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友達の友達  作者: 長篠金泥
第6章

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65 新しい朝が

「ぐぅううぅうんっ!? あふぅ……」


 行きの数十倍の労力を費《つい》やし、晃は鉄製の門を乗り越えた。

 膝と肩が着地の衝撃に耐えられず、変な声が山の中に響き渡る。

 優希のサポートはあったが、だいぶ無茶な挙動をしてしまった。

 そのせいで、体の各部の痛みが悪化して脂汗《あぶらあせ》が止まらない。

 痛みの大波が落ち着くのを待っていると、優希が訊いてくる。

 

「だっ、大丈夫?」

「ダメダヨ」

「本当にダメな感じするから、メカっぽく言わないで」

「オッケェイ」


 実際問題、もうダメなコンディションの晃だが、冗談に紛《まぎ》らわせる。

 自分も限界に近いが、それよりも虚《うつ》ろな表情で固まる玲次が心配だった。

 苦痛を表に出さないようコントロールしているのか、もしくはそういう時点を通り越して涅槃《ねはん》に近付いているのか。

 何にせよ、無理をしているのは間違いない。


「玲次……歩けるか」

「ぶっ、ちゃけ、歩きたく、ない。あと、寒い……そんで、眠い」

「おぃおい、おい……」


 上手く口が回らず、ツッコミすらスムーズにできない晃。

 玲次の状態は「寝たら死ぬ」に近いレベルまで達したらしい。

 シャツを染めているシミは、さっきよりだいぶ拡がっていた。

 ダクトテープでグルグル巻きにして、傷の応急処置はしてある。

 しかし、それで止血できるほど軽い怪我ではないようだ。

 状況を理解したのか、優希は険しい顔で髪を掻《か》き回して言う。


「じゃあ、二人はココにいて。車、とってくるから」

「ぉう……頼む」


 搾《しぼ》り出すように答えて、限界の晃は地面に座り込んだ。

 玲次はフラッとよろけたかと思うと、仰向けに寝転がる。

 そんな二人を心配そうに見ながら、ランタンを手に優希は歩み去った。

 呼吸が弱くて、浅い――そして、時々大きく咳込んでいる。

 あからさまに瀕死《ひんし》な玲次の様子に、晃は落ち着きを失う。


「生きて……るの、か?」

「お前《めぇ》、より……マシだ」


 あからさまな強がりに、晃は思わず笑った。

 その途端、何本も折れているらしい肋骨《ろっこつ》が、余裕のなさを伝えてくる。

 お互いに、全治何ヶ月になっているのか見当もつかない。

 晃としては、死ぬほど痛いが死ぬようなダメージじゃない自覚がある。

 だが、玲次の方は出血が激しすぎて一刻を争う気配だった。


「病院、行ったら……ガロンで輸血、かな」

「その量……必要な、時点で……もう死んで、る」


 とりあえず、意識を失ったらアウトっぽい。

 そう判断した晃は、気力を総動員して玲次に話しかける。

 応じる玲次の声は途切れ途切れで、響きが妙に軽い。

 もしかして、腹に穴が開いたのが原因なんだろうか。

 そんな分析をしながら、晃は薄暗い中で無駄話を続ける。


「まさか、日本で……銃で撃たれる、とはな……」

「アメリカでも、殆どは……未経験だろ」


 そうこうする内に、車のエンジン音が近付いてくる。

 あのワゴンRは、ちゃんと動いてくれたようだ。

 ヘッドライトの光が、だんだんと大きくなっていく。

 これでもし、全然知らない奴が車を運転してたら――

 不吉な想像をしてしまった晃は、ゆるゆると頭《かぶり》を振る。

 程なくして運転席から降りてきたのは、当然ながら優希だった。


「おっ、お待たせっ!」

「あぁ……玲次は、後ろに……寝るな、よ」

「んぉ、ふぅ……」


 注意を告げる晃に身を起こされ、玲次は生返事を返しつつ立ち上がる。

 そして優希が開けたドアから、もっさりした動作で後部座席に乗り込んだ。

 晃は優希に抱きつくように移動し、どうにかこうにか助手席に収まる。

 普通に座っているだけで呼吸困難になりかけ、晃はシートを大きく倒した。


 シートベルトを締めたら、それが致命傷にもなりかねない。

 なので晃も玲次も、道交法は無視するしかない状況だ。

 車内に漂っていたヤニ臭さが、あっという間に血腥《ちなまぐさ》さで上書きされる。

 エアコンが送り出してくる冷風は、文明的すぎて現実感に欠けていた。

 薄れかけた晃の意識を、右側から聞こえる優希の声が引き戻す。

 

