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研究職の中年が研究もせずに魔法でああだこうだでキリキリ舞い  作者: ディ・オル
第二章~学校編 vol.2~
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朝食セット

前回のあらすじ。

朝会が終わって、ザックリと校舎案内を受け、これから寮へと向かう途中……

 美崎はタブレット端末を九山に返して旅荷を背負うと、音無、それから九山と共に校長室を出た。


 現在美崎達が居るのはメインブロックで、その中の“第四ブロック”に相当する。ここで注意すべき点は、第四ブロックには大きく分けて二つ、建造物があるという所だろう。本館と別館の二つに分けられており、その本館の最上階――四階が校長室なのである。ややこしいのだが、一つのブロックに対し、建物が一棟だけとは限らないのだ。なお、別館は図書館となっている。こちらも四階建てで、蔵書の量は、カームシティで一番を誇る。

 第四ブロックの本館の構成は次のようになっている。一階がピロティと談話室。二階が学生寮。三階が食堂と、警備員詰め所。四階が校長室だ。

 美崎達はエレベーターで二階へと降りて行く。メインブロックにある建物は、一から四まで、その全てが四階建てとなっており、建物同士は連絡通路が設けられ、階層を移動しなくても別の建物に移る事が出来るようになっている。尤も、学生寮はこの本館の二階に格納されているので、連絡通路を通る事も無いのだが。

 ここまで闊大だと、生徒が移動するのに不便ではなかろうか、と美崎は疑問を口にする。


「こんなにハイテクなんですから、動く歩道とかにしないんですか?」


 九山は表情を一切変えず、急に押し黙る。歩いているので明確な表情は窺えないが、目が笑っていないように思える。美崎は「しまった! なにかタブーに触れてしまったのかも!」と目線を泳がせた。もしかしたら、そこまでの予算は工面出来なかったとか、動く歩道の隙間に挟まれて誰かが死傷したとか。様々な憶測が脳裏をよぎった。


(だよね……)


 九山は悔しそうに呟いた。


「はい? なにか言いました?」


「いや、独り言だよ」


 そうですか、と美崎は漏らすと、答えない九山に対し、更に一言加える。


「なんというか、距離が遠いと、生徒の教室移動とか大変そうじゃないですか」


「いや、それはね。時間割はちゃんとそれを考慮して作られているんだ。中学の授業は全て第二ブロック内で、高校の授業は第三ブロック内で、と言った感じでね。あとは体育の授業はサブブロックまで移動しなきゃいけないから、午後、つまり五・六時間目にまとめて行うとか。それに、簡単な体育なら一階のピロティで出来るんだよ」


 なるほど、と納得する美崎であった。加えて美崎にはもう一つ気になる点があったので、そちらに関しても尋ねてみる。


「そうなんですね。ちなみに、食堂は第四ブロック、本館の三階でしたよね。生徒が昼食を食べる時間とか、移動する時間で潰れちゃったりしないんですか?」


「そ、それもちゃんと考慮されている。あー、なお、諸事情により質問はこれ以上、受け付けない事にする」


 明らかに狼狽する九山であったが、実際はその点をちゃんと考えて、この学園内は設計されている。随所にカフェがあるのだ。それぞれのブロックに点在し、売店も各所にある。昼食を持参していない生徒には、最寄りのブロックにあるカフェや売店を利用してもらおうという算段なのである。それ故、生徒が第四ブロック以外の場所から食堂へと移動している間に時間が浪費され、昼食や昼休みの時間が減ってしまう、という事は無い。

 ……筈なのだが、九山は、この質問に対し、思い当たる節があった。四時間目の授業が終わった瞬間、猛然と廊下を走って第四ブロックの食堂へと向かう生徒の姿を、時折見かけるのだ。それに、間もなく昼休みが終わろうかという頃、食堂から、別のブロックへと走り去って行く生徒の姿も見かける。――いつも利用しているカフェに飽きる生徒も居るだろう。ランチメニューはそれなりに豊富な品揃えなのだが、食堂に行きたい生徒も居るのだろう。これについては、学校側の誤算であった。


 学生寮と同じ第四ブロックに配置されているこの食堂は、寮生活を営む生徒をサポートするべく、土日祝日は勿論の事、朝七時から夜八時まで営業している。その為、朝食セットやディナーといった概念の必要性が生じた。

 カフェと食堂で、ランチメニューに大きな差は無い。ランチには、だ。カフェや売店は土日祝日には閉まるし、ましてや早朝は営業していない。つまり、食堂にしか無い朝食と夕食という限定メニューが存在する。

 これがどう、昼食の騒ぎ――昼食は食堂もカフェもメニューが同じなのに、なぜか食堂へと走って行き来する生徒が居る事態――に繋がるのかと言うと

 ……校内の飲食店では、毎日決まった量の食材が納品されている。これは一カ月ごとに学校側が会議を開き、各ブロックごとでの需要と供給、売上、期限切れや売れ残りの廃棄量、従業員の意見や生徒の要望などを勘案して、発注されている。しかし、必ずしも予測した通りに物事が運ぶとは限らない。中学生に最近はハンバーグセットが人気だから、といつも通りに材料を発注したら挽き肉が余ってしまったり、和食セットの売り上げが落ちているから、と豆腐の発注を抑えたら在庫が無くなり、提供が出来なくなった一部生徒から不満を買ったりするのだ。生徒一人一人が何を食べたいかなど、その日その時で千変万化するようなものであり、魔法という概念が発展した現代でも予見する事は不可能だったからである。


 長くなったが、詰まる所、朝食セットが売れ残るのである。それは、食堂にしか存在しないメニューであり、しかも、毎日販売されているとは限らない。そんな幻のメニューを生徒が求めて食堂へと向かうのである。食堂と同ブロックに位置する学生寮の生徒が、食堂の従業員から「今日はあんまり朝食セットが売れてないのよねぇ」という言質を取った日には、第二ブロック、第三ブロックを巻き込んだ生徒達による聖戦、ジハードが起きるのである。ここまで予測出来なかった学校運営陣を、誰も責めようとはしなかった。


「今、この学校は最先端の技術と、魔法の勉強で注目されているから、こういう内情は大っぴらにはしないでね」


 九山はそう答えて、話を締め括ったのだった。


まだ授業は始まりません。というか、ちゃんと始まらない、かも…

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