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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第三章 恋するエグゼクティブ2※続編として同内容を公開中!

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第五十六話 修学旅行・告白編〜未来へ託した想い

一行は京都タワーを望むホテルで、修学旅行最後の夜を過ごしていた。

豪華な夕食を終えて部屋に戻る途中、サクラに呼び止められた。

「玲会長、ちょっとお話がしたいんですけど……いいですか?」

「うん。大丈夫だよ!」



二人はホテルの展望デッキに移動した。

サクラの表情はいつにもなく緊張していて、大きな瞳が潤んでいる。

少しの沈黙の後、サクラは口を開いた。

「玲会長。会長は、私の憧れの人です。」

「…………うん。」

「最初は、何でもできてすごいな! かっこいいな! 私もいつかこんなふうになりたいな! って思っていました。」

「……。」

「でも、いつからか……『玲会長みたいになりたい』じゃなくて、『玲会長の側にいたい』――みんなのことを全力で応援して、助けている会長を私が側で支えたいと思うようになりました。」

「サクラちゃん……。」

「玲会長の周りには、素敵な人がいっぱいいます。でも……玲会長が私を選んでくれるなら、私のやり方で会長を幸せにしたいです!」

いつも自信なげなサクラの瞳が、強い意志を持ってこちらを見つめている。


「サクラちゃん、ありがとう。純粋にサクラちゃんの気持ちが嬉しい。」

長い沈黙――。

サクラの瞳が不安げに揺れる。

玲は軽く息を吸うと、ゆっくり吐き出すように口を開いた。

「……もう少しだけ、時間をくれないかな? サクラちゃんの気持ちにちゃんと向き合って、応えたいんだ。」

サクラは不安げだったが、努めて明るい表情を見せた。

「はい……。真剣に考えてくれてありがとうございます!」

「こちらこそ、ちゃんと気持ちを伝えてくれてありがとう。」

「はい! あ、そうだ。これ……」


そう言ってサクラが取り出したのは、地主神社の桃色の恋愛お守り。

「あの時、玲会長の分と二つ。お揃いで買ったんです。良かったらもらってください!」

そう言うと玲の手のひらに乗せる。

「明日、最後の一日も良い思い出を作りましょうね!」

そう言うと、サクラは手を振りながら足早に去っていった。


玲は、展望デッキにぽつんと一人残された。

手のひらの桃色のお守りを眺める。

『恋エグ1』の主人公サクラに、告白をされてしまった。

自分は攻略対象の玲なのだから、世界観としてはこれはきっと正しい。正しいのだけれど……。

どこか割り切れない自分がいる。

サクラのことは好きだ。

まるで娘のように、大切に思っている。

でもサクラが抱いている「好き」は、きっとそれとは違う。

(こんな気持ちのまま、サクラちゃんの想いに応えていいのかな?)

玲として一緒に過ごしていくうちに、本当の恋愛感情が芽生えるだろうか?

サクラに渡されたお守りを、玲はぎゅっと握りしめた。



しばらくして、玲はホテルの部屋へ戻った。

京都のホテルは二人部屋で、相棒は律だ。

「玲、遅かったね? 心配だから、探しに行こうかと思ってた。」

「あ、ごめんね? ちょっと展望デッキで夜風に当たってたんだ。」

「ふ~ん……。」

律はそう言うと、こちらへ近づいてきた。

「展望デッキで……誰かに何か言われた?」

「ぇ゙……!?」

変な声が出た。

それだけで、律には肯定だと伝わった。

「やっぱりね……。」

律はくるっと背を向ける。

数秒――。

意を決したような表情で、こちらを振り返った。


「玲。俺……あんまり人のことに興味ないんだ。だけど、玲のことはすごく気になる。何を考えてるんだろうとか、どんな顔をしてるんだろうとか……俺のこと、どう思ってるんだろうとか……。」

「……律。」

「俺のことだけ見て、俺のことだけ考えていてほしいなんて……。こんな気持ちになったの……玲だけなんだ。」

律はぐっと距離を縮め、玲の胸元をきゅっと掴むと、潤んだ上目遣いでこちらを見つめた。

「玲……好きだよ。初めて『ゲーム勝負をしよう』って玲が言ってくれた日から、ずっと玲のことだけ見てる――。」

「……!!」

突然の告白に、玲は言葉を失った。


律のことは大好きだ。

ゲームをしたり、一緒の時間を過ごすのはすごく楽しい。

でも、これって――

(律と同じ『好き』なのかな?)

