学生寮その一
前回のあらすじ。
校舎を案内してもらってた。
余談だが、担任する授業が始まる前に時間があったので俺は食堂に顔を出してみた。その際、従業員のおばちゃんに話を伺ってみた所「たまに混雑する事はあるけれど、昼食を持参してくる生徒も多い」という事が聞けた。やはり移動時間の都合上、昼に第二ブロック、第三ブロックからここまで来るのは生徒にも思う所があるのだろう、と悟った。食を優先するか、休憩時間を優先するか。意見が分かれそうな所ではある。
それらを踏まえて、俺は昼食を買っておく事にする。授業をするのが第三ブロックって事は、昼飯を買うならカフェか、この食堂まで来なければならない。カフェは混雑するだろうし、第四ブロックまで移動するのは面倒だ。俺も人事ではない。それに、教室で食べれば、生徒に混ざって一緒に昼飯を食べられる。打ち解けるには一緒に食事をするのが一番だろう。むしろ本当の狙いはこっちなのだ。
「あ、それじゃあ特別にこれも持って行くといいわ」
惣菜パンを二つ買ったのだが、あまり物で作ったという特製弁当をおばちゃんが寄越してくれた。なんとも嬉しい限りである。こういうサービスがあるから、生徒が食堂に来たがるのかもなぁ。
*
時間は校長室を出た時点まで遡る。
美崎達一行はエレベーターで二階まで降り、暫く歩き続け、学生寮に到着した。廊下を進んで来た先には軽いホテル級の広さのロビーがあって、ソファも幾つか設えられていた。「寮」というよりも「ホテル」と言った方が適切ではなかろうか。しかも、どういう設計なのか吹き抜けになっており、上階まで貫通しているようだった。流石は金持ち学校、と美崎はゴクリと唾を飲み込む。
フロントで九山は、従業員の女性に美崎と音無を紹介する。美崎は従業員の女性から寮の使い方、ルールを簡単に説明され、部屋の鍵を手渡された。カードキーではなく、鍵穴に刺して使う“シリンダー錠”と呼ばれるタイプだ。その部屋番号をふと見やると、<三○六号室>と書いてあった。美崎はその数字に疑問を抱き、従業員女性へと尋ねる
「あれ? この二階が全部学生寮なんですよね。“三○六”号室って、丸で三階にも部屋があるみたいな……」
「あぁ、ごめん。それに関しては私から説明するよ」
はい? と言った感じに小首を傾げる女性に代わり、九山が口を開いた。
どうやら、結論から言うと三階にも学生寮があるらしい。この本館は前にも言ったけど一階がピロティ、談話室など。二階が学生寮。三階が食堂と警備員の駐屯所。四階が校長室なのだが。建物は立方体をしているので、一階から四階まで各フロアの大きさは同じである。とすると、だ。四階は校長室しかない訳だが、校長室は執務ができる程度の部屋があれば広さを必要としないので、フロアの面積が余るのである。そんな感じで、本館の設計時、各フロアに余りが生じたらしい。一階はピロティ、二階は学生寮なので広大な分には問題無かったのだが、三階と四階が関門であった。その余った面積をどうしたかと言えば、くり抜いて階層を繋げたのである。その結果、四階建ての本館の中に三階分の寮が出来た、と言う事らしい。ロビーに吹き抜けがある時点で、既におかしいとは思ったが、つまり本館の二階から四階までは学生寮も併設されているのだろう。
「ああ、でもね。四階――校長室があるフロアの寮はね、区画を用意したはいいけど、誰も使って無いんだよね。余っちゃったんだよ」
九山さんによれば、中学生(殆ど利用者は居ないようだ)はこの本館二階の寮、数字の二○一から始まる部屋を使用していて、高校生は三階、三○一号室から始まる部屋を利用している。そして、四階の四○一から始まる部屋は、使用者が居ないらしい。
ちなみに、寮の入り口は本館二階にしか無い為、出入りするには必ずこのロビー、更に言えば第四ブロック、本館の二階を通らなければならない。アクセスを良くし過ぎると、生徒の怠慢に繋がると考えた学校側の計らいと、一箇所にまとめた方が誰が出入りしたか分かりやすい。――夜中に抜けだそうとする生徒が居るかもしれないし、登校する時には生徒の顔を確認する事も出来る。そういった事情に基づき、出入り口をまとめているようだった。それに、生徒達の安全を守る義務がある以上、あちらこちらからアクセス出来るようにしない方が、防犯の面でも適していると思われた。勿論、各階に非常口が設けられているし、緊急時は外からはしご車が駆け付け、部屋の窓から脱出できるように手配されているようだが。
「まぁ、色々無駄になっちゃったんだよね、ハハ。だから倉庫にしちゃおうかな、とか考えてる」
「はぁ、そうですか……」
部屋数が多過ぎたのは明白だろう。それはさておき、俺達が使う部屋は三階、三○六号室と。
寮入り口の吹き抜け部分には、豪奢な螺旋階段もあったのだが、その下部にエレベーターが設置されていた。俺達は迷わずそれを使って三階へと上がった。




