58 撃つと動く!
「ダイスケは、死んだ。リョウに、こっ……殺され、たっ。玲次は……玲次は、警察に通報するっていって、今は……別行動っ」
痛みに混乱しながら、途切れ途切れに霜山の問いに答える晃。
気力を振り絞り、咄嗟に思いついたデタラメを混ぜておく。
警察という単語に反応して、霜山の眉尻が不自然に動いた。
今更になって警察を気にするのも妙な話だが、どういうことだ――
考えたいのに激痛が集中力を散らし、どうにも頭が回らない。
「……他の二人は」
「だからっ、ダイスケは死んで――玲次は別行動、って」
霜山は質問を繰り返し、威圧感を滲ませて銃口を向けてくる。
だが晃は、その声音の中にそこはかとない焦りを読み取った。
警察を気にしているし、タイムリミットみたいなのがあるのかも。
こいつらは無敵の怪物でもなければ、不死身の悪魔でもない。
ブレーキが壊れているだけの、性根の腐った変態――快楽殺人者。
そこに思い至った晃は、僅かだが心の余裕が取り戻せた気がした。
「ねぇ、もう……終わりに、しない」
消え入りそうな声が、不意に提案してくる。
地面に跪かされ、俯いて黙っていた優希が、顔を上げて霜山に語りかけていた。
刺激するのはマズいが、この膠着が続くのもマズい。
もしかすると、この一言で事態がマシな方に転がるかも。
そんな期待をしたものの、霜山はノーリアクションだった。
晃に視線を固定したままで、優希の方を見ようともしない。
何か言うべきか――しかし下手に拗れた場合、ロクでもない結果を招く可能性もある。
面倒になった霜山が自分ら三人に発砲する、とか。
決めかねた晃は、とりあえず優希にこの場を任せようと決める。
「あなたも……捕まりたく、ないでしょ」
優希も、霜山の抱えている焦りを察しているようだ。
ここで引いてくれれば、とりあえずもうそれでいい。
自分の重傷ぶりも相当だが、晃としては佳織の状態が気懸りだ。
呻き声も叫び声も泣き声も聞こえず、地面に突っ伏して動かない。
耳を切られたショックで放心状態なのか、或いは気を失っているのか。
「どうかな……正直、ボクはどうでもいいんだけどねぇ」
やはり晃から目を逸らさず、霜山が投げ遣りに応じる。
「……えっ」
何を言ってんだコイツは、といった感じで優希が絶句する。
晃としても同感で、ポカンと口を開けて霜山を見返した。
その口ぶりは自然で、嘯くでも演じてるでもない。
ただ単純に、考えていることを答えただけに思えた。
見えかけた底が再び見えなくなったようで、晃の背筋は急速に冷える。
「さて、と……レイジくーん、その辺いるんだろー? 早く出てきなよー」
少しだけ声を張った霜山が、突如そんな呼びかけを開始する。
感情の入っていない棒読み――この流れはイヤな予感しかしない。
霜山は左手で佳織の髪を掴むと、強引に引き起こした。
そして右手に握った拳銃を、彼女の後頭部にグッと突きつける。
「やっ、やめっ――」
優希が止めようとするも、霜山に睨まれて口を噤む。
自分がどういう状態か理解していないようで、佳織は無反応だ。
晃は何かできないか検討するが、跳んだり走ったりするのは無理。
というか、この怪我だと歩くのも難しいと思われる。
「あれあれー? レイジくーん、お兄さんの彼女さん見捨てちゃうのー? ケイタ君に続いて、カオリちゃんもキミが殺すのかなー?」
相変わらずのムカつく棒読みで、霜山が煽っていた。
何してんだ――晃は一向に反応を見せない玲次に焦れる。
すぐ近くに潜んで、反撃のタイミングを窺っているのか。
それとも、既にこの場を離れてしまっているのか。
後者だった場合は、まず間違いなく佳織は助からない。
ついでに晃と優希も、おそらく無事では済まないだろう。
ガサッ
不意に、枝葉の擦れる音が鳴った。
霜山から見て左後方、手入れされていない植え込みが発生源。
滑らかな動作で右腕が動き、銃口がそちらに向けられる。
パンッ――ゴツッ
乾いた破裂音と何かが弾ける音が、ほぼ同時に晃の鼓膜に刺さる。
この音だったら、玲次には当たってない。
にしても、オモチャみたいな発砲音だな――
パンッ
晃がナメた感想を抱いた直後、再びの発砲音が響く。
さっきより少し左、蔦に取り巻かれた低木の枝がワサッと揺れる。
パンパンッ
霜山は、そこに向けても二発続けて撃ち込む。
だが、悲鳴も人が倒れる音もしない。
土に弾がめり込んだらしい、鈍い音だけが二つ聞こえた。
舌打ちが連発で聞こえる――出所は霜山らしい。
バサッ
最初に撃ち込んだ植え込みの辺りから、また不自然な音が。
かなり熱くなっている様子の霜山が、再び連続して銃爪を引いた。
パンッ――カチッ
だが、発射された銃弾は一発だけ。
その瞬間、晃は玲次の行動の意味を悟った。
「ぅるぁあああああああああああああああああっ!」
植え込みから飛び出した玲次が、霜山に向かって叫びながら疾走。
これまで音のした場所と、全然違う所から出てきたのに驚く晃。
左へ左へ移動していると思えたのは、玲次のミスリードだったのか。
小石を投げるなり何なりで、密かに移動している雰囲気を作る。
それに反応した霜山に発砲させ、弾切れ状態へと追い込んだのだ。
時間も余裕もない、今この場で選ぶ戦法としては最良に近い。
霜山がどうするつもりなのか、晃はその挙動を注視する。
拳銃は弾切れ、ナイフではキレてる玲次に通じないだろう。
なのに霜山は動かず、カラの銃で玲次を狙い続けている。
ハッタリのつもりか、それとも何か別の思惑があるのか。
意図が読めないが、とにかく玲次をフォローしなければ。
そう考え、痛みを堪えながら霜山の方へと躙り寄る晃。
近付くに連れて、霜山の姿がハッキリと見えてくる。
その手元を視認した晃は、自分の勘違いに気付いて怒鳴った。
「避けろっ! 玲――」
言い終える前に、玲次は派手に転倒して顔面を強打する。
いや、違う――転んだのではない、転ばされたのだ。
霜山の手にあるのは、いつの間にか拳銃からテーザーガンに変わっていた。
大破局or大団円まであと少し……
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