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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第三章 恋するエグゼクティブ2※続編として同内容を公開中!

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第五十三話 オンラインゲームの向こう側

「はぁ……。」

今日何度目かのため息を、白砂律はついていた。

自室のベッドに寝転びながら、スマホを眺める。

最近リリースされたオンラインゲーム。

『エターナル・タワー』

巨大な塔の最上階を目指し、仲間とギルドを組みながら魔物を倒していく、今話題のゲームだった。

(玲なら、このゲーム絶対好きそうなんだけどな……。)

本当は玲と一緒にしたかったけれど、

「ごめん、律! 先生たちと修学旅行の打ち合わせがあるから、またあとでね!」

最近の玲は忙しそうで、ゲームはおろかゆっくり話すことさえままならない。

仕方ないと、頭では分かっている。けれど――

(俺には……玲しかいないのに。)

胸の奥が、少しだけ苦しくなる。

そんな考えを断ち切るように、律はゲームのアプリを立ち上げた。

「……俺、一人でいっか。」


ゲームを初めて数十分――。

「……危なっ。」

初めて挑むダンジョンで、律は苦戦していた。

その時、画面にメッセージが表示された。


『パーティー申請が届きました』


送り主を見る。

Non(ノン)

可愛らしいポニーテールの少女キャラクターだった。

『すみません!』

『初心者なんですけど……もしよかったら、一緒に戦ってもらえませんか?』

「いいよ。よろしく。」

『ありがとうございます!』


「俺が相手の体力減らすから、後方支援お願い!」

『了解です!』

「あ、そっち一体行った!」

『任せてください!』

Ritsu(リツ)さん、回復しときますね!』

「サンキュー。」

「ラスト一体!」

『はいっ!』

二人の攻撃が同時に決まり、巨大な魔物は光の粒となって砕け散った。

「ボス討伐成功!」

『やりました!!』

画面の中で、Nonのキャラクターが嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。

『Nonさんがエモート「ハイタッチ」を送りました』

「ふふっ。」

律は思わず笑みをこぼし、自分のキャラクターでハイタッチを返した。

『やった! 初めてボス倒せました!』

「ナイス。いい連携だったよ。」

『Ritsuさんのおかげです!』

初めははぎこちなかった二人も、ダンジョンをクリアするたびに息が合っていった。


『結構、ステージ進めましたね!』

「うん。でも、Nonって本当に初心者? すごいうまいじゃん。」

『えっ、本当ですか? 色んなゲームをやっているからかもしれません。 でも、やっぱりRitsuさんはすごいですよ!』

「俺?」

『はい。私はRitsuさんの指示通りに動いただけですから。すごく頼りになります!』

「そう? ……ありがとう。」

さっきまで、玲のこと考えてため息をついていたのに、気がつけば二時間近く経っていた。

「じゃあ、今日はこのくらいにしておこうか?」

『そうですね。じゃあ、また明日、この時間に。』

「オーケー。」

『おやすみなさい。』

見知らぬ人とのゲーム内での会話。

けれど、今の律には不思議なくらい温かく感じられた。


それから数日。

二人は毎日同じ時間に、ゲームで会うようになった。

ステージクリアを進めながら、次第にプライベートな話題をするようになった。

Nonはゲーム好きな女性で、律より年上だと言った。

今は事情があって仕事をしていないらしい。

将来への不安、現実では言えないことをお互いに話すようになっていた。


『Ritsuさん、実は……私、最近悩んでるんです。』

「悩み?」

『将来のこと。自分が何を選べばいいのか、分からなくて……。』

仕事のことだろうか? 律が考えていると、


『もし、大切な人と離れなきゃいけなくなったら……どうしますか?』


律は画面を見つめた。

Nonの事情は分からない。けれど――

その一文だけで、冗談ではないことは伝わってきた。

律は自分に重ねて言葉を返した。


「俺なら、後悔しないように気持ちを伝える。」

律は、少し考えてから続けた。

「もし伝えられなかったら……離れる日が来るまで、一緒に笑えばいいと思う。」

「正解なんて誰にも分からないから。」

「俺は、選んだ道を正解にしたい。」


Nonからの返事はなかなか返ってこなかった。

的外れなことを言ってしまっただろうか?

