変身!
レイン一家が、こちらに引っ越してきて初めての14夜(つまり満月の1日前)のこと、いつものように、家の手伝いに来て一緒に昼食をとっていたシェリー(ラッドの奥さん)が言った。
「ねえ、あなたは ふだん人間の姿をしているけど、レインのように獣人の姿になったり ダニーのようにオオカミの姿に変身できるの?」
「それは 私たち オオカミ獣人にとっては、とってもデリケートな質問だわ」ミオ
「あら そうなの。ごめんなさい。
この村に住んでいるのは 全員オオカミ男だから、いつもは人間形態、満月の夜だけオオカミの姿に変身するのよ。
アランから、この町の外では オオカミ獣人と呼ばれる人たちが住んでいて、その姿形については 人それぞれだと聞いてはいたのだけど、具体的なことは 何も知らなくて。
ただ これから ダニーに 変身問題について どのように教えていくのか気になったものだから。」シェリー
ミオはため息をついた。
「実はこの町の外では、オオカミ男伝説というのがあって、
人間が月夜になると狼に変身して人を襲うとか 凶暴化するとか、
一夜経つと その時のことを忘れてしまうとか って言われているの。
そして 私たち獣人も 実はオオカミ男の血が流れているのではないかと言われたりして、
みんな この問題には過敏なのよ。」
「私たちは 人を襲ったりしないわよ。
ただ この村の男達は 月夜の晩に のど自慢大会するのよ。
誰が一番 大声で吠えることができるか?とか
長く吠え続けることができるかって。
私たち女性にとっては、そんな大声大会するよりも
セレナーデの練習をして 私たち女性を楽しませてくれた方がいいのにねぇ」シェリー
「セレナーデですか?」ミオは 怪訝そうに尋ねた。
「そう 求愛の歌。
本来は 人間の姿で恋心を歌って聞かせるのが求愛の作法だったのに、
昔昔 歌の下手な男が、せっぱつまって 月夜の晩にオオカミの姿で ウォーン ウォーンって 切なく 女性の部屋の窓の下にうずくまって鳴いたんですって。
それで つい 女性の方が 哀れに思って窓を開けたらカップル成立しちゃったらしいの。
それ以来 オオカミ男たちは 月夜の晩に遠吠えを初めたってことになっているの。
嘘かほんとか知らないけれど。
この村では、求愛するときは、
ちゃんと 作法通りセレナーデを歌うか、
せめてラブレターでも書いて寄こしなさい、
キュンキュン鳴くのは禁止!反則!って、
いつも私たち女性は 男どもに言い聞かせているのだけど。
未婚のうちはともかく 結婚したら、男たちは 月夜の晩に
森に行って 大声大会を開くのが すっかり この村の新しい伝統になっちゃって。ほんといい迷惑!
もともとはね、月夜の晩に走り回ったり 力比べ・技比べをしていたのだけど、
ほら オオカミ村の住人が増えなくて 同じメンバーばかりだと
運動とか体力とかって序列がほとんど決まっちゃうでしょ。
その点 大声大会だと その日の気分で楽しめるからっていうのが、
その大声大会になった理由らしいのだけど。
それに参加しない私たち女性にとっては、ただただうるさいだけなのよ。
ほんと どうして きれいな歌声を競い合って 私たち女性を楽しませようとはしないのかしらねぇ・・。」
「女性たちは 月夜の晩にオオカミに変身しないのですか?」ミオ
「子供の頃は よく オオカミ姿で遊んだし
子育て中も オオカミ姿の子供と一緒になって私たちも変身して遊んだり、
勉強をさぼってオオカミ姿で抜け出そうとする子を追いかけたりしてたわよ。
でも 夜は しっかりと眠りたいわねぇ」シェリー
「もしかして 月夜以外にも 変身できるのですか?」
「もちろん。
それで 気になったのよ。
ダニーは オオカミ姿で
あなたたち夫婦がダニーをとっても大切にしているのも知っているけど、
お二人が オオカミに変身してダニーと一緒に過ごすところを一度もみたことがないことが。」
「実は私 赤ん坊のころはオオカミに変身できたらしいんです。
でも 父がそのことをすごく嫌がって。
人に知られたら危険だって。
だから 母も私も ずっと 人間の姿で生活してました。」
「どうして そんなことに?」
「たぶん 転移孔の向こうから入ってきた 異世界ファンタジーのせいだと思います。
じっさい よその種族の人から 『オオカミ獣人=異世界のオオカミ男と同じ凶暴な奴』ってデスられることがありましたから。」ミオ
「ほんと 噂を種にして、人を貶める物語を作って、身近な人間の足を引っ張ろうとする人達は嫌ね!
この町の住人は、外の世界で そういう嫌な思いをした人たちが
そんなことをしない人達だけの町にしようと考えて 町の運営をしているから、そういうことは心配しなくていいわよ。
だから オオカミに変身したい時は いつでも変身して。
あるいは 変身の仕方を忘れたのなら、私がお手本をみせることもできるわ。
それに ダニーに、変身の作法とか オオカミ姿と人間姿の使い分けについて 教える手伝いもできると思うの。
私も アランも そういうことは得意だから。」シェリー
「そうなんですか。
実は ダニーが いつ頃 どんなきっかけで人間姿になるのか 不思議に思っていたのです。」
「あの子は テレパシー能力が高いから
そばで 大人が 何度か変身したら 自分でコツをつかんで
自由に 人の姿になったりオオカミの姿になったりできると思うわ。
この村で 変身の使いこなしがうまいのは、アランとパッドと私よ。
私は ラッドの歌声が好きだから 彼と結婚したけど、
子供の頃は、アランの後についてパッドと一緒に森の中を走るのが好きだったわ。」
「そうなんですか!
じゃあ 私も ダニーと一緒に 変身の練習をしようかしら?
シェリー 教えてくれる?」
「いいわよ。」
本日17時に、「収納魔法と変身の練習」を公開します。




