第九話 勉強会イベント、開始早々バグりました!?
本来の主人公・サクラが生徒会へ加わり、『恋エグ』のメインシナリオはいよいよ本格始動――
……の、はずだった。
放課後の生徒会室。
私は書類を整理しながら、開発者としての記憶を総動員して今後の展開を思い返していた。
(次は、定期考査イベントだよね)
恋愛シミュレーション『恋エグ』において、定期考査は重要なイベントの一つだ。
プレイヤーは攻略対象の中から二人を選び、一緒に勉強会を行う。
親密度を上げたり、個別ルートの伏線を回収したり。
選択肢次第で、その後の展開が大きく変わる。
視線を向ければ、サクラが勇気を振り絞って律と絢に声をかけていた。
「律くん、絢さん! よかったら一緒に勉強しませんか?」
「お菓子も作ってきたんです! 休憩の時にでも――」
けれど。
「……それよりさ」
律はサクラではなく、なぜか私を指差した。
「玲って本当にすごいんだよ。あんたクラスメイトなんでしょ? クラスではどんな感じなの?」
「え?」
「昔からあんな完璧なの? 授業中ってどんな風なの?」
「いや、その……」
質問攻めに遭うサクラ。
「もっと教えてよ」
律の瞳はきらきらと輝いていた。
ただし、向いている先は玲である。
(違う違う違う!! そこはヒロインとの会話イベントだから!! なんでヒロインじゃなくて私の情報収集してるの!? )
「絢さん、お菓子どうですか?」
「……今、勉強に集中したいので」
ぱらり。
教科書のページをめくる。
「静かにしていただけますか?」
「…………はい」
完全敗北。
サクラの恋愛フラグは、今日も音を立てて折れていた。
一方。
(……いや、人のこと考えてる場合じゃないな)
如月玲は完璧超人だ。
文武両道。成績優秀。非の打ち所がない生徒会長。
――しかし。
中身はゲーム開発オタクである。
(万が一赤点なんて取ったら大惨事だよ!? 如月玲ブランドに傷がつく!!)
それだけは避けなければならない。
(せっかくだし、私も誰か誘って勉強会しよう!)
過去問を持っていそうな人物。三年生。面倒見も良さそう。
(……よし)
私は立ち上がった。
「ねぇ、烈!」
「ん?」
「俺と付き合ってほしいんだけど!」
生徒会室が静まり返った。
烈だけではない。
豪が固まり。
律が瞬きを忘れ。
絢の笑顔が止まり。
冴が本から視線を上げた。
サクラは両手を口元に当て赤面している。
私は続ける。
「三年生だし、過去問も持ってるでしょ? 烈の部屋で一緒に勉強会できたらいいなぁって」
「……おい」
ぴくり。烈のこめかみが引きつった。
「それを先に言えよ! 言い方が紛らわしいんだよ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なんで最初に『俺と付き合ってほしい』なんだよ!!」
「え、だって勉強会――」
「普通そうはならねぇだろ!!」
烈が大きくため息を吐いた。
「あー、もう分かった分かった」
乱暴に金髪をかき上げる。
「付き合ってやるよ」
そして、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「俺の部屋で二人きり、みっちり教え込んでやるからな?」
「ダメ! 玲は俺が教える!」
律が即答した。
「おい! 二人きりは危険だろ! 俺も行く!」
豪も立ち上がる。
「ふふ、僕もお手伝いできますよ?」
絢が穏やかに微笑んだ。
「……私も参加する。過去問と参考書を持ってこよう」
冴が淡々と告げる。
「は、はいっ! 私も参加させてください!」
サクラまで勢いよく手を挙げた。
「おお! じゃあ、せっかくだし生徒会室でみんなで勉強会しようか!」
私はぱっと顔を輝かせた。
「……チッ」
烈が露骨に舌打ちした。
「「「「…………」」」」
残る四人は互いを牽制するように視線を交わす。
どうやって玲の隣を確保し、二人きりの時間を作るか――それぞれが静かな火花を散らしていた。
当の本人はそんな攻防など露ほども気づかず――
(推したちと勉強会!! なにこの神イベント!? 勉強してる推しが見放題!? 贅沢すぎる!!)
と、推しに囲まれる幸福にひたすら頬を緩めるのだった。
こうして今日も――ヒロインの恋愛フラグは全く立たず、イベントは開始わずか五分で盛大にバグるのだった。
【恋エグ攻略メモ】
▶白砂律:45/100(玲の隣は自分の場所)
▶鬼塚烈:42/100(二人きりを逃して不機嫌)
▶黒崎冴:41/100(烈への危機感が強まる)
▶神城豪:41/100(守りたい気持ちが育つ)
▶千早絢:40/100(静かな独占欲が成長中)




