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【合本版】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
番外編②

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絢End アフターストーリーSS『二人だけの城〜あなたの隣にいる為に』

春――大学構内を吹き抜ける風に、桜の花びらが舞っている。

入学式の代表挨拶を務めた玲は、初日から注目の的だった。

さっきから、妙に視線を感じる。

「ほら、如月さんよ!」

「新入生代表の挨拶をした?」

「如月グループの次期総帥(そうすい)って聞いたけど……。」

「え、すごい! どうにかお近づきになれないかな?」

玲がちらりと周囲を見ると、慌てて目を逸らされる。


分かっているけれど……。

「如月玲」という人間ではなくて、「如月グループの御曹司」として見られる現実に、玲は苦笑いした。

小さく息を吐いた玲を、隣を歩く絢は見逃さなかった。

穏やかに尋ねる。

「玲、お疲れですね。大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。普通の大学生として過ごしてみたかったんだけど……難しいみたい。」

玲が肩を竦(すく)める。

「こればかりは仕方ないですね。玲は容姿だけでも目立つのに、如月グループの御曹司で何でもできる超エリートですから。」

「いやいや、目立ってるのは絢のせいでもあるよ? 登校初日から何人に声掛けられたの!?」

「ざっと……二、三十人くらいでしょうか? 連絡先を交換しようだの、マネージャーになってほしいだの……丁重(ていちょう)にお断りしましたけど。」

次世代を担う如月グループの御曹司と、誰もが振り返るほどの美貌を持つ絢。

そんな二人が並んで歩いていて、目立たないはずがなかった。

「でも……絢がいてくれて良かった。」

「えっ?」

「こんな好奇の目に、一人では耐えられなかったと思うから。」

「……玲。」

悲しそうに笑う玲を、絢は静かに見つめていた。

その胸の内にある不安が、痛いほど分かる。

けれど、今は無理に言葉を重ねるより、玲自身が前を向くのを待ちたかった。


そんな中、空気を変えるように玲は少し大きめの声で言った。

「さて、弱気はおしまい! 今日から四年間で、これからの地盤を作らなくちゃいけないからね。」

「はい。僕も玲を支えられるように、勉強と人脈作りに尽力します。」

「ありがとう、絢。お互いに頑張ろうね!」

二人はグータッチをして、それぞれの講義がある教室に分かれた。


一限目――。

教室の後方で一人で座っていると、ある青年から声をかけられた。

「隣、いいかな?」

顔を上げると、そこには明るい茶髪に、整った顔立ちの、品の良さそうな青年が立っていた。

「どうぞ。」

「ありがとう。」

優雅な立ち振る舞いで、玲の隣に座る。

その青年は、どこか周囲の学生たちとは違う雰囲気を漂わせていた。


講義が終わると、隣の彼が話しかけてきた。

「はじめまして。俺、九条光希(くじょうみつき)。」

「あ、はじめまして。私は――。」

「知ってるよ。如月玲さんでしょ?」

光希が笑う。

「君、有名だから。」

ニコニコと人好きのする笑み。

だけど、なぜだろう? どこか計り知れないものを感じる。

顔は笑っているのに、目が笑ってないような……。

(絢の同類……かな?)

絢が聞いたら怒りそうな台詞だ。


「私に……なにか御用ですか?」

「ううん、別に。せっかくだし、仲良くなれたらなって。」

変わらない笑顔。

でも、玲には分かる。

この人は私を値踏みしている――。


きっとこれが、これから私が身を置く世界なんだ。

自分にとって利用する価値があるのかないのか。

下に付くべき人間なのか、どうか。

損得勘定で交友関係が築かれていく。

(それなら、毅然(きぜん)に対応するのが得策――)


玲は少しだけ距離を取った。

そして、生徒会長として培(つちか)った極上の笑みで応える。

「そうですか。九条グループの御曹司に声をかけて頂けるなんて光栄です。今後とも、良い付き合いをお願いしますね。」

すると、光希は少しだけ驚いた顔をした。

「君……気付いてたんだ?」

「ええ。九条グループは、如月に並ぶ名家ですし。光希さんの噂もかねがね……。」

九条光希――九条グループの御曹司。

何でも卒なくこなし実力もあるが、人間関係は淡白で、交際の噂は絶えない。

彼は入学前、絢がマークしていた要注意人物だった。


それを聞いた光希は、肩を竦めて苦笑した。

「そこまで、知ってたんだ? 君も人が悪いな〜。」

「いえいえ、九条さん程じゃないですよ?」

「うん? ちゃんと本名を名乗ったし、何も嘘は付いてないよ?」

「こちらが気付かなかったら、そのまま素性を明かさなかったでしょう?」

「あはは、まぁね。気付かなかったら、それまでの人だなーって。試してたのは事実だね!」

あっけらかんと笑う光希に、玲は拍子抜けする。

この人は……読めないな。


そうこうしていると、絢が教室まで迎えに来てくれた。

「玲。二限は同じ講義を取ってましたよね? 遅いので迎えに来たんですが……お取り込み中でしたか?」

絢が光希に鋭い視線を向ける。

「絢、大丈夫だよ。今、話が終わったところだから。」

そう言うと、玲は立ち上がり光希の方を向く。

「それでは、九条さん。失礼します。」

教室を出ていく玲と絢を見送りながら、光希は口元を綻ばせた。

「ふーん……あの二人、面白いな。」


◇


夕方、すべての講義を終え、絢と一緒に寮へ戻ってきた玲は、部屋に入るなりベッドに身体を突っ伏した。

「はぁ〜〜、疲れたぁ〜〜。」

「玲。今日も一日お疲れさまでした。」

玲の横に座ると、絢は優しい手つきで玲の頭を撫でた。

玲は気持ちよさそうに、目を閉じる。

「勉強がどうのこうのより……気疲れが半端ない。」

絢は法学部、玲は経済学部のため、すべてが同じ講義とはいかないが、それでも端で見ていて、「如月グループの御曹司」としての玲のプレッシャーは計り知れない。

唯一その鎧を脱ぎ捨てて、「如月玲」としていられるのが、恋人である絢の横だけなのだ。

この、八畳ほどの狭い空間が二人の城だ。

一歩出れば、玲は如月の名を背負わなくてはいけない。

だから、今だけは玲を甘やかしてあげたかった。

「玲。夕飯までまだ時間があります。少し眠ってください。」

「そう? じゃあ……少しだけ……。あとは頼むね……。」

そう言うと、すぐに寝息が聞こえてきた。

絢は、眠った玲の額にキスを落とすとベッドから立ち上がりパソコンを開いた。

そこには、要注意人物リストという題目で、九条光希を筆頭に数十名の名前がリストアップされている。

玲を利用しようとする可能性がある人物たちだ。

「差し当たって、今日会った『九条光希』は最重要警戒人物ですね。」

玲を見つめる瞳。

完全な好意とは限らないが、あれは興味を持っている者の眼差しだった。


「はぁ、玲は本当に誰彼構わず人を惹きつけるんですから……。」

言葉とは裏腹に、絢はどこか嬉しそうだ。

それでこそ、僕が選んだ人――。

そして、僕を選んでくれた人――。


一生、あなたの隣にいる。

恋人としてだけではない。

あなたが背負うものすべてを、共に背負える腹心として。

そのために――僕は、もっと強くなる。

春の桜が舞うキャンパスで、絢は静かに決意した。

玲と共に、この世界を歩いていくために――。

玲と絢の共闘が幕を開けた――。


絢End アフターストーリーSS『二人だけの城〜あなたの隣にいる為に』


Fin.

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