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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ


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第十話  絢ルート、解放したら攻略されかけました!?

ドタバタはあったものの、勉強会の成果もあって定期考査は無事終了した。

生徒会メンバーも全員、赤点を回避。

(よかったぁ……!)

私は心の底から安堵の息を吐いた。

(赤点を取ると、ペナルティとして攻略対象との交流時間が減るんだよね。しかも好感度まで下がる仕様だったし……)

自分で作ったシステムを思い出し、じわりと冷や汗が滲む。

(危ない危ない……!)

もしここで誰かが赤点を取っていたら、大切なイベントが消えていたかもしれない。

それだけは絶対に避けたかった。


さて、今日は学園が設けた部活動の活動休息日。

もちろん生徒会の活動もない。

(今日は絢とお買い物イベントの日!!)

以前交わした約束を果たすため、私は街へと繰り出していた。


待ち合わせ場所に現れた絢の姿を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。

普段は制服をきっちりと着こなしている彼が、今日は柔らかな色合いのニットに細身のパンツという私服姿だった。

さらりと風に揺れる髪。整った横顔。落ち着いた物腰。

街を行き交う人たちが、思わず振り返るのも無理はない。

(絢の私服イベント!! 公式イラストで何百回も見たけど尊い〜〜!!)

脳内の限界オタクが盛大に絶叫する。


「お待たせしました」

穏やかな声に、私ははっと我に返る。

「……玲?」

不思議そうに首を傾げた絢が、こちらを覗き込んだ。

「どうかしましたか?」

「あっ、ご、ごめん」

思わず視線を逸らす。

「ちょっと……見惚れてた」

「……え?」

絢が一瞬だけ目を見開いた。

そして、ほんの少しだけ目を細めて微笑む。

「ふふ、それは光栄ですね」

その柔らかな笑みに、今度は私の方が照れてしまう。

(人気投票常連キャラ、恐るべし!)


最初に訪れたのは、可愛らしい雑貨店だった。

店内には色とりどりの小物やアクセサリー、ぬいぐるみが並んでいる。

「わぁ……!」

思わず声が漏れた。

猫のキーホルダー。花柄の小物入れ。可愛らしいマグカップ。

どれもこれも魅力的で、自然と頬が緩む。

(こういうお店、最近ゆっくり見ることなかったなぁ……)

「玲は、こういうものがお好きなんですね?」

「好き! 大好き!」

即答だった。

棚から棚へ移動しながら、私は目を輝かせる。

夢中になってはしゃぐ私を見つめながら、絢はどこか満足そうに微笑んだ。

周囲では、女性客たちのひそひそ話が聞こえてくる。

「見て、あの二人……」

「モデルさんかな?」

「すごく絵になる……」

「恋人同士かな?」

ほう、と感嘆のため息が店内を満たしていた。


買い物を終えたあと、私たちは近くのカフェへ立ち寄った。

注文を済ませた私は席を立つ。

「ちょっとトイレ行ってくるね」

「ええ。ごゆっくり」

微笑む絢に手を振り、席を離れる。

(男の子の体でのトイレって、未だに慣れないんだよなぁ……)

転生して数か月。

だいぶ順応したつもりだったが、こういう時だけは未だに戸惑ってしまう。

(そのうち慣れるのかなぁ……)

用を済ませ、席へ戻ろうとした――その時。

「ねぇ君、一人?」

「良かったら俺たちと遊ばない?」

知らない男たちの声に視線を向けると。

数人の若い男性に囲まれている絢の姿が見えた。

「……」

困ったように微笑んでいる。

けれど、その瞳は全く笑っていなかった。

(うわっ!? ナンパ!?)

気づいた瞬間、体が勝手に動いていた。

「――俺の連れに、何か用かな?」

絢の前へ立ちはだかる。

生徒会長として培った、完璧な営業スマイル。

「あ?」

「連れ?」

「ああ」

私は微笑んだ。

「大事な連れなんだ」

男たちは顔を見合わせる。

そして、私と絢を交互に見比べた。

「なんだよ。連れいるなら先に言えよ」

「行こうぜ」

面倒事だと判断したのだろう。

男たちは舌打ちしながら、その場を去っていった。


「……っ」

姿が見えなくなった瞬間。

(こ、怖かったぁぁぁ……!!)

一気に力が抜けた。心臓がうるさい。手も少し震えている。

「玲」

ふわり。温かな感触が指先に触れた。

「……絢?」

いつの間にか、絢が私の手を包み込んでいた。

「ありがとう」

優しい声。

「無理をさせてしまいましたね」

「え?」

「本当は、怖かったのでしょう?」

「……」

見透かされていた。


「最近のあなたは、なんだか目が離せません」

静かな声。けれど――

真っ直ぐに向けられた瞳には、強い熱が宿っていた。

「あなたに何かあれば――」

包み込む手に、わずかに力がこもる。

「今度は、私があなたを守ります」

深窓の令嬢のような美しい容姿。穏やかな微笑み。

けれどその眼差しだけは、誰よりも強く真っ直ぐだった。


その日の帰り道――

「あ、そうだ」

絢は思い出したように紙袋を差し出した。

「これ、どうぞ」

「え?」

中を覗いた私は、思わず目を見開いた。

「これ……!」

猫のキーホルダー。

雑貨屋で私が可愛いと言っていたものだった。

「売り切れてたやつじゃ……!?」

「玲が別の棚を見ている間に見つけたので」

「絢ぁぁぁ!!」

感動のあまり抱きつきそうになる。

(絢………優しい……!! 好き……!! ……いや、違う違う違う!!)

ぶんぶんと首を振る。

(私はプレイヤー側!! 攻略する側!! される側じゃない!! 断じてない!!)

胸キュンイベントの連続に、危うく攻略されかけた自分を全力で引き戻す。

「ありがとう! 大切にするね!」

「喜んでもらえて良かったです」

穏やかな声音。

けれど、その眼差しはどこか熱を帯びていた。

もちろん、そんな熱い視線には全く気づかず、満足げに頷く私。

(よーし! 絢ルートも解放できたし、順調順調!!)

一方、絢は静かに微笑んでいた。その瞳に宿る想いを、誰にも悟らせないまま――。

嬉しそうに猫のキーホルダーを眺める玲の横顔を、愛おしそうに見つめていた。

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