地母神ガイアを訪ねて
博士たちは、地母神ガイアに会いに行くための計画を練っていた。
パーズがオーストラリアに停泊している間に、オーストラリア大陸のどこかに住んでいる地母神ガイアに会いに行くためだ。
地母神ガイアの力を借りて、生物を作製することが主な目的だ。
「さて、ガイアの手がかりは、と。シンシア、ガイアはこの大陸のどこかにいるんだよな? オーストラリアは大きいからなぁ、闇雲に動いては見付からないぞ。何か目印みたいなのはないのか?」
博士たちは大城戸家の居住部屋のリビングでテーブルを囲んでいた。
「ガイアとは、何度も会ったことはあるよ。まぁ、彼女が海まで会いに来てくれたんだけどね。彼女の神殿は大きな岩の中にあるとか言っていたっけ。わたしは行ったことがないけれどね」
(残念だが、俺もない)
レイアの腕に抱かれたアムルは、シンシアの脳に語りかける。
「大きな岩ね……」
レイアが呟く。
「あれ、だろうな……。」
博士も、レイアに続けて、呟いた。
オーストラリアで大きな岩と言えばエアーズロックである。
先住民のアボリジニからは『ウルル (Uluru)』とも呼ばれている。
「……神聖な岩場だしな。地母神ガイアがいてもおかしくはないか。よし、そこを目指そう」
博士は、エアーズロックを目指すことに決めた。
車でとばせば、二日あればつく。余裕を持って3日で行くことを計画する。
車を運転するのは、博士と信一だ。
運転手要員として、助教の久保信一にも同行をお願いしたのだ。長距離の運転は、1人では危険だ。交代で運転した方が良い。
と言うわけで、大人3人と子供2人と、そして、犬一匹はレンタカーに乗り、エアーズロックを目指した。
大きなクーラーボックスと神具トライデントがルーフキャリアにくくりつけてある。
生物を作製するために必須の用意だ。
五月晴れの日、博士たちは、研究船パーズを出発した。
エアーズロックの近くまでの道は整備されている。
2メートルほどの細い木がポツポツと生えている平原の間を、ずっと運転してゆくのだ。
博士と信一は運転を交代しつつ、ほぼ1日がかりの運転で、ポートオーガスタと呼ばれる小さい町に着いた。
町中の道沿いには、レストランが点在している。有名なチェーン店も多数ある。
しかし、この町に至るまでの道中はほぼ平原だった。
「小さなレストランがあるな、せっかくだし何か食べて行くか?」
博士が、レストランを見つけ、その建物の前に車を停めた。
地元の小さなレストランだ。
店内は薄暗かった。
というよりも、外が明る過ぎる。何も遮るものもなく、大きなビルも無いため、どこにいても、太陽の光から逃れられない。
博士たちは、窓際の席に座った。そこは日陰になっており、時折、涼しい風が外から吹き込んでくる。
「ミートパイでもシェアするか? それと、ラムチョップでも頼むか?」
博士は、メニューをさっと眺め、声を上げた。
「はい、それで大丈夫です」
信一は頷く。
「Sounds good. (いいわよ)」
レイアも、博士の案に同意した。
「Hi, what can I do for you? (いらっしゃいませ、何になさいますか?)」
店員が注文をとりにやってくる。
「Hi, could we have a large meet pie and four pieces of lamb chop? (じゃあ、このミートパイの大きいのを一つと、ラムチョップの4つ入りで)」
それにレイアが注文を返した。
英語が主流のオーストラリアでは、レイアの英語も大活躍なのだ。
しばらくして、博士たちのテーブルに運ばれてきたのは、巨大なミートパイとラムチョップだった。
「わぁー、でかいですねー。食べきれますかねぇ?」
巨大なミートパイを見て、信一が声を出す。
ミートパイは、テーブルの半分ほどの大きさだ。
「大丈夫だよ、残ったら、持ち帰ろう。また、どこかで食べればいいし」
博士も、ミートパイの大きさに目を丸くしていた。
博士たちは、ミートパイとラムチョップに舌鼓を打った。
ミートパイのサクッとしたパイ生地の中にはゴロゴロと大きな肉の塊が入っている。
デミグラスソースに似た濃厚でかつ爽やかな酸味のソースが、ちょっと甘めのパイ生地と絶妙なハーモニーを奏でていた。
ラムチョップは香辛料で味付けされて、焼かれただけだ。
香辛料の香りが口の中に広がるが、ラム独特の匂いと味が、その存在感を主張する。
シンプルに焼かれただけの肉だが、からりと焼かれて少し縮こまった肉には、旨味が凝縮している。
アムルは、ミートパイの中身のどろっとしたソースの部分だけを食べさせられていた。
(なんだこの液体は、めっちゃくちゃ美味しいではないか〜)
アムルは笑顔でそれを堪能している。
余るかと思われたミートパイとラムチョップだったが、博士たちは、それらを全て平らげた。お腹が空いていたのであろう。もちろん、料理が美味しかったのも理由の一つだ。
ラムチョップの骨は、さーべるちゃんが床で、バリバリと音を立てて噛み砕いている。
皿の上には何も残っていない。
文字通り、完食だ。
「このコーヒー、すごく美味しいな」
博士は、思わず声を出す。
博士と信一は、食後のコーヒーも楽しんでいた。
オーストラリアもまた、コーヒーで有名である。
博士が飲んでいるは、『ブラック』コーヒーだ。ここではエスプレッソのことを指す。コップ一杯分のエスプレッソをストレートで飲めるのだ。
久保信一は、『フラット・ホワイト』コーヒーにした。ここオーストラリアでも人気のコーヒーだ。泡立てたミルクとエスプレッソを等量で割ったものである。
「おっ、ティムタムだ」
博士は、レストランの横の小さな売店を物色していた。
お腹はいっぱいだったが、車の中でお腹が空いた時のためにお菓子を買っておきたかったのだ。
小さな売店には、お菓子やパンなどが窮屈に並べられている。
ティムタムは、博士が噂に聞いていたオーストラリア名物のお菓子である。
博士は、ティムタムを数本とペットボトルの水を買った。
「何それ?」
と、シンシアは、興味深かそうに博士の手に取られたお菓子を見る。
「シンシアが好きなチョコパイに似たお菓子だよ」
「ふーん」
と、シンシアは目を輝かせる。
「ほら、半分っこしよう」
博士は、買ったばかりのティムタムを半分に折り、その半分をシンシアに渡した。
「わぁ、パパ。ありがとう」
シンシアは、四角いチョコパイとも思えるティムタムにかぶりつく。
今、ミートパイでお腹いっぱいになったはずなのに、チョコレートは別腹なのであろう。
「Leia, do you want a bite? (レイア、お前も一口いるか?)」
「Yeah, a bite, please. (うん、一口だけでいいわ)」
レイアは頷く。
博士は、半分になったティムタムをレイアの口に持ってゆく。
ウニャ
「Oops. (おっと)」
柔らかいティムタムは、レイアの口元で、崩れそうになる。
レイアは、口を押さえ、ティムタムのかけらを口に入れた。
(くぅぅ、俺も食べたい……。)
レイアの腕の中では、アムルが目を光らせていた。
博士たちは、しばしの休憩の後、車に乗り、エアーズロックを目指して走り出した。まだ行程の半分程度である。
道のりは長い。