もともと、自分の愛をいっぱいに詰め込んで作った推しキャラ。

自分も律と同じ「好き」で応えられるのか――玲の胸に迷いが生まれた。


玲の迷いを感じて、律は玲の胸元を掴んだ手を解くと、少し距離を取った。

「俺の気持ちは伝えたから。玲の気持ちが整理できたら……その時に返事を聞かせて?」

「……うん。」

律がふわりと笑った。

「そんな困ったような顔しないでよ。まぁ、俺は玲が何と言おうと、玲の側にいるつもりなんだけどさ!」

「律……。」

「そうそう! 玲に渡しておきたい物があったんだ。」


そういうと、ポケットから包み紙を取り出す。

手にはクリーム色の魔除けお守り。

「はい! 玲は色んなものに好かれちゃうから。前あげた魔除けのブレスレットと合わせると効果抜群だから!」

ゲームアイテムのような言い方をする律に、玲は思わずくすりと笑ってしまう。

「そうそう。玲にはそんな感じで笑っててほしい。」

律が目を細める。

「とりあえず、今日は俺の気持ちを伝えただけだから。玲の気持ちが整理できるまでは、今まで通り仲良くしよう?」

「うん。……律、ありがとう。」

その言葉に、律は満足そうに頬を緩ませた。



修学旅行最終日の朝――。

出発前のホテルのロビーで、絢と出くわした。

絢は玲を見つけると、目を細めこちらに向かってくる。

「おはようございます、玲。昨日はゆっくり眠れましたか?」

「うん。なんかもう寝てばっかり……。今朝もギリギリまで寝てたから、律に叩き起こされちゃった。」

「ふふっ。しっかり眠れたなら良かったです。僕の方は、豪のイビキがうるさくて……。」

「あー、それはそれは……ご愁傷さまです。」

玲と絢は、顔を見合わせて二人で笑う。

ひとしきり笑った後、ふと絢が真剣な表情になった。

「今、少しだけお時間いいですか?」

「……うん。」


二人は人気のない、ロビーの柱の陰に移動した。

「班行動が始まったら、なかなか二人きりになる時間が取れないので……これを先に渡しておきたいと思って。」

絢が取り出したのは、昨日の神社で買った真紅の身代わりお守り。

「絢、もらっていいの?」

「はい。受け取ってください。これが、僕のあなたへの気持ちです。」

「!!」

「僕は、どんな時でもあなたの側にいて、あなたを守れる存在でありたい。……けれど、物理的には難しいですから……そのお守りが、きっとあなたの盾になってくれるはずです。」

「……絢。」

「僕はあなたから何度も救われました。だから、同じだけ……いえ、それ以上の気持ちをあなたに返したい。」

絢は、誰にも見えないようにそっと玲を引き寄せる。

一度だけ目を伏せ小さく息をつくと、耳元で囁いた。

「僕は……あなたを愛しています。」

玲の瞳が潤む。

なんで、こんなに泣きたくなるんだろう――。

その様子を見た絢が、くすっと笑う。

「玲の泣き顔も素敵ですけど、僕の前では笑っていてください。……泣き顔は、夜に、僕限定で見せてくれれば十分ですから。」

今度は、玲の顔がみるみるうちに真っ赤になった。

「もう~~、絢!? からかわないでよ!?」

「ふふふっ。」

絢は、長年の胸のつっかえが取れたような晴れやかな表情をしていた。

それは、誰をも魅了する、迷いのない極上の笑顔だった。



ホテルを出発し、一行は帰りのバスを待っていた。

バス停の前では、同じように帰路につく修学旅行生たちの楽しげな声が響いている。

旅の思い出を胸いっぱいに抱えた高揚と、もう終わってしまう寂しさが、その場には混在していた。


玲も移動しようと足元の土産袋へ手を伸ばした、その時だった。

横からひょいと持ち上げられる。

「よう。」

聞き慣れた声に、玲の顔が安堵でほころぶ。

「豪、おはよう! 荷物、持ってくれるの?」

「あぁ、このために身体鍛えてるようなもんだから!」

二人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。

「旅行、あっという間だったね……。」

「……だな。如月は……なんかやり残したことはないか?」

「うーん。食べ歩きもできたし、お土産も沢山買えたし満足かな! 豪は?」

「ははっ、お前らしいな。俺は……。」

豪は言葉を切ると、少し緊張した様子でこちらを見た。

「俺は一つだけ……やり残したことがある。」

「豪……?」

「如月。俺さ……やっぱりお前のこと好きだわ。」

「……へ?」

豪の声は、まるで普通の会話をするように静かだった。

けれど、玲の耳にはっきり届いた。

豪の言葉を聞いた途端、不思議と周りの喧騒が静まる。


「初めはさ、何考えてんのか分かんねーし、俺とは合わねーなって、正直思ってた……。けど、一緒に過ごしてるとただただ楽しくて、もっと一緒にいたいって思ったんだ。」

豪の瞳がだんだんと熱を帯びる。

大きな手が、おそるおそる玲の頬に触れた。

「そのうち、こうやって触れたい。もっと色んなお前を知りたいって思ったんだ。……こんなの、友達に向ける感情じゃねーだろ?」

玲ははっとした。

うまく言葉が出てこない。

「ま、でもこれは俺の一方的な想いだから。すぐにどうこうしたいってことじゃなくて……。この旅行で、俺の気持ちを伝えたかったんだ。」

豪の表情は、どこまでも爽やかで明るい。

「もちろん、俺を選んでくれれば嬉しいし、ずっと隣でお前を笑わせてやれる自信があるけど。」

豪が茶目っ気たっぷりに笑う。

「とりあえず、気持ち伝えて、これをお前に渡すのが俺のやりたかったこと!」

そう言うと、豪は玲の手のひらに橙色の健康お守りを乗せた。

「やっぱり、どんな時でもお前には元気で笑っててほしいから。」


一陣の風が髪を優しく揺らした。

帰りのバスが到着する。

ぞろぞろと乗り込んでいく生徒たち。

「如月、俺たちも乗ろうぜ!」

豪がこちらへ手を伸ばす。

「うん……。」

玲はその手を取り、ゆっくりバスに乗り込んだ。

遠ざかっていく京都の街並み。

四人それぞれの想いを胸に抱きしめるように、玲は小さく深呼吸をした。

バスは一路、学園へ向けて出発した。

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