律が少し不安に思っていると、Nonから返事が届いた。

『……すごいですね。』

『Ritsuさんは、まだ高校生なのに……ちゃんと前を向いてる。』

律は苦笑した。

「そんなことないよ。俺だって、迷ってるし……。」

『……どんなことですか?』

一瞬、律の手が止まった。

誰にも言っていない自分の気持ち――

でも、不思議と画面の向こうの彼女になら言える気がした。

「俺……好きな人がいるんだ。」

「その人は、すごく眩しくて。」

「俺なんかが隣にいていいのかなって……たまに思う。」

『その人は、Ritsuさんが隣にいることを望んでないんですか?』

「……分からない。」

『だったら……勝手に諦めちゃダメです。』

『その人がどう思うかは、その人にしか分からないから……。』

『自分で可能性を消しちゃうのは、もったいないですよ。』

律は、その言葉をじっと見つめた。

「……そっか。」

玲がどう思っているのか。それは、玲にしか分からない。

自分が勝手に決めつけることじゃない。

「……ありがとう。なんか勇気出た。」

『いえいえ。私こそ、勇気もらいました。どの道を選んでも、それを正解にすればいいんだって。』

律は小さく笑った。

「うん。一緒に乗り越えよう。」

その瞬間、画面の中の塔が光り輝く。

『新階層解放』

次のステージへの道が開かれた。


翌日、生徒会室。

「律……。」

玲が心配そうな顔で近付いてくる。

「最近、ちゃんと寝てる? 無理してない?」

律は目を丸くした。

(あぁ、玲は俺のことちゃんと見てくれてるんだ。)

たったそれだけの言葉で気持ちが浮上する。そんなげんきんな自分に、律は苦笑いする。

(俺って……自分が思っているよりずっと、玲のことが好きみたいだ。)


「……玲。」

「なに?」

「今、ハマってるゲームがあってさ……。良かったら一緒にやらない?」

また断られるだろうか? 律が少し不安げに玲を見上げる。

それを聞いた玲の顔が、ぱっと明るくなる。

「いいの!?」

「……うん。」

「やった! 楽しそう!」

その笑顔を見た瞬間、律の胸にあった不安が軽くなった。

(そうだ……。結果を自分で決めつけちゃいけないんだ。)

律は静かに頷いた。

(玲がどんな答えを選んでも、俺は俺ができることをするだけなんだから!)


楽しそうに会話を続ける律の姿を、生徒会室の隅でソノは見つめていた。

「良かったですね、Ritsu。」

静かに息を吐きながら、ソノは安堵の笑みを浮かべた。


あの会話を交わして以来。

Nonはゲーム内に現れなくなった。

『 最終ログイン 一週間前』

そこには、メッセージが一通送られていた。

『短い時間でしたが、ありがとうございました。これからは、あなたの好きな人との時間を大切にしてください。』


ソノは、自室でスマホの画面を見ていた。

(律先輩の背中を、少しは押せたかな?)

数日前、玲を寂しそうに見つめる律に気付いた。

ソノは『恋エグ2』での律のバッドエンドを思い出す。

主人公に想いを拒まれ、現実から逃げるようにオンラインゲームへ没頭し、最後には廃人同然になってしまった律。

(あれは本当に、胸糞エンドでしたね。)

そんな律を見たくなくて、ソノはNon(ノン)として同じゲームを始めた。

本来のシナリオなら、オンラインゲームでお互いの正体が明かされ、そこから恋愛イベントに発展するのだが――

「律先輩の恋の相手は、私じゃないから――」

ソノはゲームアプリを長押しして、アンインストールをした。

(もう大丈夫……。律先輩は、自分の力で未来を選べる。そして、私も――。)

「神、あとは……任せましたよ!」


ソノは小さく微笑み、スマホの画面を閉じようとした――その時だった。

玲からメッセージが届いた。

「ソノちゃん、『エターナル・タワー』ってゲーム知ってる? 律とやるんだけど、一緒にやらない?」

(神ーー!? 今ですか? なんてタイミング悪さっ!! もう私を巻き込まないでくださいっ!!)

ソノは思わず天を仰ぎ、その誘いを丁重にお断りするのだった。


誰もいない、夜の生徒会室――。

生徒会長机の引き出しの一番奥で、黒いゲーム端末が光った。

静かな室内でエラー音がなる。


『▶シナリオ書き換えエラー』

『▶好感度上昇エラー』

『▶世界の修正を開始します――』

『▶対象コード:REI-KISARAGI』


端末は光を失い、室内は何事もなかったように静けさを取り戻した。

秒針を刻む音だけが、室内に響く。

このエラーメッセージを見た者は誰もいない。

しかし世界は、静かに――そして確実に、形を変え始めていた。

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