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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第三章 恋するエグゼクティブ2※続編として同内容を公開中!

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第五十二話 暗闇、そして光へ――

いつもなら紅茶の香りが漂う生徒会室は、今日は妙に静まり返っている。

誰一人、軽口を叩く者はいなかった。

重苦しい空気の中、豪が静かに口を開く。

「……絢、自分の部屋から出てこないらしい。同じクラスの奴が言ってた。」

その一言が、生徒会室に重く落ちた。

「……。」

律は唇を噛み締める。

凌は腕を組んだまま目を伏せた。

サクラも不安そうに胸の前で手を握り締めている。

そしてソノも、小さく息を呑んだ。

今まで、千早絢が理由も告げず学校を休んだことなど、一度もなかった。


玲は拳を強く握った。

胸の奥を、後悔が締め付ける。

(私のせいだ……。)

昨日の放課後、絢が勇気を振り絞って『僕にも教えてもらえませんか?』と、尋ねてくれたのに――。

自分は何も答えられなかった。

(もっと違う伝え方があったはずなのに……。)

「……私が。」

かすれた声が漏れる。

「私が、ちゃんと絢と向き合って話していれば……。」

誰一人、言葉を発することができなかった。

沈黙の中、刻々と時間だけが過ぎていく。


バンッ――。

玲は両手を机に付いた。

「私、絢の所に行ってくる!!」

全員が一斉に顔を上げた。

「えっ!? 一人で行くの!?」

律が思わず立ち上がる。

「危ねぇだろ!」

豪も眉をひそめる。

「私も行きます!」

サクラが慌てて声を上げる。

「俺も行く。」

凌も短く言った。

玲はそんな仲間たちを見回し、静かに首を横へ振る。

「ありがとう。でも……これは私の責任だから。」

「玲……。」

「私が絢を傷付けた。だから今度は、ちゃんと私が向き合いたい。」

その瞳に迷いはなかった。

「みんなは、ここで待ってて。」

玲は(きびす)を返し、生徒会室を出て行く。


(神……。)

閉まる扉を見つめながら、ソノは胸の前で両手を組んだ。

(失敗すれば、あなたは監禁されてしまうんですよ?)

祈るように目を閉じる。

(どうか、バッドエンドに飲み込まれないで……無事に二人で帰ってきて下さいね。)


玲は一人、絢の部屋の前に立っていた。

静かにノックをする。

「絢、いるんだよね? 少し話がしたいんだ。」

返事はない。

「絢……ごめん。昨日はちゃんと話せなくて。」

玲はそっと額を扉へ預けた。

「ちゃんと、絢と向き合わなくて……ごめん。」

最後の方は、消え入りそうな小さな声だった。

それでも、部屋からは何も聞こえない。

扉の向こうに人がいるのかさえ分からない。


玲は扉に背中を預け、ゆっくりと膝を抱え座り込んだ。

(どうしたらいい? どうしたら、絢ともう一度話ができる?)

考え込むように頭を膝にうずめた瞬間、手に持っていたスマホで揺れる『猫のキーホルダー』が目に入った。

絢が初めてのデートで、こっそり買ってくれた宝物。

玲は自然と笑みを浮かべた。

「ねぇ絢、覚えてる?」

玲は、二人の思い出を一つずつ語り始めた。


「初めてのデートでさ、絢がナンパされそうになって、私あせっちゃって――」

「猫のキーホルダー、本当に嬉しくて、今でもずっとスマホに付けてる――」

「夏合宿、一緒にカレー作ったり――」

「お正月にもらったスノードーム、ベッドの横に置いて毎日眺めながら寝てるんだ――」

まるで、目の前に絢が座っているかのように、誰に聞かせるわけでもなく――

ただ、大切な思い出を語り続けた。


どれだけの時間が経っただろう。

すっかり日が落ち、窓の外は黒一色に染まっていた。

あれからも物音は一切なく、扉も開く気配はない。

(……そんなすぐには、無理だよね。長期戦になってもいい。ゆっくり、絢と向き合おう。)

玲は小さく息を吐くと、ゆっくり立ち上がった。

「じゃあね、絢。また明日、来るから……。」

すると――


カチャリ。

中から鍵が開いた音がした。

数センチ、扉が開く。

中は、まるで光を飲み込むような暗闇。

「!!」

ゴクリと、玲の喉が鳴る。

『気をつけて下さい。玲先輩……あなたが監禁されてしまいます。』

脳裏にソノの言葉がよぎる。

怖い。それでも――

(行かないなんて選択肢、あるわけないじゃない!)

