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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ


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第七話 裏ボス先輩のお仕置きタイム!?

放課後の生徒会室。

今日も、なぜか私の周りはいつも以上に賑やかだった。

「ねえ玲。早く次のゲーム勝負しよ!」

 袖をきゅっと引っ張る律。

「こ、今月の予算書だ! ちゃんと確認しろよな!」

 顔を真っ赤にしながら書類を差し出す豪。

「玲、デートの場所ですが……僕が選んでもよろしいですか?」

 おっとりと微笑む絢。

「会長様は人気者だね〜。そうだ、今から2人で抜け出さねぇ?」

 楽しげに誘ってくる烈。

(みんなして私に構ってくれて可愛すぎる……ここが天国か!?)

 限界オタクは、本日も幸福の過剰摂取で瀕死だった。


 ――そんな時。

生徒会室の重厚な扉が、静かに開いた。

カチャリ。

たったそれだけの音だったのに。

室内の温度が、数度下がったような錯覚を覚える。

「……随分と賑やかだね」

ブルーブラックの髪。

西日にきらりと光る銀縁眼鏡。

すべてを見透かすようなライトブルーの瞳。

静かな足取りで立っていたのは――前生徒会長、黒崎冴だった。

その瞬間。

さっきまで騒いでいた四人の空気が、ぴたりと止まる。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

そして全員が、ほぼ同時に悟った。

――目が、笑っていない。


「私の可愛い後継者を、随分と他の犬たちが囲んでいるようだな。少し、玲と二人で話がしたい。席を外してくれるか?」

「……は、はい」

「お、お邪魔しました!」

「失礼します……」

「……じゃあな、会長」

逆らったら終わる。

本能でそう察した四人は、玲へ名残惜しそうな視線を送りながら、生徒会室を後にした。

バタン。

静寂が落ちる。


(あれ?)

(なんか急に空気重くない?)

そんな私の前へ。

冴はゆっくりと歩み寄ってきた。

一歩。また一歩。

逃げ場を塞ぐように。

そして。

執務机の椅子に座る私を閉じ込めるように、両側の肘掛けへ手をついた。

「……っ」

逃げ場のない距離。

銀縁眼鏡の奥。

氷のように冷たい瞳が、真っ直ぐこちらを見下ろしている。

「玲。朝、私に『全力で頑張る』と言ったばかりだというのに……随分と他の男たちに安売りされているじゃないか。」

ライトブルーの瞳が細められる。

「私の選んだ完璧なパーツが汚されるのは、あまり気分が良くないな」

ぞくり。

背筋を冷たいものが駆け抜ける。

極上の低音。

静かな圧力。

圧倒的な支配者の気配。

――にもかかわらず。


(ひゃああああああん!!)

私の脳内は、別の意味で大爆発していた。

(冴様の椅子閉じ込めドン!!)

(独占欲全開の冷たい瞳!!)

(怒らせたら一番ヤバい裏ボス設定そのままじゃん! 最高のごちそうすぎる!!)

恐怖どころか、感動で胸がいっぱいになる。

私は憧憬の眼差しで思わず目を輝かせた。

「冴先輩にそんな風に言ってもらえるなんて……本当に幸せ者ですね!」


「……っ、お前……」

初めて黒崎冴が、本気で目を見開いた。

今までなら、誰もが怯え、言葉を失った。

以前の如月玲ですら、息を呑み、謝罪を口にしただろう。

なのに。

目の前の玲は、頬を上気させ、まるで至高の宝物を前にしたかのように自分を真っ直ぐに見つめ返してきている。

 「……面白いな。私の圧を前にしてそんなに嬉しそうな顔をする人間は、お前が初めてだ」

静かな声だった。

けれど、その瞳の奥には今までとは違う熱が宿っていた。

冴は片手を離し、眼鏡のブリッジを押し上げる。

そして。

冷たい指先で、私の顎をそっと持ち上げた。

「そんな瞳で私を見るのなら」

ライトブルーの瞳が眼前まで迫る。

もはや吐息まで届きそうな距離だった。

「もう二度と、他の奴らにその顔を見せるな。お前をここまで変えたのが誰なのか、その身体にじっくりと刻み込んであげようか」


ヤンデレセリフの過剰摂取ーー

限界オタクの脳は、ついに容量オーバーを迎えた。

転生してからずっと目まぐるしかった。

推しとの遭遇。

想定外のイベント。

睡眠不足。

興奮状態。

「……あ」

視界が揺れる。

ぐらり。

「玲?」

身体が傾いた。

「……っ」

スローモーションのように前へ倒れていく。

「――玲!?」

聞いたこともない声だった。

冷静なはずの冴が。

焦ったように私の名前を呼ぶ。

「おい、玲!」

伸びてきた腕。

揺さぶられる肩。

銀縁眼鏡の奥の瞳が、大きく揺れている。

(ああ……)

薄れていく意識の中。

最後に思ったのは。

(冴先輩の冷たい視線……もっと浴びたかった……)

そんな、どうしようもなくオタクらしい感想だった。

そして。

限界オタク生徒会長・如月玲は――裏ボス先輩の腕の中で、静かに意識を手放したのだった。

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