↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【合本版】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
番外編②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/106

凌End アフターストーリーSS『新生徒会長の奮闘記』

――春。

三年生が卒業し、新学期を迎えた学園では、新たな生徒会が始動していた。

新生徒会長は、二年生の黒崎凌。

副会長には、三年生のソノ。

そして書記には一年生の少女、ヒマリ。

広報には三年生の水川斗真(みずかわとうま)。

会計には二年生の滝沢環季(たきざわたまき)。

新たな五人による、生徒会である。


「……うん。」

新しい生徒会室を見渡しながら、ソノは一人、顎に手を当てた。

目の前に並ぶ三人の新顔。

明るい髪色に、整った顔立ち。

そして――それぞれ、いかにも『属性持ち』といった雰囲気。

(……やっぱり、そうですよね。)

ソノは心の中で頷いた。

(きっと、ここは『恋エグ3』の世界線……。)


もちろん、確証はない。

だが、ソノには妙な確信があった。

なにしろ――。

(新キャラたち、ビジュアルがすこぶる良い!)


乙女ゲームの続編なら、新しい攻略対象が追加されるのはお約束。

しかも、ただ増えるだけではない。

ちゃんと一人ひとりに「属性」がある。

(これも乙女ゲームあるあるですね……。)


まず、一年生のヒマリ。

天真爛漫で、思ったことは何でも口にする。

少々空気が読めないところもあるが、その分、裏表がなく、人懐っこい。

――おそらく『3』のプレイアブルキャラクター。


そして、攻略対象と思われるのは三人。


先ずは、三年生の水川斗真。

水色の髪に、水色の瞳。

いつも柔らかな笑みを浮かべ、はんなりとした口調で話す癒やし系の先輩。

(でも……こういうタイプって、何か裏がありそうなんですよね。)


そして、二年生の滝沢環季。

赤茶色の髪に、同色のどんぐりのような人懐っこい瞳。

関西系の明るいノリで、誰とでも気さくに話せる。

ただし――妙にお金にシビアな一面がある。

(この子も、何かバックボーンがありそうです。)


そして最後に――。

「……おい、ソノ。何ぼーっとしてんだ?」

「……あ。」

新生徒会長、黒崎凌。

『恋するエグゼクティブ2』からの続投キャラクター。

普段はクールでぶっきらぼう。

けれど、一度懐に入れた相手には、途端に甘くなる。

いわゆる――野良猫チョロイン枠。


そんな凌には、現在――前生徒会長、如月玲という恋人がいる。

「俺と玲が付き合ってることは、絶対に秘密だからな!」

と、本人は必死に隠しているが……。


「凌かいちょー。」

「あ?」

「帰りに良かったら、駅前のカフェでお茶しません?」

書類の束を整理していたヒマリが、甘えるように凌を見上げた。

「は?」

凌は即座に眉を寄せる。

「そんな暇あるわけねーだろ。こっちはまだ書類が山ほど残ってんだよ。」

「えー。」

「暇なら、そこの山。全部やってけ!」

「ええーっ! 会長、厳しいです!」

ヒマリは頬をぷくっと膨らませる。

けれど、その表情にはどこか楽しそうな色が浮かんでいた。


「水川せんぱーい……。会長が厳しいです。」

「はいはい。」

泣きついてきたヒマリの頭を、斗真が優しく撫でる。

そして、にこやかに凌へ視線を向けた。

「大丈夫ですよ。会長は今、ちょっと焦っているだけですから。」

「……は?」

「早く仕事を片付けて、大切な人との約束に遅れたくないんでしょう?」

「な、何でそれを……!」

凌の顔が一気に赤くなる。

斗真は相変わらず穏やかな笑顔だった。

「だって先日、玲先輩が来られた時に、約束していたじゃないですか。」

「……っ!」

「『今日の七時に、駅前のカラオケボックスで』って」

「お、お前……!」

凌の顔が真っ赤に染まる。


そう。

今日は、玲とのデートの日だった。

大学生になった玲は忙しいはずなのに、週末になると必ず凌に会いに来てくれる。

先週も、生徒会室まで遊びに来ていた。

(……大学生って、そんなに暇なのかよ。)

