第五十七話 修学旅行・帰郷編〜想いの行方と、眠れる玲
帰りのバスで、玲はそれぞれの告白を思い返していた。
サクラ――。
『今度は私が玲会長を守ります! だから、もっと頼ってくださいっ!』
『私が会長を幸せにしたいですっ!』
誰が見ても守りたくなる、可憐で心優しい少女。
初めは自信無げだった彼女は、個性的な生徒会メンバーの中で、ひたむきに自分ができることを探して、みんなを支えてきてくれた。
『恋エグ1』のシナリオでも、冷徹な玲が唯一心を許し、弱い自分をさらけ出し、涙を流した人。
彼女は恋エグの良心――。
彼女とだったら、玲は絶対に幸せになれる。
律――。
『もっと、俺を好きになって……。』
『俺のことだけ見て、俺のことだけ考えて――』
彼の愛情は、本当に純粋無垢だ。
世界にあまり興味を示さない彼が、こんなにもひたむきに愛情を向けてくれる。
それを、愛おしいと感じる気持ちは嘘じゃない。
時折感じる律の男の子としての顔に、ドキッとしている自分もいる。
彼は私の片翼――。
きっと彼となら、一緒に成長していける。
絢――。
『最後に隣にいるのが僕なら、それだけで十分です。』
『あなたの気持ちが育つまで、僕は待っていますから。』
美しい笑顔の仮面に隠された素顔は、怖いくらい献身的な愛情。
きっと彼なら、私の全てを肯定して全力で守ってくれるだろう。
そんな彼の危うい魅力に、目を奪われている自分に気付く。
彼は私の宝石――。
ずっと側にいて、自分だけでは見れない景色を彼なら見せてくれる。
豪――。
『お前に何かあったら――俺が嫌なんだよ。』
『お前には、どんな時でもずっと笑っててほしいんだ。』
彼とは本当に等身大の自分でいられる。
それはきっと、彼の言葉や行動に嘘や偽りがないから。
良い時は大いに褒め、間違っていたら全力で戒めてくれるだろう。
信頼できて頼もしい、私の太陽――。
彼となら、共に同じ歩調で歩いていける。
そして、ここにはいないメンバーにも想いを馳せる。
ソノ――。
『神!!』
自分と同じ境遇で、同じ悩みを持つ。秘密の共有者。
もし、違う状況で出会っていたら、彼女との恋愛もあるだろうか。
彼女とは、そんな話をもっともっとしたい。
ソノはこの世界で間違いなく、唯一の相棒――。
凌――。
『助けてくれなんて……言ってない。』
『今度は二人で出掛けようぜ? 俺が楽しい所に連れてってやるから!』
初めは野良猫のように、毛を逆立てていた彼。
それが、だんだんと心を許してくれる様子はとても愛おしく思えた。
『恋エグ2』のキャラクターで、唯一自分が手掛けていないこともあってか、母親目線というより純粋に推せる人。
私の可愛い子猫――。
これから先、もっともっと彼の成長を見届けたいと思う。
桃色、クリーム色、真紅色、橙色、藤色、深緑色――
色とりどりのお守りを、玲は手のひらに乗せて一つ一つ愛しそうに眺めた。
私がずっと隣にいてほしい人――。
どれだけの時間が経っただろうか。
考え抜いた末、玲は一つの応えを出した。
六つのお守りのうち、五つを紙袋に丁寧に戻す。
そして一つだけを取り出すと、ぎゅっと握りしめ胸元に当てた。
(この人とだったら――未来を一緒に歩きたい。)
その想いを自覚した途端、ずっと蓋をしてきた気持ちが溢れ出した。
トクン、トクン、と甘い響きが胸を打つ。
(この旅行が終わったら、ちゃんと伝えよう!!)
その頃、昼下がりの生徒会室――。
ソノは一人、生徒会室で帰りを待ちながら片付けをしていた。
(みんな、沢山いい思い出が作れたかな?)
そんな想いで窓の外を眺めていると、どこからか電子音が聞こえてきた。
「ん? 何の音?」
ソノは、音のする方を探す。
どうやら発信源は、生徒会長机の引き出しの中のようだ。
「玲会長、すみません……開けますね?」
ソノはそっと引き出しを開けると、奥にある黒い端末を取り出した。
画面が赤黒く点滅している。
そこには――
『▶修正プログラム進行率 98%』
『▶存在修正まで 残り10分』
『▶対象コード:REI-KISARAGI』
「これは!? ……一体、何が起こってるの!?」
ソノは慌てて、端末のボタンを手当たり次第押してみた。
しかし、表示は変わらない。
『残り9分』
カウントダウンだけが、無情にも過ぎていく。
(どうすればいい!? ……神!! どうか無事に帰ってきてください!!)
それから一時間程経った頃、バスが学園に到着した。
「ねぇ、玲。着いたよ?」
律が声をかけるが、返事がない。
「玲? 玲?」
ゆさゆさと身体を揺さぶる。
けれど、固く閉ざされた瞳はピクリとも動かない。
「玲っ!? 玲っ!!」
次第に律の声が荒くなっていく。
その様子にただ事じゃないと感じ取った、絢、豪、サクラも近寄ってきた。
「どうした? 律?」
「玲が……起きないんだっ。」
律の瞳が大きく揺れ、今にも泣きそうな顔をしている。
「玲!? ……息は、ありますね。でも、呼吸がすごく浅い……。」
絢も事の深刻さを理解したようだ。
「如月!!」
「玲会長!!」
豪とサクラが大きな声で名前を呼ぶが、やはり返事はない。
「救急車だ! 誰か救急車を!」
教員や他の生徒も、みんなパニックに陥っていた。
校庭の慌ただしい様子に、生徒会室にいたソノと凌も飛び出した。
ぐったりと脱力した玲を見た瞬間、ソノは膝から崩れ落ちて取り乱した。
「玲先輩……! どうして!?」
その後ろで、凌が驚愕に目を見開きながらもソノの背中を支えていた。
ソノの手には、黒い端末が握られていた。
その画面には――
『▶修正プログラム完了』
『▶対象コード:REI-KISARAGI』
『▶バグデータ検出』
『▶隔離処理開始』
『▶隔離完了』
――その日。
玲が目覚めることは、ついになかった。