「私らが登ってきた方は、車止めがあったよね」

「……んぁ」

「途中にあった、別の道から行ってみようか」

「まか、せる」


 優希の方を見ずに、薄目で天井を見上げながら晃は応じる。

 玲次に寝るなと言っておきながら、自分の意識が飛びそうだった。

 痛みと疲れは飽和《ほうわ》状態だし、脱出成功で緊張の糸が切れている。

 体が、脳が、一刻も早く機能停止したがっているようだ。

 しかし、病院か警察に辿り着くまでは、本当の意味で安心はできない。

 

「ガス、は?」

「十分ある、と思う……んぁあもう! カーナビ起動しない!」

「こ、れ……」


 擦《かす》れ声と共に玲次が差し出してきたのは、関東の地図。

 晃はルームランプを付け、現在地を確認しようとする。

 次の瞬間、車内は真っ青な光で満たされた。


「アホかぁ!」

「んっ――ふふっ」


 コンディションも忘れて吼《ほ》えた晃に、優希が軽く吹いた。

 後部座席からも、玲次が苦しげに笑っている声がする。

 もう二度と笑えないんじゃないか、みたいな予感があった。

 だけど、人の精神は思ったより頑丈らしい、と晃は思い知る。

 馬鹿げた改造のせいで、無駄な手間がかかってしまった。

 それでも、ここから進むべき方向を読み取るのに成功。


「来る時、使った……あの、道に出たら、来たのと……逆に」

「わかった。逆に行くのね……じゃあ、出すよ」


 そうしてワゴンRは走り出したが、優希の運転技能はだいぶ怪しい。

 スピードは早すぎたり遅すぎたりで、車体は常に左右にフラフラと。

 変なタイミングのブレーキ連発に、後部座席の玲次が追加ダメージを受けている。

 運転が苦手なのか、もしくはペーパーなのか――まさか無免許なのか。

 確かめるかどうか迷った末に、晃は黙って身を任せるのを選ぶ。

 直線が続く道になったところで、優希が口を開いた。


「あのさ。警察とか行く前に、あの病院で何があったか……口裏を合わせる、って言うとアレだけど、ある程度は決めといた方がいいかも、って」

「ん……確か、に」


 現場にいなかった奴が判定すれば、自分らの行為は過剰防衛になりかねない。

 クロ、リョウ、霜山の凄惨な死に様を思い浮かべ、晃は深い溜息を吐いた。

 翔騎や慶太の死んだ状況を説明するのも、かなりの面倒を予感させる。

 ではどうするか、と検討してみる晃だが、何のアイデアも出てこない。


「私ね、ちょっと考えたんだけど」


 そう前置きして優希が語ったのは、廃墟を探検中に妙な連中に襲われて、目隠しされた状態で別々に監禁されていた、というのを基本ラインに据《す》えた設定。

 これなら、各人の証言が曖昧《あいまい》でも不自然じゃない、と晃には思えた。

 全部がボンヤリでも怪しまれそうなので、佳織の殺害を目撃したのと霜山に反撃したのは、共通の体験として詳しく話せるようにしておく――

 

「いい、んじゃないか」

「……だな」


 晃が肯定意見を述べると、玲次も遅れて同意した。

 辻褄《つじつま》が合わないのを指摘されても「混乱していた」「よくわからない」で押し切ってしまえばいい。

 明らかに重態な自分と玲次は、ほぼ気絶していたと主張するのもアリか。

 思考能力がガタ落ちになった頭で、晃はそんな結論に落ち着く。

 窓の外に目を向ければ、もう夜空は朝に変わりつつあった。

最終回まで残り2回、連続更新の予定なのでよろしくお願いします(26/7/27現在)

後になって来られた方は、特に気にせずラストまで読み進めてください。

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