61 勝率1%未満
「ああ、期待の新人がいたね」
「ぁうぐっ――」
言いながら霜山は、転がされている玲次の襟首を掴む。
ダクトテープでグルグル巻きの玲次は、抵抗のしようがない。
呻き声しか出せずに、明かりの近くまで引きずられた。
軽々と、みたいな感じはなく、ワリと大仕事な印象を受ける。
態度のデカさで幻惑されるが、霜山は小ぢんまりとしたデブだ。
身体能力には警戒すべき点はないな、と晃は再認識する。
「さーてさて、レイジ君。ここでひとつ、発表会を始めようか」
「ぼひゅ、べうっ! ――ぅあ、はっ、げぱっ――はっぴょ、お?」
雑に運搬され首が絞まった玲次が、濁った咳をしつつ問う。
目隠しのせいで、どっちを向けばいいのか迷っているようだ。
見えもしないのに、無駄にキョロキョロと頭を動かしている。
こんなシチュエーションでなければ、笑える珍妙ムーブだろう。
しかしながら、晃は笑えないし他の二人も無反応だった。
「じゃあ、発表しちゃおうか。パーッとね」
「なにっ、を」
霜山から三十度ほどズレた方に向かって、玲次が訊いた。
問われた霜山は、オーバーアクションで玲次をビシッと指差す。
まるで、自分が視界を塞いだのを忘れているかのように。
その表情には、また歪な薄笑いが復活している。
「レイジ君がどんな方法でお兄ちゃんをブッ殺したのか、皆にもキッチリと知ってもらおうよ、ね?」
「あ、兄貴、の……」
「うんうん、ケイタ君の話だよ。自分が助かりたいからって殺しちゃった、キミの大切なお兄ちゃんです」
「ふぁああぁあぅ……あぁあぁぁああぁ」
小刻みに震えるレイジの唇から、声にならない何かが漏れる。
数多の感情が溶け合ったそれは、音量こそ小さいが悲鳴だった。
正気を失いかけている幼馴染の姿に、晃は堪らず目を逸らす。
逸らした先で、歯を食い縛っている優希と目が合った。
彼女もまた、晃と同様の心境に追い込まれているのだろう。
佳織はまだ回復していないようで、虚ろな目は焦点が合ってない。
小声でブツブツと何かを言い、無意味に上体を揺らしたりしている。
恋人だった慶太の死に対して、反応らしい反応もしなくなるとは。
精神的に限界が近いどころか、既に破綻している可能性が高い。
晃が佳織を眺めていると、霜山はネットリとした声で語り始める。
「ホラホラ、レイジ君。勿体ぶってないでさぁ、早く教えてよ。何を考えながら、どんな感じでケイタ君を嬲り殺したのか……ホントにね、ボクとしても何を考えてたんだか、そこんとこメッチャ知りたいから。自分の兄弟を殺しといて平然としてるとか、極上の畜生っていうか、重要文化財級のサイコ野郎じゃない。もう完璧に人としてアウトなんですけど? ねぇねぇ?」
楽しげな霜山に応答せず、玲次は素早く左右に頭を振る。
発言を拒絶しているのか、自分の現状を否定しているのか。
どちらにしても、このまま霜山の問いをシカトさせるのは拙い。
そう予感した晃は、玲次にリアクションさせるべく声を出す。
「なぁ! ちょっと待てよ、それは何か――いや、全部が全部っ、おかしいだろ! そもそも、そもそもが……玲次にやらせたのが、お前らだろっ!」
「そいつは言い掛かりがすぎるなぁ、アキラ君。ボクらは、彼に提案しただけだよ。このままだと、一人残らず皆殺しになる。でも、レイジ君がちょっとしたゲームでボクに勝てたら、全員が助かる。もし負けても、ケイタ君が犠牲になるだけで済むけど、どうする? ってね」
「やっぱり、お前が――」
「違うんだよなぁ……わかってない。ゲームがイヤなら、他にも方法はあった。説得してみるとか、暴力で切り抜けるとかね。だけどレイジ君は、一発逆転を狙って、無様に失敗して、おにいたまをブッ殺した。そうだろ? ん? どうなの?」
どうせ選択肢など無かったのに、霜山はしたり顔で言い放つ。
言われている玲次は、自由の効かない全身をクネらせていた。
ココで出来ることは、何かないか――もう何もないのか。
奇跡までは望まないから、僅かでも状況をマシに動かす何か。
気を抜くと嘔吐しそうな緊張と激痛に邪魔されながら、晃は思考能力をフル稼働させている。
「ゲーム、って、どんな」
「んー、シンプルなのだよ。サイコロを使う」
霜山が自分らを甚振るのに飽きたら、この状況は破局する。
そう確信している晃は、どうにか興味を繋ぎ止めようと話しかけた。
呼吸するだけで数ヶ所が痛むので、声を出すのも困難になりつつある。
だが今は、自分の行動や発言で皆の運命が決まってしまう。
なので晃は、無理の上に無理を重ねて質問を続けた。
「丁半、とか……そういう」
「もっとシンプルだよ。サイコロ振って、どっちの数が大きいかで勝負を決める。普通とちょっと違うのは、レイジ君が負けるとケイタ君にペナルティがあること。それと、こっちはサイコロ三つ使うけど、レイジ君は一つってハンデがあること」
「そんな、の――」
勝てるワケがない。
だからこそ、慶太が死ぬハメになったのだろうけど。
絶句する晃に、霜山は楽しげに説明してくる。
「一回目のペナルティは『歯』だ。負けた目の数だけ、ケイタ君の歯をペンチで抜く。それで――ぷぷ、ぷはっ! なっ、何本だっけ?」
「ぅう……」
「ちゃんと答えないと、アキラ君のも同じ数いっちゃうよぉ?」
「じ、じゅう、よん」
心の底から嬉しそうな霜山に、窒息寸前の様子で玲次は応じる。
十四本――永久歯って何本あるっけ、と思い出してみる晃。
だが途中で、数えるまでもなく一大事だと切り替える。
当然ながら麻酔もない状態で、それだけの歯を引き抜くとは。
やられる方は当然のこと、やる方も頭がオカシくなりかねない。