凌は内心でぼやきながらも、玲の顔を思い出すと、口元が緩みそうになる。


先週――。

「凌くん、最近好きなカラオケ行けてないでしょ?」

玲は凌の隣に腰を下ろし、顔を覗き込んでいた。

「そんなこと言ったって……新学期で捌(さば)かなきゃいけない書類が多いんだよ!」

「なるほどね〜。」

玲は、凌の前に積み上げられた書類の山を見つめる。

そして――。

「じゃあ、ちょっと貸して。」

「え?」

玲は凌が抱えていた書類の半分を、自分の方へすっと引き寄せた。

「これなら早く終わるでしょ?」

「いや、でも……。」

「今週は私も一緒に仕事するから、来週はカラオケデート!」

玲が笑顔で宣言する。

「約束ね?」

「……わ、分かった。」


――その会話を、まさか聞かれていたとは。


「お、お前ら……絶対来るなよ!」

凌が四人を睨みつける。

すると、これまで黙って会計業務をしていた環季が、顔を上げた。

「え、何それ?」

ニヤリ。

「逆に『来てほしい』っちゅーフリ?」

「フリじゃねーし!」

「ほんまに?」

「絶対来んな!」

「はいはい。」


ソノは、そんなやり取りを少し離れたところから眺めていた。

(あー……凌会長。)

思わず、ため息が漏れる。

(さっそくみんなから遊ばれてますね。)


◇


午後七時、駅前のカラオケボックス。

玲は入口で、凌を待っていた。

約束の時間を五分ほど過ぎた頃――。


「玲!」

息を切らしながら、凌が駆けてくる。

制服姿のままだ。

おそらく、生徒会の仕事をギリギリまで片付けて、そのまま走ってきたのだろう。

「ごめん! 遅れた!」

「ううん、大丈夫。」

玲は笑顔で首を横に振る。

「凌こそ、大丈夫?」

「ああ……。」

凌は息を整えながら、申し訳なさそうに俯いた。

「でも、生徒会長の俺が約束の時間に遅刻するなんて……失態だな。」

「……凌。」


玲は一瞬だけ彼を見つめる。

そして、努めて明るい声を出した。

「全然! ていうか、あの量の仕事を終わらせて、ちゃんとここまで来たんでしょ? むしろ優秀!」

「そういう問題かよ……。」

「そういう問題!」

玲は凌の手を取る。

「さあ! 今日はめーいっぱい歌って、ストレス発散しよー!」

「……ああ。」

凌の表情が、ほんの少しだけ和らいだ。


◇


二人は、それぞれ好きな曲を入れて歌っていった。

玲も歌にはそれなりに自信がある。

けれど――。

(やっぱり、凌の歌は格別だなぁ。)

抜群の音感、伸びのある声、そして、聴く人を惹きつける表現力。


(でも、今日は……。)

いつもの凌とは、少し違った。

歌声に、わずかな陰りがある。

歌い終わったあとも、凌の表情は固いままだった。


(あ……また、ネガティブになってる。)

