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【合本版】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第五章 恋するエグゼクティブ3『乙女ゲームに転生した冷静生徒会副会長のヒロイン観察日記』

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『恋エグ3』第十八話 揺れる恋心〜あなたの隣にいるのは誰?

バーベキューと入浴を終えた頃には、すっかり夜も更けていた。

生徒会の面々は旅館の広間に集まり、次のイベントについて話し合っていた。


「腹もいっぱい、風呂も入った。となれば、次は……肝試しやろ!」

環季が楽しそうに宣言した瞬間、ヒマリの顔が引きつった。

「えぇっ!? 私、そういうの本当に苦手なんですけど!」


「大丈夫だよ、ヒマちゃん。僕が一緒なら怖くないでしょ?」

良樹がすかさず名乗りを上げる。

「は!? 何で勝手に決めてんだよ!」

凌が反射的に声を上げると、斗真も穏やかに笑った。

「……僕も、ヒマリちゃんと組みたいな。」

「あーあ。えらい人気者やなぁ。」

環季が面白そうに眺める中、ソノが静かに口を開いた。

「ここは公平に、くじ引きにしましょうか。」


その提案に、全員が異議なく頷いた。

もちろん、胸の内は同じだった。

――絶対にヒマリを引く。

しかし。


「……ソノ先輩!」

ヒマリが引いた紙を見て、ぱっと顔を輝かせた。

「やった! ソノ先輩と一緒だ!」


「えっ?」

男子三人の声が、きれいに重なる。


「よろしくお願いしますね。」

ソノは微笑みながら言った。


「はい!」

嬉しそうなヒマリを見ながら、男子たちは揃って複雑な顔をする。

そんな中、凌だけは小さく息を吐いた。

「……まぁ、ソノなら安心か。」


その言葉にヒマリが反応して、チラリと凌を見る。

(凌会長……ソノ先輩の心配してる。)


こうして、それぞれの思惑を抱えながら、肝試しが始まった。


◇


旅館の裏手から続く小道は、夜になると昼間とは別世界のようだった。

木々が風に揺れ、足元を照らす懐中電灯の明かりだけが、暗い道をぼんやりと照らしている。


「ひっ……!」

「大丈夫ですよ。」

ヒマリが小さな悲鳴を上げるたび、ソノは穏やかに声をかけた。

気がつけば、ヒマリはソノの袖をぎゅっと掴んでいる。


「すみません……。」

「いえ。そのままで大丈夫ですよ。」

優しく微笑むソノに、ヒマリは少し安心した。

しばらく歩いたあと、ヒマリは意を決したように口を開く。


「あの……ソノ先輩。」

「はい?」

「ソノ先輩って……凌会長のこと、好きなんですか?」

ソノは少しだけ目を見開いた。

「……どうして、そう思うんですか?」

「だって……二人、すごくお似合いだから。」

ソノはふっと小さく笑った。

「……そう見えますか?」


それ以上、何も答えない。

否定もしない。

その沈黙を見て、ヒマリの中で確信が深まっていく。

(否定しない……。やっぱり、そうなんだ!)


