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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ


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第八話 イケメン達にヒロイン力が効きません!

うっすらと意識が浮上する。

最初に視界へ飛び込んできたのは、白を基調とした見慣れない天井だった。

「……ここ、は……?」

消毒液の匂い。

柔らかなカーテン越しの西日。

保健室だ、と理解した瞬間。


「あっ! 目が覚めた!」

鈴を転がしたような愛らしい声が耳に届いた。

顔を向けた先。

そこにいた少女を見て、私は固まる。

ふわふわと揺れる桃色の髪。

同じ色をした、うるうると大きな瞳。

守ってあげたくなるような小柄な体躯に、柔らかな笑顔。

本作『恋エグ』の、本来の主人公サクラだった。


(うわあああああああああああ!!!!!)

脳内で限界オタクが絶叫する。

(サクラちゃんだーーーっ!!)

(本物!! 本物のサクラちゃん!!)

(何この透明感!? 三次元になった瞬間の破壊力えぐい!!)

(ヒロインオーラが眩しい!! 浄化される!!)

思わず拝みそうになるのを必死に堪える。


「会長、大丈夫ですか?」

サクラは心配そうに身を乗り出した。

「生徒会室で倒れたって聞いて……。クラスメイトとして、放っておけなくて」

不安げに揺れる瞳。

健気な声音。

まさしく王道ヒロイン。

(かわいい……。)

(尊い……。)

(保護したい……。)

心の中で五体投地しながら、表面上だけは生徒会長らしく微笑んだ。

「ありがとう、サクラちゃん。付き添ってくれて助かったよ」

「い、いえっ!」

ぱっと花が咲くように笑う。

その仕草ひとつひとつが可愛い。

(モーション班、本当に仕事しすぎでは……!?)

私は内心で拍手喝采を送り続けていた。


放課後。

体調もすっかり回復した私は、サクラを連れて生徒会室へ戻った。

扉を開けた瞬間。

「玲!」

「如月!」

「会長!」

「大丈夫でしたか?」

「……平気か?」

待ち構えていた五人の声が一斉に飛んでくる。

全員がそわそわと落ち着かない様子でこちらを見つめていた。

(あぁ〜〜〜!!)

(みんな心配してくれてたの!?)

(優しい!! 推し達が優しい!!)

(ここが天国か!?)

幸福の過剰摂取で限界オタクは瀕死だった。

私は咳払いを一つして、気を取り直す。

「みんな、心配をかけてすまない。体調はもう万全だ」

そして隣に立つ少女へ視線を向けた。

「それと――今日から生徒会の書記として入部することになった、サクラだ。みんな、仲良くしてあげてくれ」


「よ、よろしくお願いしますっ!」

サクラは一歩前へ出た。

そして。

本来の主人公としての実力を、遺憾なく発揮する。

「新しく書記になりました、サクラですっ!」

両手を胸の前でぎゅっと握る。

「不慣れなところもありますが、一生懸命頑張りますっ!」

そして。

きらきらした笑顔で私を見上げた。

「……特に、私を誘ってくれた玲会長の足を引っ張らないように、お傍で頑張りますねっ♪」

そう言って、私の両手をぎゅっと握る。

上目遣い。

はにかむ笑顔。

小動物のような愛らしさ。

完璧だった。

(あー、このイベントあったなぁ。)

(サクラちゃんの好感度上昇イベント。)

(実際に見るとやっぱり可愛いなぁ。)

(頑張れ頑張れ〜。)

ゲーム開発者としては感慨深い。

しかし。

それ以上でも、それ以下でもなかった。

完全に親戚の子どもを見守るような気持ちである。

一ミリたりとも恋愛感情は湧かない。


一方。

攻略対象たちは――。

「…………」

空気が、凍った。

最初に口を開いたのは冴だった。

ライトブルーの瞳が、私達の手元へ落ちる。

「……玲」

静かな声、なのに背筋が冷える。

「病み上がりの人間に、随分と遠慮がないんだな」

 冷え切った視線は、まるで獲物を値踏みする猛獣のようだった。


「ねぇ、玲」

今度は律が私の制服の裾を引っ張る。

「俺、まだゲームの続き待ってるんだけど」

じっと私だけを見上げた。

「その子の相手、今じゃなきゃダメ?」

あからさまな不満顔である。


「っ……!」

豪は顔を真っ赤にして固まっていた。

視線の先は、私とサクラの繋がれた手。

そして。

脳裏に蘇るのは――。

『彼氏にするなら豪みたいな人がいい』

あの日、自分が両手を握られた記憶。

「な、なんで……!」

頭を抱える。

「なんで俺ばっかこんなこと思い出すんだ……!」

完全にキャパオーバーだった。


「ふふ。歓迎しますよ、サクラさん」

絢はいつも通り穏やかに微笑んだ。

「ですが、玲は病み上がりですから」

柔らかな笑みのまま。

するりと私達の間へ割り込む。

「あまりおねだりはほどほどに、ね?」

にこり。

その笑顔の奥で、威圧感が火花を散らしていた。


「おい、会長」

烈はぶっきらぼうに声をかける。

「体、本当に大丈夫なんだろうな」

サクラには一瞥もくれない。

「無理してんなら言えよ」

低い声には、隠しきれない気遣いが滲んでいた。


誰も。

誰一人として。

新入部員の可憐な少女を見ていなかった。

全員の視線は、意識は、感情は。

ただ一人。

如月玲だけへ向けられていた。


「……え?」

サクラは小さく瞬きをする。

(あれ……?)

(いつもなら……。ここでみんなの好感度が上がる音がするはずなのに……?)

桃色の瞳が、不思議そうに揺れた。

(玲会長のことばっかり見てる……?)


その違和感はまだ小さなものだった。

けれど確かに。

本来の物語は、静かに形を変え始めていた。

主人公であるはずのサクラの「ヒロイン力」は。

誰一人として、攻略対象たちの心を動かさない。

その代わりに。

無自覚な限界オタク生徒会長が、本人も知らぬまま彼らの中心に立っている。


本来ならヒロイン無双が始まるはずだった恋愛シミュレーションは――。

誰も予想しなかった方向へと、さらに大きく舵を切り始めるのだった。

【恋エグ攻略メモ】


▶白砂律:36/100(観察対象。興味が止まらない)

▶神城豪:32/100(もっと頼ってほしい)

▶黒崎冴:31/100(守備範囲に入った)

▶千早絢:30/100(独占したくなる相手)

▶鬼塚烈:28/100(気づけば目で追っている)

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