本当に怖くないの?」

「少し怖い」

「少しかよ」

「でも——」

太郎が前を向いた。

「ここはちゃんと道がある。懐中電灯もある。怖いけど、進めないほどじゃない」

「哲学的なこと言うな」

「信長さんが言ってたんです。暗闇でも足元に道があれば進める、って」

「織田さんが?」

「なんかゲームの話のついでに言ってた気がするけど」

木村が笑った。

「ゲームの話のついでかよ」

「でも——なんか、今に合ってる気がして」

二人が進んでいく。

五十メートル。

百メートル。


そのとき。

道の脇の茂みが、がさりと動いた。

「うわっ!!」

木村が飛び上がった。

「……大丈夫です。たぶん先生」

「たぶんって!?」

「先生が隠れてるって言ってたので」

「でもなんか——普通に大きい音じゃなかったか?」

太郎が懐中電灯を茂みに向けた。

光の中に——

何もいなかった。

「……風かな」

「そうだよな。うん、風だ」

二人が歩き続けた。

百二十メートル。

百五十メートル。

折り返し地点が近い。


がさがさがさ——

今度は、道の前方だった。

「……?」

太郎が懐中電灯を向けた。

木の影。

何もいない。

「……先生、いなかったな」

「さっきから先生に会わないな。もうみんな出てきたのかな」

「かもしれない」

二人が折り返し地点の赤い旗を取った。

「よし、戻ろう」

「うん」

来た道を戻り始めた。


その瞬間だった。


懐中電灯が——

消えた。


「え!?」

木村が懐中電灯をがちゃがちゃ振る。

「つかない!?」

「電池切れ?」

「さっきまでついてたのに!?」

真っ暗だった。

本当の、真っ暗。

目が慣れても、何も見えない。

「佐藤……」

「大丈夫です」

「どっちに行けばいい」

「来た道を戻るだけです。足元に気をつけて——」

その瞬間。

遠くで——

悲鳴が聞こえた。

施設の方向から。

「きゃーー!!」ではなく——

もっと本格的な、切迫した声だった。

「……え?」

木村が固まった。

「あれ、肝試しの悲鳴じゃないよな?」

「……違う気がする」

二人が顔を見合わせた——が、暗くて見えない。

「どうする、佐藤」

太郎が、暗闇の中で考えた。

懐中電灯が消えた。

施設から悲鳴が聞こえた。

先生がいない。

道は——来た道を戻ればいい。

百五十メートル。

「……手を繋いでください」

「え?」

「暗いので。足元だけ気をつけて、ゆっくり歩けばいい」

「……わかった」

木村の手を掴んだ。

太郎が前を向いた。

暗闇。

何も見えない。

でも——道はある。

足の裏に、土の感触がある。

一歩、踏み出した。


「暗闇でも足元に道があれば進める」

信長の声。

「山で油断するな」

また信長の声。

「帰ってこい」

太郎は前を向いた。

一歩。

また一歩。

ゆっくりと、でも確実に。


「佐藤、怖くないの」

木村の声が、少し震えていた。

「怖い」

「でも歩けてる」

「怖くても歩けます」

「……なんでそう思えるの」

太郎は少し考えた。

「……一緒にいるから」

「俺が?」

「あなたもいる。だから大丈夫です」

木村が少し黙った。

「……佐藤、お前いい奴だな」

「今はそういう話じゃなくて、前を見てください」

「わかった」


七十メートル。

五十メートル。

三十メートル。


施設の灯りが、木々の隙間から見えてきた。

「あそこだ」

「うん」

二人が足を速めた。

施設の玄関前に出た。

田村先生が懐中電灯を持って走ってきた。

「佐藤くん!木村くん!無事か!?」

「大丈夫です。懐中電灯が途中で消えて——先生、何かあったんですか?さっき悲鳴が」

田村先生の顔が少し青かった。

「ちょっと来てくれ」


◆ 施設・玄関前。


生徒たちが固まっていた。

何人かの女子が泣いている。

「何があったんですか」

木村が聞いた。

田村先生が説明した。

「……肝試しの途中で、三組が道に迷った。遊歩道を外れてしまって——今、先生たちが探してる」

「え!?」

「暗くて方向がわからなくなったみたいで——懐中電灯の電池が切れた組もいて……」

太郎が何かを感じた。