「……私、応援しますね!」

「え?」

「ソノ先輩のこと!」

「あの、ヒマリさん……。」

「あっ、ソノ先輩! 祠が見えてきましたよっ!」

ズンズンと先を進むヒマリに、ソノはそれ以上何も言えなかった。


◇


一方、その頃。

始めはペアを組んでいたものの、途中で合流した男子たちは四人で目的地へ向かっていた。

途中、妙な沈黙に包まれる。

その空気を破ったのは環季だった。


「なぁ。隠しててもしょうもないし、腹を割って話そーや!」

「何をだよ。」

凌が眉をひそめる。


環季はさらりと言った。

「みんな、ヒマリのことが好きなん?」


全員の足が止まった。

しばらくの沈黙のあと。


「……好きです。」

良樹が真っ直ぐに答えた。

「昔から、ヒマちゃんは僕にとって特別でした。」


その言葉に、斗真も静かに口を開く。

「……僕も。僕も、ヒマリちゃんが好きだよ。」


「……。」

凌の眉がぴくりと動く。

「な、何でそんな話になるんだよ!」


「じゃあ、凌は違うん?」

「……。」

全員の視線が凌へ集まる。

「黒崎先輩は……違うんですか?」

良樹に問われ、凌は口を開いた。

「……俺は――」


「凌会長〜!」

その時、遠くからヒマリの明るい声が響いた。

「みんな〜! 大丈夫ですか〜!?」

懐中電灯を振りながら、ヒマリとソノがこちらへ駆けてくる。


凌は言いかけた言葉を飲み込んだ。

「……別に、大丈夫だ。」

「良かった!」

ヒマリが安心したように笑う。


その笑顔を見つめながら、凌は視線を逸らした。


◇


肝試しを終え、女子部屋に戻った頃には、すっかり夜も更けていた。


「今日は楽しかったですね。」

布団の上で、ヒマリが笑う。

「バーベキューも肝試しも、みんなで一緒にできて。」


「そうですね。」

ソノも柔らかく微笑んだ。


「……あの。」

ヒマリは少し迷ってから尋ねる。

「さっきの話の続きなんですけど……ソノ先輩って、好きな人がいるんですよね?」


ソノはしばらくヒマリを見つめた。

「……はい。いますよ。」


「えっ!?」

ヒマリの胸がどくんと鳴る。

(好きな人、いるんだ……。やっぱり、そうなんだ!)


「でも、その人は――」

「あっ、言わなくて大丈夫です!」

ソノの言葉を遮るように、ヒマリは慌てて手を振った。

「私、分かってますから!」


なぜか、その名前を聞きたくなかった。

聞けば、何かが決定的になってしまう気がした。


「……そうですか?」

「はい!」


ソノは少し不思議そうな顔をしたあと、静かに尋ねる。

「ヒマリさんは?」

「え?」

「好きな人、いるんですか?」


ヒマリは息を呑んだ。

頭に浮かぶのは、いくつもの顔。

良樹。

斗真。

環季。

そして――。

『何でお前、食ってばっかなんだよ!』

ぶっきらぼうな声が、ヒマリの頭に響く。


ヒマリは俯いた。

「分からないです。自分の気持ちなのに……私、よく分からなくて。」


ソノは何も言わず、ただ優しく微笑んでいた。


◇


翌朝。

まだみんなが眠っている早い時間。

ヒマリは一人、海を眺めに外へ出た。

昨夜のソノの言葉が、ずっと頭から離れない。


――好きな人、いるんですか?


自分は、誰が好きなのだろう。

そんなことを考えながら海へ向かうと、そこには先客がいた。


「……凌会長?」


海を眺めていた凌が振り返る。

「……ヒマリ?」


目が合った瞬間、ヒマリはなぜか反射的に踵を返した。

「……失礼しました!」


「おい!」

凌が慌てて呼び止める。

「何で避けてんだよ!」

「避けてません!」

「嘘つけ! 今、完全に引き返そうとしただろ!」


ヒマリは黙り込んだ。

凌が近づいてくる。

「何だよ。俺、何かしたか?」


「違います。」

ヒマリは俯いた。

「私が……凌会長の側にいたら、ソノ先輩が困るかもしれないから。」


「……は?」

凌の動きが止まる。


「私、応援したいんです。」

「何を?」

「ソノ先輩と凌会長のことです。」

「……。」

「私、二人の邪魔にならないように……ちゃんと応援しますから!」


海から吹く風が、二人の間を通り抜けた。

凌はしばらく黙っていた。

そして、静かに尋ねる。


「……お前は、それでいいのか?」

「え?」

ヒマリが顔を上げる。

「俺がソノと付き合ったら……それでいいのか?」

「それは……。」


言葉が出なかった。

凌とソノ。

二人が一緒にいる姿を想像した瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

鼻の奥が、つんと痛くなった。

(あれ? 凌会長とソノ先輩が付き合うことを想像したら……どうしてこんなに悲しいの?)


「……。」

ヒマリは俯いた。

「俺が誰と付き合っても、お前には関係ないだろ?」

「……。」

「それなのに……何でそんな顔してんだよ。」


ヒマリは唇を噛んだ。

「……分からないです。」

声が少し震える。

「私、自分のことなのに分からない……。」

胸元をぎゅっと握る。

「凌会長のことも、ソノ先輩のことも好きで……二人に幸せになってほしいのに……。」

ヒマリは苦しそうに顔を歪めた。

「私……おかしいですよね?」


「……。」

凌はしばらく何も言わなかった。

そして。

「……おかしくなんかねーよ。」


ヒマリが顔を上げ凌を見る。

凌はどこか苦しそうに笑った。

「俺だって、同じだから……。」

「……え?」


ヒマリは、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。

静かな朝の海に、二人の間を抜ける風の音だけが響いた。


「おーい!」

遠くから、環季の声が響いた。

「二人とも! そろそろ出発やでー!」


ヒマリと凌は、同時にそちらを振り向く。

「……行くぞ。」

「……はい。」

二人は並んで歩き出した。


二人の胸の奥では、それまで気づかないふりをしていた何かが、確かに動き始めていた。

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