心臓は痛いほど脈打っていた。

玲はゆっくり扉を押して、部屋へ一歩踏み入れる。

その瞬間――

カチャリ。

背後で扉が閉まった。

でも、玲は振り返らない。


暗闇の中、玲はゆっくりと前へ進む。

「絢? どこ?」

すると、背後からすっと腕が伸び、玲は抱きすくめられた。

「わっ!?」

ふわっと、薔薇の香水のような香りが鼻をかすめる。

「あ、絢?」

顔は見えない。首筋に震える吐息がかかる。

「玲。……入ってきてしまったんですね。」

かすれた声が、直接耳に届いた。

「あなたが逃げる……最後のチャンスだったのに。……もう、あなたを帰してあげることはできません。」

その声は、今にも泣き出しそうに聞こえた。


「うん。それでも、いいよ。絢は大切な人だから……。」

玲は、前に回された手にそっと自分の手を重ねた。

「苦しんでいる絢を、一人にはできない。」

玲はゆっくり続けた。

「あの日、ソノちゃんとは『最近の絢は無理をして危険な状態だから、気をつけてあげてほしい』って話をしてた……。」

「……!?」

「本人に言ったら気にしちゃうかなって思って……言えなかった。」

絢の身体がピクリと震える。

「でも、それが一番ダメだった。ちゃんと話して、向き合えばよかった……。」

玲は、重ねていた手に力を込める。

「傷つけて……本当にごめん。」


抱き締める腕から、ゆっくり力が抜けていく。

絢の震える声が聞こえた。

「……違う。悪いのは、玲を信じ切れなかった僕です。」

「……!!」

「勝手に思い込んで、壊れて……あなたまで傷付けようとした。」

闇の中で、小さな雫が床へ落ちる音がした。

ちょうどその時。

カーテンの隙間から、朝焼けの淡い光が差し込み始めた。

少しずつ、闇が薄れていく。


玲は、そっと絢の方へ向き直った。

絢の頬には一筋の涙が流れていた。

今にも壊れてしまいそうな表情。

玲の瞳にも涙が浮かぶ。

「絢……。一緒に帰ろう?」

ゆっくり両腕を広げる。

「みんなが待ってる。あなたの居場所へ。」


絢の目に涙が溢れた。

「……僕なんかが、あなたの隣にいても、いいんでしょうか?」

「あたりまえじゃない。」

玲は涙を拭って微笑んだ。

「……フォークダンスの時、『最後に隣にいるのは僕』だって言ったのは、絢の方だよ? 約束は守ってもらわないと!」

絢の瞳が大きく揺れる。

次の瞬間、絢の整った顔が崩れ、玲の胸へ飛び込んだ。

「玲……!」

声を上げて泣く絢の背中を、玲は何度も優しくさすった。

「はい……。僕は、ずっと……あなたの側にいます。」

窓から差し込む朝日が、部屋いっぱいに広がる。

夜を閉じ込めたような闇は、もうどこにもなかった。


翌朝。

生徒会室の扉がゆっくり開く。

「おはようございます。」

穏やかな声に、全員が一斉に顔を上げる。

そこには、いつもと変わらない制服姿の絢が立っていた。

豪は照れ隠しに頭をかきながら笑う。

「心配かけやがって。」

律も肩をすくめる。

「そうそう! 絢の仕事、ちゃんと残しといたから。」

「絢さん、良かったです! 今、紅茶を入れますね!」

サクラも涙ぐんでいる。

凌も小さく息を吐いた。

「……よかった。」

ソノはその光景を見届け、小さく微笑む。

(無事に、回避できたみたいですね。)

「絢!」

玲が花のような笑顔で駆け寄る。

「おかえり!」

絢は少し目を潤ませながら微笑む。

「はい。ただいま戻りました。」

その笑顔は、これまでで一番優しく、美しかった。


後日談――

昼下がりの生徒会室。

玲はふぁ〜と、大きなあくびを漏らす。

それを見た絢が、玲に声をかけた。

「玲、大丈夫ですか? 昨日、僕が一晩中あなたに無理をさせてしまったから……。」

ピクリと、玲以外の生徒会のメンバーがその言葉に身体を震わせた。

自然とその会話に耳を傾けてしまう。

「うーん。あれくらい、大丈夫だよ?」

玲が赤くなった目をこすりながら、絢に微笑み返す。

(えっ? 否定しないの?)

(な、何? 一晩中って……何があった?)

みんなが、それぞれ心の中で突っ込みをする。

「でも、僕は……玲を泣かせてしまいましたから。」

「私の方こそ、絢に痛い思いをさせて泣かせてしまったからね……。」

(えーーっ!? これって、どういうこと!?)

(どっちがどっち!? もしかして……リバ!?)

みんなの脳内ツッコミもヒートアップする。

たまらず豪が叫んだ。

「お前ら、昨日の夜、一体何をしてたんだよっ!?」

その言葉に、玲と絢はきょとんと顔を見合わせた。

「何って……。」

開こうとした玲の口元に、絢は人差し指を立て制する。

「しーー、玲。これは……二人だけの秘密です。」

有無も言わさない笑顔で圧倒する絢。

(あー、これ……絢先輩、分かっててやってるな。)

ソノは、一歩引いたところでこのやり取りを見ていた。


こうして、絢と玲のコミュニケーションはますます熱を帯び、一部の女子生徒から強烈な支持を得ていくのだった。

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