「どのくらい前から?」

「十五分ほど前から連絡が取れなくて——携帯が圏外で……」

「コースから外れた地点はわかりますか」

田村先生が太郎を見た。

「百メートルあたりで道が二股になってるんだが——そこで右に行ってしまったようで」

太郎が地図を思い出した。

今日のハイキングで使ったコースマップ。

リュックに入っている。

「先生、地図持ってますか」

「……ある」

「見せてください」

田村先生が地図を出した。

太郎が懐中電灯——田村先生のものを借りて——地図を照らした。

コース。

二股の分岐点。

右に行くと——川沿いの道に出る。

川は、施設の裏手を通っている。

「……川に出る道に入ったんだと思います」

「え?」

「右に行くと川沿いに出る。そっちに行ったなら——川の音がするはずです。川に沿って歩けば施設の裏手に出られる」

田村先生が固まった。

「……それは、どこで」

「今日のハイキングで、道の形を覚えていたので」

木村が太郎を見た。

「……お前、地図覚えてたの?」

「歩きながら見てたので、だいたい」

「それも居候の人の影響?」

「……ナポレオンさんが、地形は頭に入れろって言ってたので」

木村が天を仰いだ。


田村先生が他の先生たちに連絡した。

川沿いを探してほしいと伝えた。

五分後。

「いた!川沿いにいた!全員無事!!」

先生の声が遠くから聞こえた。

施設の玄関前にいた生徒たちから、安堵の声が上がった。

「よかった……!」

「無事だった!!」


十分後。

道に迷っていた三組、六人が施設に戻ってきた。

泥だらけで、何人かは泣いていたが、全員無事だった。

「ごめん、道わからなくなって……怖かった……」

「よかった、無事で!」

田村先生が全員に頭を下げた。

「先生の確認不足だった。本当に申し訳ない」


少しして。

田村先生が太郎を呼んだ。

「佐藤くん、ちょっといいか」

「はい」

「……今日、ありがとう。川沿いの道のことを言ってくれなかったら、もっと時間がかかってたと思う」

「たまたまです」

「たまたまじゃないよ。地図を覚えていて、状況を判断して、ちゃんと伝えてくれた。それはたまたまじゃない」

太郎が黙った。

田村先生が続けた。

「あの居候の方々に、よろしく伝えてください」

「……え?」

「地形を覚えること、テーピングのこと、行動食のこと——今日一日で何度、あの方々に助けられたかわからない。間接的に、だけど」

太郎は言葉が出なかった。

「良い、師匠たちを持ったね」

師匠。

その言葉が——なぜか、胸に刺さった。

「……はい」


◆ 夜。部屋。消灯前。


肝試しは、その後中止になった。

代わりに、食堂でホットチョコレートが配られた。

道に迷った生徒たちが落ち着いて、全員が部屋に戻った。

木村が寝袋に入りながら言った。

「今日、すごかったな」

「そうですね」

「お前、暗闇の中で全然焦ってなかった。すごかった」

「焦ってましたよ、内心」

「でも声は落ち着いてた。手を繋いで、ゆっくり歩こうって——あれ、助かった」

太郎が少し黙った。

「木村が手を繋いでくれたので、俺も落ち着けた」

「俺が?」

「一人だったら、もっと怖かったと思う」

木村がうんと言った。

「なんか今日、いろいろあったな」

「そうですね」

「でも——全部乗り越えたじゃないか」

「全部じゃないかもしれないけど」

「十三キロ歩いて、足くじいた人助けて、暗闇歩いて、迷子を見つけて——十分すぎるだろ」

太郎は天井を見た。

「……木村は、今日どうだった」

「俺?」

「うん」

木村が少し考えた。

「正直——お前がいてよかった。それが一番」

「俺は」

「お前がいなかったら、暗闇でパニックになってたと思う。落ち着かせてくれてありがとう」

「俺は別に——」

「ありがとうって言ってるんだから、素直に受け取れよ」

太郎が少し止まった。

クレオパトラの言葉が浮かんだ。

「謙遜しなくていい」

「……ありがとう」

「それでいい」

木村が笑った。

「なあ、佐藤」

「なに」

「お前んちの居候の人たち、俺に会わせてくれないかな」

「……また来ればいいじゃないですか、前みたいに」

