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友達の友達  作者: 長篠金泥
第6章

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60 非人道的な見地の手引書

※過剰な暴力(性的なもの含む)に関する描写があるので、苦手な方は御注意を。

※読み飛ばす場合は「クロとリョウの外道ぶりを補強する回」と認識してください。

「女を犯して、殺したい……だけど、殺したら高確率で捕まる。でも、殺したい。そんなジレンマの果てに、クロはある方法を選択した。何だかわかるかい、アキラ君」

「……知るかよ」


 晃が雑に応じると、霜山がジットリとした視線を向けてきた。

 憐れみか蔑みか不明瞭だが、見下しているのだけは伝わる。

 それは「馬鹿を見る目」と形容するのが最も近そうだった。


「その方法とは、標的の心を殺すことだ。考え得る限りの手段を駆使して、逃げ場をふさいで、時間をかけて、徹底的に。まずは相手を何度も何度も呼ぶ。苗字を、名前を、フルネームを、愛称を、肩書を。自分の名前と、自身が陵辱りょうじょくされている状況の結び付きを強めて、呼ばれるだけで記憶の扉が開くようにする」


 霜山による、カスみたいな解説が開始された。

 聞きたくないが、動けないし黙らせることもできない。

 

「そして、一方的に腰を振るだけじゃなく、キッチリと快楽を与えて、相手を純粋な被害者の座から蹴落とすんだ。犯されているのにイカされるとか、挿入の最中に甘い声を漏らすとか、そんな反応を引き出して肉欲への罪悪感を背負わせる。人間の体はシンプルだから、薬や道具を使えば抵抗のしようもない。ついでに、優しくキスをしながら、『好き』とか『愛してる』とか『結婚しよう』とか『子供ができたら何て名前にする』とか言い続けて、相手にも無理矢理に返事させて、恋愛全般への嫌悪を刻むのも忘れない。他には『かわいい』『綺麗だよ』『美人すぎる』みたいな誉め言葉で自分の容姿を呪わせたり、『そんな格好をしてるからこんな目に遭う』って説教した挙句に『エッチな女の子でごめんなさい』って繰り返し謝らせて、悪いのは自分なんだと洗脳したりの実験もしてたっけ。そうやって、丹念たんねんに尊厳を破壊していく」

「……クズが」


 優希のものと思しき、小声でのののしりが聞こえた。

 しかし、そちらには反応せずにゴミみたいな話が続く。


「行為の一部始終は、毎回動画に録ってある。相手にそれを見せて、どんな顔で醜態しゅうたいを晒したのか、どんな恥ずべき言葉を口にしたのか、どんな無様さで快楽におぼれていったのかを確認させる。それでもって、この映像を後悔されないためには、どうすべきかを相手に訊く。そうするとね、不思議と何故か自発的に股を開くようになるんだ。また新しい動画の素材を提供するだけなのに……ホントに馬鹿で間抜けで、最高にしょうもないよなぁ」

「もういい……やめろって」


 晃の吐き捨て気味の呟きを無視し、霜山の薄汚い演説は続く。


「バースデーソングを歌わせたり、ジングルベルを歌わせたり、イベントを絡ませての思い出作りもしてる。えぇと、タイトル何だっけ……何か映画を参考にした、とか言ってたなぁ。そうそう、年齢や立場への配慮も忘れてない。相手が学生なら『お父さん』とか『先生』って呼ばせて、子供がいるなら『ママ』とか『お母さん』って呼んであげる、そういうサービスも完備だ。そういえば『今日はお前が肉便器として生まれ変わった誕生日だ』と告げてから、クロが『おめでとう』を言い続けて相手に『ありがとう』と言わせ続ける集中講座もやってたな。その最中のハメ撮りを見たんだけど、言わされてる女の顔がまた、思い出すだけで軽く勃起するほどミジメでねぇ……まぁ、そんな感じでね、かつての彼の創意工夫には、称賛に値する偉才のきらめきがあった」


