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【連載版】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第一章 恋するエグゼクティブ(前編)

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第十話  絢ルート、解放したら攻略されかけました!?

ドタバタはあったものの、勉強会の成果もあって定期考査は無事終了した。

生徒会メンバーも全員、赤点を回避。

(よかったぁ……!)

私は心の底から安堵の息を吐いた。

(赤点を取ると、ペナルティとして攻略対象との交流時間が減るんだよね。しかも好感度まで下がる仕様だったし……)

自分で作ったシステムを思い出し、じわりと冷や汗が滲む。

(危ない危ない……!)

もしここで誰かが赤点を取っていたら、大切なイベントが消えていたかもしれない。

それだけは絶対に避けたかった。


さて、今日は学園が設けた部活動の活動休息日。

もちろん生徒会の活動もない。

(今日は絢とお買い物イベントの日!!)

以前交わした約束を果たすため、私は街へと繰り出していた。


待ち合わせ時間より少し早めについた私は、ドキドキと絢を待つ。

すると、絢は時間ぴったりに待ち合わせ場所に現れた。

普段は制服をきっちりと着こなしている彼が、今日は柔らかな色合いのニットに細身のパンツという、シンプルだけど彼らしい私服姿だった。

さらりと風に揺れる髪、整った横顔、落ち着いた物腰。

街を行き交う人たちが、男女問わず思わず振り返るのも無理はない。

(絢の私服イベント!! 公式イラストで何百回も見たけど尊い~~!!)

脳内の限界オタクが盛大に絶叫する。


「お待たせしました。」

穏やかな声に、私ははっと我に返る。

「……玲?」

不思議そうに首を傾げた絢が、こちらを覗き込んだ。

「どうかしましたか?」

「あっ、ご、ごめん。」

思わず視線を逸らす。

「ちょっと……見惚れてた。」

「……え?」

絢が一瞬だけ目を見開いた。

そして、ほんの少しだけ目を細めて微笑む。

「ふふ、それは光栄ですね。」

その柔らかな笑みに、今度は私の方が照れてしまう。

(人気投票常連キャラ、恐るべし!)


最初に訪れたのは、可愛らしい雑貨店だった。

店内には色とりどりの小物やアクセサリー、ぬいぐるみが並んでいる。

「わぁ……!」

思わず声が漏れた。

猫のキーホルダー、花柄の小物入れ、可愛らしいマグカップ――。

どれもこれも魅力的で、自然と頬が緩む。

(こういうお店、最近ゆっくり見て回ることできなかったもんなぁ……)

「玲は、こういうものがお好きなんですね?」

「好き! 大好き!」

即答だった。

棚から棚へ移動しながら、私は目を輝かせる。

夢中になってはしゃぐ私を見つめながら、絢はどこか満足そうに微笑んだ。

周囲では、女性客たちのひそひそ話が聞こえてくる。

「見て、あの二人……」

「モデルさんかな?」

「すごく絵になる……」

「恋人同士かな?」

ほう、と感嘆のため息が店内を満たしていた。


買い物を終えたあと、私たちは近くのカフェへ立ち寄った。

注文を済ませた私は席を立つ。

「ちょっとトイレ行ってくるね。」

「ええ。ごゆっくり。」

微笑む絢に手を振り、席を離れる。

(男の子の体でのトイレって、未だに慣れないんだよね……)

転生して数か月。

だいぶ順応したつもりだったが、こういう時だけは未だに戸惑ってしまう。

(そのうち慣れるのかなぁ……。)

用を済ませ、席へ戻ろうとした――その時。


「ねぇ君、一人?」

「良かったら俺たちと遊ばない?」

知らない男たちの声に視線を向けると、数人の若い男性に囲まれている絢の姿が見えた。

「…………。」

困ったように微笑んでいる。

けれど、その瞳は全く笑っていなかった。

(うわっ!? ナンパ!?)

気づいた瞬間、体が勝手に動いていた。

「――俺の連れに、何か用かな?」

絢の前へ立ちはだかる。

生徒会長として培った、完璧な営業スマイル。

「あ?」

「連れ?」

「ああ。」

私は微笑んだ。

「大事な連れなんだ。」

男たちは顔を見合わせる。

そして、私と絢を交互に見比べた。

「なんだよ。連れいるなら先に言えよ。」

「行こうぜ。」

面倒事だと判断したのだろう。

男たちは舌打ちしながら、その場を去っていった。


「……っ」

姿が見えなくなった瞬間。

(こ、怖かったぁぁぁ……!!)

一気に力が抜けた。

心臓がうるさい。

手も少し震えている。

「玲。」

ふわり。温かな感触が指先に触れた。

「……絢?」

いつの間にか、絢が私の手を包み込んでいた。

「ありがとう。」

優しい声。

「無理をさせてしまいましたね。」

「え?」

「本当は、怖かったのでしょう?」

「…………。」

見透かされていた。

「最近のあなたは、なんだか目が離せません。」

静かな声。けれど――

真っ直ぐに向けられた瞳には、強い熱が宿っていた。

「あなたに何かあれば――」

包み込む手に、わずかに力がこもる。


「今度は、僕があなたを守ります。」


深窓の令嬢のような美しい容姿に、穏やかな微笑み。

けれどその眼差しだけは、誰よりも強く真っ直ぐだった。


その日の帰り道――

「あ、そうだ。」

絢は思い出したように紙袋を差し出した。

「これ、どうぞ。」

「え?」

中を覗いた私は、思わず目を見開いた。

「これ……!」

猫のキーホルダー。

雑貨屋で私が可愛いと言っていたものだった。

「売り切れてたやつじゃ……!?」

「玲が別の棚を見ている間に見つけたので。」

「絢ぁぁぁ!!」

感動のあまり抱きつきそうになる。

(絢………優しい……!! 好き……!! ……いや、違う違う違う!!)

ぶんぶんと首を振る。

(私はプレイヤー側!! 攻略する側!! される側じゃない!! 断じてない!!)

胸キュンイベントの連続に、危うく攻略されかけた自分を全力で引き戻す。


「ありがとう! 大切にするね!」

「喜んでもらえて良かったです。」

穏やかな声音。

けれど、その眼差しはどこか熱を帯びていた。

もちろん、そんな熱い視線には全く気づかず、満足げに頷く私。

(よーし! 絢ルートも解放できたし、順調順調!!)


一方、絢は静かに微笑んでいた。

その瞳に宿る想いを、誰にも悟らせないまま――。

嬉しそうに猫のキーホルダーを眺める玲の横顔を、愛おしそうに見つめていた。

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