「いや、ちゃんと紹介してほしいんだよ。お礼が言いたい」

「お礼?」

「お前のこと、育ててくれてるじゃないか。今日一日で、それがよくわかった。ちゃんと、ありがとうって言いたい」

太郎は何も言えなかった。

育てる。

その言葉が、静かに心の中に落ちた。

「……言いますよ、そのうち」

「約束な」

「約束します」

「よし」

木村が目を閉じた。

「おやすみ、佐藤」

「おやすみ」


部屋が静かになった。

太郎は、护符を手に取った。

指先で、布の感触を確かめた。

古くて、小さくて、でも確かにある。

「……信長さん」

暗闇に向かって、小さく言った。

「護符、ちゃんと持ってます」

「ちゃんと帰ります」

「……ありがとう」


【ナレーション】

山の夜は静かだった。

虫の声。

風の音。

川のせせらぎ。

今日の川は——迷子たちが戻ってきた川だ。

さっきまで怖かった川が、今は安らかな音を立てている。

同じ川でも——聞き方で変わる。

同じ場所でも——一緒にいる人で変わる。

同じ暗闇でも——何を持っているかで変わる。

太郎は目を閉じた。

護符を、ぎゅっと握った。


その夜、佐藤家では——

リビングに全員が集まっていた。

「そろそろ眠る時間じゃな」と秀吉。

「……ああ」と信長。

「太郎、今日も無事かな」と秀吉。

信長が何も言わなかった。

ただ——

窓の方を見た。

山の方向。

「……帰ってくる」

誰に言うでもなく、ぽつりと言った。

「信長様?」

「……帰ってくると言った」

「……そうじゃな」

秀吉が静かに笑った。

「明日帰ってくるのう、太郎殿」

「……ああ」

信長がそれだけ言って、部屋に戻っていった。


謙信が窓の外を見ながら言った。

「……今夜は星が出ていないな」

信玄がお茶を飲みながら答えた。

「曇りだ」

「太郎のいる山も、曇っているだろうか」

「……そうかもしれない」

「暗かろうな」

「暗いだろう」

謙信が少し沈黙した。

「……太郎は、暗闇を怖がるか」

信玄が少し考えた。

「……怖がるだろう。でも——前に進むだろう」

謙信がうんと頷いた。

「そうだな」

「俺たちが——そうなるように、育てたから」

謙信がわずかに目を細めた。

「……育てた、か」

「意識したわけではないが——」

「そうだな。気づいたらそうなっていた」

二人が、しばらく黙って夜空を見た。

「信玄」

「なんだ」

「明日、太郎が帰ってきたら——」

「ほうとうでも作るか」

「……そうしろ」

「わかった」


ナポレオンがスマホを置いた。

珍しく、ゲームを閉じた。

「……太郎」

小さく呟いた。

「明日帰ってきたら——数学の次のステップを教えてやる」

誰も聞いていなかった。

でも——ナポレオンは満足そうな顔をした。


クレオパトラが本を閉じた。

「……太郎、ちゃんとやってるかしら」

さくらが隣に来た。

「やってるよ!お兄ちゃんだもん!」

「そうね」

「明日帰ってくるよ!」

「そうね」

「帰ってきたらゲームしようって言ってたから!」

クレオパトラがさくらを見た。

「……楽しみね」

「うん!!クレオパトラさんも一緒にやろう!」

「わたしは観戦でいいわ」

「だめ!一緒に!」

「……考えておくわ」

さくらが「やったー!」と笑った。

クレオパトラが窓の外を見た。

「……太郎、ちゃんと帰ってきなさい」


父が最後に、電気を消した。

リビングが暗くなった。

「……みんな、太郎のこと好きだな」

誰もいないリビングで、父が笑った。

「まあ——そりゃそうか」

電気が消えた。


【ナレーション】

三日目の夜。

山の施設では、太郎が護符を握って眠った。

佐藤家では、全員が——それぞれのやり方で——

太郎の帰りを、待っていた。

明日。

四日目。

最終日。

太郎が帰ってくる。

そして太郎は——

三泊四日で学んだことを、まだ全部は言葉にできていない。

でも——

体の中に、ちゃんと入っている。

それで、十分だ。


第八話・三日目、了

次回もお楽しみに

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