玲は気づく。

生徒会長になってから、凌は以前よりもずっと自分に厳しくなっていた。

玲が残していった生徒会を、自分がちゃんと引き継がなければ。

みんなの期待に応えなければ。

そんな思いが、少しずつ彼の肩に重くのしかかっている。


玲は、隣に座る凌の肩へそっと寄り添った。

「……玲?」

そして、自分の番になったマイクを握る。

玲は、今の凌に伝えたい言葉を、歌に乗せていった。


無理をしなくていい。

そのままの自分でいい。

疲れた時は、誰かに頼っていい。

――そんな想いを、一つひとつ歌声に込めて。


歌い終わる。

玲は隣の凌を見た。

凌は、瞬きもせず、モニターを見つめている。


「凌。」

「……。」

「もう少し、肩の力を抜いていいんだよ?」

玲は優しく微笑んだ。

「生徒会長だって人間だよ。失敗だって、たくさんする。」


その瞬間、凌の瞳が揺れた。

そして、跳ね返るように玲を見る。


「でも……玲は完璧だったじゃん!」

声が震える。

「みんなに信頼されて、いつも周りに人がいて……。いざって時には、ビシッと決めてさ……。」

凌は拳を握り締める。

「俺なんて……全然だ。みんなに遊ばれてばっかりで……。」

「凌だって、ちゃんと慕われてるじゃん。」

「……え?」


玲が扉の方へ視線を向ける。

凌も、その先を追った。

そこには――。


ヒマリ、斗真、環季、そして、ソノ。

四人が扉の隙間から、こちらを覗き込んでいた。

「なっ……!」

凌の顔が真っ赤になる。

「お、お前ら! 絶対来るなって言っただろ!」

ヒマリと環季は、楽しそうに手を振っている。

斗真はいつもの笑顔。

ソノはばつが悪そうに笑っていた。


玲はそんな四人へ手招きする。

「君たちも入っておいでよ〜!」

「へっ? 玲!?」

凌が慌てる。

「いいじゃない!」

玲は笑った。

「せっかくなんだから、親睦を深めるためにカラオケ大会!」

「デートは!?」

「うーん……。」

玲は少し考える。

そして、いたずらっぽく微笑んだ。

「じゃあ、今日のところはみんなで楽しもう?」

「……玲。」

凌が、少し寂しそうな声を漏らす。

そんな彼を見て、玲はくすっと笑った。

「二人きりの時間は、また今度ちゃんと作るから。」

「……約束だからな。」

「うん。約束。」

凌の顔に、ようやくいつもの笑顔が戻った。


◇


その後のカラオケ大会は、大いに盛り上がった。

ヒマリが歌えば、環季が合いの手を入れる。

斗真は穏やかに笑いながら二人を眺め、ソノはそんな全員を観察していた。


そして――。

いつの間にか、玲による『凌の素晴らしさについて』の演説会が始まっていた。

どれだけ真面目なのか。

どれだけ責任感が強いのか。

どれだけ不器用で、でも優しいのか。

本人が恥ずかしさで悶絶するほど、褒めに褒めまくった。


「凌は、すごく頑張り屋だから!」

「ちょ、玲!」

「この間も、困ってる人を放っておけなくて……。」

「もう、いいって……!」

「だから、みんな! 凌のこと支えてあげて!」

玲がそう言うと――。


「はーい、がんばりまーす!」

ヒマリが元気よく手を上げた。


「前会長さんに言われんでも、俺はちゃんと協力するとこはするで?」

環季が笑う。


「もちろん、僕もです。」

斗真も穏やかに頷く。


「もちろん、私も。」

ソノが静かに笑った。


凌は、しばらく呆然としていた。

自分がいつの間にか、こんなにも周りに支えられていたこと。

それに気づかされていた。


(……そうか。)

玲が作った生徒会と、自分が作る生徒会は、同じじゃなくていい。

玲には玲のやり方があった。

自分には、自分のやり方がある。


玲のように完璧じゃなくてもいい。

失敗して、迷って、時にはみんなにからかわれながらでも。

それでも、自分のやり方で前へ進めばいい。


凌は、隣で笑う玲を見つめた。

「……やっぱり、まだまだ玲には敵わないけどな。」

「え?」

「なんでもねぇよ。」

凌は小さく笑った。


そして、心の中で静かに続ける。

――でも。

いつかはそんな玲も越えて、『歴代で最強の生徒会だった』って言わせたい。


――新生徒会長、黒崎凌。

まだまだ、完璧には程遠いけれど。

彼の周りには、彼を支えてくれる仲間がいる。

そして何より――。

いつだって、自分を信じてくれる大切な人がいる。


背伸びをやめた少年は、自分の歩幅で一歩ずつ前へ進んでいく。

玲が築いた生徒会を受け継ぎながら、今度は自分自身の色へと染めていく。

――新たな物語は、ここから始まる。


凌End アフターストーリーSS『新生徒会長の奮闘記』


Fin.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。