空母襲来
研究船パーズは、南太平洋を南アメリカの南端に向けてまっすぐに進んでいた。
南半球では冬が始まる季節だ。
と言っても、この辺りは季節も関係なく、かなり寒い。
研究船パーズの操舵室。
沖田一二三船長は、船長用の椅子に座り、外を眺めていた。
「なんとなくだが、嫌な予感がする。この船は、これまでいいことがなかったからなぁ」
沖田船長は、小さなため息交じりに声を出す。
静かな海に、いい思い出はなかった。
「そうですね、この船は今までに色々なものに襲われていますからね」
操舵手の山本が答える。
「海賊船に2回、軍艦に1回、そして、潜水艦にまで襲われていますからね。よくもまぁ、片方のエンジンの損傷だけで済んでいますよ。本当に奇跡ですよ」
佐伯航海士が言う。
「そうだな。やっぱりこの船には、幸運の女神が乗っているのだろう」
沖田船長は、笑う。
沖田船長は、パーズを攻撃した潜水艦が稲妻に当たって沈んだ時に、双眼鏡の端にチラリと見えた金髪の少女のことが忘れられない。
そして、ある金髪の少女のことも気になっていた。
乗客に謝罪をしていた時に出会った一人の少女である。
「船長! レーダーに異常です。戦闘機が3機、この船に接近しています。
佐伯航海士が言う。
「戦闘機だと? それだけか?」
沖田船長が大きな声をあげた。
「大型の空母もいます。本船の進行方向2時の方角です。まっすぐにこっちに向かってきますね。目標は、十中八九、我々でしょうね」
航海士の佐伯が、さらに大声を上げる。
沖田船長は慌てて、椅子から立ち上がり、双眼鏡でパーズの前方2時の方角を見る。
「確かに……、空母だ。戦闘機は全部で何機だ?」
「今のところ3機が接近中です。ですが、おそらくそれ以上いますね」
「よし、主砲用意!」
沖田船長は、低い声で言う。
「沖田船長! こんな時に冗談を言っている場合ですか、本船は主砲なんて持っていません!」
航海士の佐伯が言い返す。
「はは、なんてな……。でも、大丈夫だ、佐伯。本船には女神が乗っているのだ。とりあえず、乗客に周知だ」
沖田船長は、冷静な声で、佐伯航海士に言う。
「はい!」
佐伯航海士が、非常サイレン用の赤いボタンを押した。
ウウゥゥゥゥー!!!
サイレンの音が、パーズ船内に響きわたる。
「非常事態です。国籍不明の戦闘機と空母が本船に接近しています。各自部屋に戻り、部屋に待機してください。念のため、衝撃に備えていてください」
佐伯航海士はアナウンス用のマイクに向かって話した。
博士たちは居住部屋で、昼ごはんを食べていた。
「おいぃ、シンシア。今度は戦闘機と空母だって」
博士は、右手で頭をボリボリと掻いた。
「戦闘機かぁ。空を飛んでいるやつは、ちょっとしんどいかもしれないねぇ」
シンシアは食べかけのパンを皿に置いた。
「よし! じゃあ、トライデントが必要か?」
「うん! あった方がいいね」
「わかった、すぐに取ってくる」
博士は、急いで椅子から立ち上がり、教授室に置いてある神具トライデントを取りに行った。
「アムル、お前の力も必要かもな」
シンシアは、アムルの方に目をやる。
アムルは、レイアに抱っこされて、野菜スープを飲んでいた。
(あぁ、かもしれんな)
アムルは、脳波で、シンシアに同意する。
口では、野菜スープを味わっていた。
戦闘機を相手にするなら、雷を使える最高神ゼウスの力の方が役に立つであろう。
まだ力が完全ではないアムルでも、稲妻を落とすことは可能なのだ。
「この子も?」
レイアは不安な顔で、アムルの顔を覗き込む。
「……。」
シンシアは、無言で大きく頷いた。




