第四十九話 ハロウィンの再会!?遠い場所で輝く君へ
十月――。
冴も東京へ戻り、生徒会室にはいつもと変わらない穏やかな時間が流れていた。
ショッピング以来、凌も暗い表情を見せることはなく、前にも増して精力的に仕事に取り組んでくれている。
「会長! 体育祭の生徒用アンケート、まとめといたぞ!」
「ありがとう、凌くん! じゃあ、こっちの職員用アンケートとまとめて……って、あれ? どこに行った?」
「玲、職員用アンケートはこちらの引き出しですよ?」
後ろから伸びてきた手が、玲の体を囲うようにして机へつかれる。
絢はそのまま自然な仕草で、左上の引き出しを開けた。
「すごい、絢! よく分かったね!」
「ええ。ずっと玲を見てますから……。」
にっこりと満面の笑みで返す絢。
(なんか……今、さらっと怖いことを言ったような……。)
背景に赤薔薇を背負っている二人を見ながら、ソノは心の中で突っ込みを入れた。
当初はこの距離感にドギマギしていたソノも、生徒会の日常風景となった今では、脳内カットインとして処理している。
コンコン――。
そこへ、ノックの音と共に、外出していたサクラと豪が戻ってきた。
「玲会長、各クラスから文化祭の企画申請書、回収してきましたっ!」
「こっちも、各部活からもらってきたぜ!」
「ありがとう、二人とも! じゃあ、律! この企画書を二人で精査しようか?」
玲は、ソファーに深く腰掛けうとうとしていた律に声をかけた。
「ん? ……分かった。玲と一緒なら……俺、頑張る。」
「うんうん。律はえらいね〜。」
玲は受け取った資料を持ってソファーへ移動すると、律の横に腰を下ろし、まだ眠そうな律の頭をわしゃわしゃ撫でた。
(うん……。こっちは背景に白薔薇背負ってる。神、今日も快調にスチルを大量発生させてますね……。)
ソノは無表情で、本日二度目の強制スキップを試みるのだった。
「今年の文化祭、俺たちはどうするんだ?」
帰り支度を整えながら、凌が声をかけてきた。
「去年の文化祭は展示だけで、その分ハロウィンの時に即興劇をしたんだよね〜。」
去年大好評だった、生徒会演劇企画。
(今年もまたみんなでできたら、楽しいだろうなぁ〜。)
「ちょうどハロウィンの時期と重なるし、今年は文化祭で演劇をしようか?」
「「「「賛成〜〜!!」」」」「「異議なし〜〜。」」
こうして、今年の生徒会の文化祭企画は演劇に決まった。
帰り際、玲は演劇の参考にしようと近くの本屋に立ち寄った。
オレンジ色のカボチャの置物に黒猫の飾り、お菓子の形をした装飾と、街はいつの間にかハロウィン一色に染まっている。
「もうすぐ、ハロウィンかぁ……。」
ふと、去年の出来事が頭をよぎる。
「去年の劇は……烈がシナリオ無視して、シンデレラじゃなくて、王子の私をさらっていっちゃったんだよね〜。」
玲は口元を押さえながら、小さく笑った。
「……今頃、何してるのかなぁ。」
ぽつりと呟く。
卒業後、烈は自分の夢を追いかけてアメリカへ渡った。
あれから半年。
忙しくしているのか、連絡を取ることもほとんどなくなっていた。
そんなことを考えながら、何気なく雑誌コーナーへ視線を向けた。
一冊の海外エンタメ雑誌が目に入る。
その表紙の片隅――。見覚えのある横顔に、玲の心臓が跳ねた。
「……え? ……烈!?」
思わず手に取る。
去年の今頃は一緒に学校のステージに立って、隣で豪快に笑っていた烈が――
今は、少し大人びた表情でカメラを見つめている。
玲はしばらく、その写真から目を離せなかった。
指先に力を込め、ページをめくる。
特集のタイトルが、視界を占拠した。
『新進気鋭の若手アーティスト 鬼塚烈の魅力』
そこには、ドラマ出演。
モデル活動。
音楽活動。
様々な分野で活躍する烈について書かれていた。
「すごい……。」
自然と言葉が漏れる。
自分の夢を背負って、一人、世界で戦っている烈。
「烈……本当に頑張ってるんだ。」
その瞬間、卒業式に最後に交わした言葉が蘇った。
『もっといい男になって、お前のこと惚れさせてみせるから……』
あの時の、烈の真っ直ぐで熱い視線を思い出す。
玲は、スマホを取り出すとSNSアプリを開いた。
検索欄に表示される文字。
『鬼塚 烈』
すぐに烈のアカウントが表示された。
『烈、特集記事見たよ!』
『すごいね! 頑張ってるんだね!』
『かっこいいよ!!』
伝えたい言葉なら、いくらでもあった。
でも、入力欄に文字を打つことができない。
玲の指が止まる。
迷いを断ち切るように、玲は画面を閉じた。
(今は……違う気がする。)
会いたい。話したい。頑張っていることを褒めたい。
そう思う気持ちはあるけれど――。
今、烈が必死に立っている場所に、軽い気持ちで言葉を投げかけたくなかった。
玲は雑誌を抱きしめる。
(烈なら……きっと大丈夫。)
「……私も、頑張らないと。」
玲は雑誌を購入すると、大切そうに紙袋へしまい店を出た。
空を見上げると、秋の青空がどこまでも広がっている。
卒業まで、あと半年。
(私は、この先どうなるんだろう。)
この世界で、如月玲として生きていく未来。
それとも、元の世界へ帰る日が来るのか。
――まだ答えは出ていない。
「……。」
ここはゲームの中の世界――。
けれど、自分の選択次第で既存のシナリオも変えることができるのだと、この一年半で玲は身をもって体験していた。
だからこそ、これから選んでいかなくては――
自分自身の答えを。
秋風が、玲の迷いを見透かすように髪を揺らした。




