表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第三章 恋するエグゼクティブ2※続編として同内容を公開中!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/61

第四十一話 ヒロイン同士、秘密の会談!?

七月――。

ジメジメとした梅雨が明け、本格的な夏休みを目前に控えた一学期末。

生徒会室では、毎年の恒例行事『期末テスト対策勉強会』が開催されていた。


なかでも、新入生の黒崎凌(くろさきりょう)の深刻さは群を抜いていた。

「……っ」

ガリガリと音を立ててシャーペンを動かすものの、プリントの難解な数式を前に、凌の眉間のシワは深くなる。

プライドの高い彼が、このまま赤点を取って「完璧な兄」の顔に泥を塗ることだけは、どうしても避けなければならない。

背に腹は代えられない状況だった。

凌は意を決したように、ガタッと激しく椅子を鳴らして立ち上がった。

そして、隣の席で静かに資料をめくっていた玲の前に歩み寄り、その肩をガシッと掴む。


「会長……! ――俺と、付き合ってほしい!」


……シーン。

一瞬にして、生徒会室の時間が完全に停止した。

窓の外で鳴く蝉の声すら、ピタリと止まったかのような、圧倒的な静寂。

(……え? まさかの公開告白……!?)

長机の端でノートを書いていたソノは、目を見開いたまま手に持っていたボールペンをポトンと落とした。

部屋の温度が目に見えて急降下する。

「……は? 今の、何?」

「黒崎……お前、なんて言った?」

「……聞き捨てならない言葉が出ましたね」

律、豪、絢の三人の目が、一瞬にして光を失った。

引き攣った笑顔のまま、彼らの背後からドス黒いオーラが立ち上る。

このただならない雰囲気に、手を口に当ててオロオロしているサクラ。

そんな修羅場の中心で、玲は少しだけ困惑したように首を傾げた。

「えーっと……凌くん。それって、勉強会のこと……?」

すると凌は、何を当たり前のことを言っているんだ、というように呆れた顔で眉をひそめた。

「もちろん、そうだけど……それ以外に何かあるのか?」


「「「「…………。」」」」


殺気立っていた先輩三人とソノが、一斉にガクッとずっこけ、揃って頭を抱えた。

(そっちかよ……!)

と、全員の心の声が完全にシンクロする。


「あはは……。うん、いいよ。凌くんが良ければ、いくらでも勉強に付き合うよ」

玲は引き攣った苦笑いを浮かべながら、そっと胸を撫で下ろした。

それと同時に、玲の脳裏にある「去年の記憶」が蘇る。

(あ、これ……既視感だ。去年、私が烈に勉強会の意味で『付き合ってほしいんだけど!』って言って、烈を怒らせたやつ……。なるほど、言われた側って、こんなに心臓に悪いんだね。烈、あの時は本当にごめん……)

今更ながら、烈の怒りの理由を深く理解した玲だった。


――チャイムが鳴る。

「それじゃあ、今日の勉強会はここまで!  みんなテスト頑張ろうね!」

玲が荷物をまとめると、他のメンバーも雑談をしながらゾロゾロと部屋を出ていく。

「あれ? ソノちゃん、まだ帰らないの?」

「はい。私はもう少しやりたいことがあるので……」

「じゃあ、戸締まりお願いね!」

そうして、玲も部屋から出ていった。


すっかり静まり返った生徒会室。

茜色の夕暮れが窓から差し込み、誰もいない机をオレンジ色に染めている。

ソノは一人、長机に残ってキャンパスノートを見つめ、思案していた。

(……相変わらず、この生徒会室の生態系は玲を中心に回ってる。でも……彼が黒幕で、何か操っているって感じでもない……)

ソノがそこまで考えを巡らせた時だった。


コンコン。

静かなノックの音と共に、生徒会室の扉が開いた。

「失礼します。あ、ソノちゃん、まだ残ってたんですか?」

入ってきたのは、副会長のサクラだった。

「……はい、ちょっと考え事をしていて。サクラ先輩はどうされたんですか?」

「ちょっと忘れ物をしちゃって、取りに戻ってきたんです。」

サクラは両手を胸の前で合わせ、ふわふわとした天使のような笑顔をソノに向けた。

「ソノちゃん。もし、なにか悩み事があるならいつでも相談に乗りますよ?」

そのあまりの眩しさに、ソノの胸に一瞬の迷いが生まれる。

サクラは、本来のゲームの絶対的ヒロイン。

なのに、この世界では攻略対象たちが全員、彼女ではなく玲に夢中になっている。


ソノは手元のノートをそっと閉じると、思い切ってサクラの『本音』を尋ねてみることにした。

「……サクラ先輩。あの、一つ、聞いていいですか?」

「はい、何ですか?」


「サクラ先輩は……玲先輩のこと、どう思ってますか?」


ソノの唐突な問いに、サクラは少し驚いたように丸い目をパチくりさせた。

けれどすぐに、夕暮れの光に溶けるような、どこか懐かしむような微笑みを浮かべる。

「うーん、そうですね……。実は私、去年生徒会に入ったばかりの時、すごく不思議だったんです……」

「不思議、ですか?」

「はい。律くんも、豪くんも、絢さんも……みんな、どうしてあんなに玲会長のことばかり見ているんだろう、って」

(――ッ!?)

ソノの背中に、冷たい衝撃が走る。

サクラの口から出た言葉は、まさにソノが感じていた『違和感』そのものだったからだ。


「私、少しだけ『この学校、何かがおかしいのかな』って思ったことすらありました。会長が笑うだけで、みんな周りに集まっていくから……」

サクラは寂しそうに笑うわけでもなく、ただ淡々と、一年前の記憶を紐解くように語る。

「でもね、毎日一緒に過ごして、会長の優しさに触れて……私、納得しちゃったんです。会長って、いつでも自分のことより、私たちのことを一番に考えて動いてくれるんです。みんなの不器用なところも、強がりも、不安も……全員を、ちゃんと見ててくれる」

サクラの瞳が、夕日を受けてキラキラと輝き出す。

「あんな風に、誰にでも平等に、全力で味方になってくれる人が目の前にいたら……誰だって惹かれちゃいますよね。みんなが会長を大好きな理由、今ならすっごくよく分かります!」

そして、一呼吸置くと、サクラは迷いのない愛らしい笑顔で言った。


「私も、会長のこと、世界で一番尊敬して、大好きですから!」


「……。」

(洗脳じゃない……。世界のバグが生んだ歪みのはずなのに……みんな、自分の意志で、あの人を愛してるんだ……)


「ソノちゃん?」

不思議そうに首を傾げるサクラに、ソノは慌てて首を振った。

「な、何でもありません! 先輩の本音が聞けて、よかったです」

「ふふ。でもこの話は、私たちだけの秘密ですよ?」

「……はい。」

サクラの照れた笑みにつられて、ソノも自然と笑顔になる。

「じゃあ、一緒に帰りましょう?」

サクラの後ろを歩きながら、ソノは沈みゆく夕日を見つめた。

(玲……あなたは一体何者なの? ただのバグや黒幕じゃないのだとしたら……)

この学園に来てからの数ヶ月が走馬灯のように頭を巡る。

そして――

ソノの鼓動が一つ、大きく鳴った。


(もしかして……あなたも私と同じ――転生者?)


この日、ソノは一つの真実にたどり着こうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