 吐き気がしてくる内容を、甘ったるい声で語る霜山。

 その表情は、遠くを見つめながらの薄笑いで本当に気持ち悪かった。

 クロの犯行内容も最悪だが、晃にはイマイチ怒りが湧いてこない。

 出来損ないの現代アートと化した、クロの惨死体を見ているから、だろうか。

 それよりも、下劣極まりない話を至近距離で聞かされた、優希と佳織の精神状態が心配になっている。


「リョウも似たような逸脱いつだつを抱えてたんだけど……ああ、彼の場合はブレーキなしに、自由に暴力を振るいたいってだけで、別に誰かを殺したかったワケじゃない。結果的に相手が死んだり障害が残ったりはあるけど、それはあくまで結果論。十代前半の頃から各種武術を習っては、問題を起こして追放されるのを繰り返して、やがて『何でもアリ』を掲げた地下格闘技に辿り着いた。でも、結局はルールのあるケンカでしかないから、リョウが望むような滅茶苦茶は許されない。本名でネットを検索すれば、今でもリョウの記事が出てくるんじゃないかな。大会で反則負けしたとか、再起不能にされた対戦相手の恨み言とか、そんなんばっかりだけど」


 霜山の話が、クロからリョウへと移り変わる。

 こちらもまぁ、晃にとっては想像の範囲内だ。


「合法でどうにもならないなら、法の外に行くしかない。そう判断したリョウは、ヤクザだかヤクザまがいだか、そういう連中の用心棒になった。だけど、そっちでは下が暴れれば上が捕まるシステムが出来上がってるし、どこもかしこも金儲けがメインで、暴力が使われるのは最後の最後だ。なんでリョウの仕事といったら殆どが、ただ突っ立って威圧感をアピールするだけ。アテが外れたって、何度も愚痴ぐちってたけど、そんくらいちょっと考えればわかるだろって……ホントにアホなんだよなぁ、アイツも」


 用意した原稿を読み上げるかのように、霜山はペラペラと語る。

 リョウが暴力に魅せられた理由、というのは気にならなくもない。

 しかし、訊いたところでロクでもない返答しか期待できないだろう。

 そう判断した晃は、好奇心を捻じ伏せて黙っておくのを選択した。


「裏社会からも離れたリョウが、欲求を満たすために選んだ方法は……街中でトラブルを起こした後、相手から手を出させて返り討ちにすること。リョウの体格じゃあ、警戒して誰もが揉め事は避けるよね。だから、釣り餌としてショボいガキを用意する。喧嘩になっても勝てそうだと感じる、丁度いい感じの雑魚を金で雇うんだ。相手が酔っ払ってたり女連れだったり、あとは三人以上が集まってるグループの場合、イキリっぷりが跳ね上がって揉め事になる率が高い」

「だけど……そんなん、すぐ捕まるだろ」


 晃は疑問をていするが、霜山は鼻で笑う。


「クフッ――圧倒的な暴力と、それによってもたらされた恐怖は、どうやってもぬぐい去るのは不可能だ。また同じ目に遭わされるとか、報復でもっと酷いことになるのを想像したら……警察沙汰にするのは、だいぶ勇気が要るだろうね。先に手を出してる、って負い目もある。ついでに、あんな図体の癖にワリと細かいリョウが、相手の身分証を没収してたのも保険になってたかも。まぁ、ちょっとやりすぎたなって時でも、掃除屋が何とかするしね」


 掃除屋というのは、ハリウッド映画に出てくるような、事件を揉み消したり死体を処理したりする連中だろう。

 ヤクザの用心棒って経歴があると、そういうのとも連絡がつくのか。

 タランティーノ作品のワンシーンを思い出しながら、日常から解離かいりした世界に生きている霜山たちに、晃は改めて血の気が引く思いがする。

 実際問題、出血多量で物理的にもマズい気がするのだが。


「リョウもねぇ、何をやっても大丈夫な環境を与えてみたら、全然ダメだった。クロと同じで、頭を使わずに一方的な暴力で人を殺すだけの、つまんない奴になっちゃった。哀しいけど……行き過ぎた自由ってのは、人間を精神的にも知的にも堕落させる、猛毒なのかもね」


 世の無常をうれうように、霜山は天をあおいで溜息を吐いた。

 そんな芝居がかった態度に、晃はイヤな予感をつのらせる。

 クロとリョウの話はたぶん、これで終わりだ。

 では、次は何をしてくるのか。

 咄嗟とっさの時に動けるか、少しずつ体の各部に力を入れて確かめていた晃は、霜山が玲次に視線を注いでいるのに気付く――

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