表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第三章 恋するエグゼクティブ2※続編として同内容を公開中!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/57

第三十八話 新入生歓迎ドッジボール大会〜歓迎の意味、間違えてませんか!?

五月の爽やかな青空の下。

校庭には歓声とホイッスルの音が、絶え間なく響いていた。

新入生歓迎を兼ねた、春の恒例行事『球技大会』。

今年度の種目は、全学年クラス対抗による「ドッジボール大会」だった。


「みんなー! 怪我をしないように、無理だけはしないでねー!」

大会実行委員の本部テント前で、メガホンを片手に生徒たちへ笑顔で手を振る如月玲(きさらぎれい)

その姿は、冷徹生徒会長の面影など微塵もなく、完全に全校生徒の安全を見守る聖母のそれだった。


(……うん。もう突っ込むのも疲れてきたけど――)

本部席の後ろでスコアボードの準備をしていたソノは、心の中で深くため息をついた。

(本来の球技大会イベントって、冷徹な玲が『怪我人の出ないよう、効率的に運営しろ』って冷たく指示を出しつつもみんなを想う……あのギャップ萌えを回収するイベントのはずじゃなかったっけ!?)


現実は違った。


「如月! 俺の試合、見ててくれよな! 相手チーム、全員外野送りにして絶対勝つから!」

体育委員長として大会を引っ張る神城豪(かみしろごう)が、きらきらした笑顔で玲に駆け寄る。

「うん、応援してるよ! でも、ほどほどにね?」

「おう!」

ブンブンと、ちぎれんばかりに尻尾を振る大型犬のような豪。

(ほどほどって何? 今の会話、何も抑止できてないけど……)


さらに、その横から不満げな声が上がる。

「えー、豪ばっかりずるい。玲、俺の試合も見に来てよ」

ゼッケンをつけた白砂律(しろすなりつ)が、玲の袖をきゅっと引っ張った。

「律も出るんだね! あ、でも律ってこういう行事めんどくさがって、いつも保健室でサボってなかったっけ?」

「玲がコートの端っこで見ててくれるなら、本気出す。……だから、来て?」

上目遣いで、普段の気怠げな雰囲気からは想像もつかない甘えた声を出す律。

「もちろん、見に行くから!」

「約束?」

「約束!」

律はその言葉を聞くと、満足そうに駆けていった。

(えっ? 何? この甘酸っぱい感じ……。『恋エグ2』の白砂律はどこに行ったーー!?)


ソノの脳内ツッコミが追いつかない。


午後になり、一年生クラスの男子ドッジボールの試合が始まった。

コートの周囲には、一際大きな人だかりができている。

「おい、あれって……あの黒崎冴(くろさきさえ)先輩の弟だろ?」

「やっぱり運動神経いいな。でも、やっぱり冴先輩と比べると、ちょっと線が細いっていうか、迫力に欠けるよな……」

周囲から漏れ聞こえるヒソヒソ話に、コート上の黒崎凌(くろさきりょう)の眉がピクリと跳ねた。

(……まただ。どこに行っても、俺は『兄さんの弟』としてしか見られない)

凌の動きに、わずかな焦りと硬さが混ざり始める。

相手チームの外野から放たれた鋭いボールに、一瞬反応が遅れた。

(クソッ……!)

直撃を覚悟し、凌が目を(つむ)りかけた、その時だった。


「凌くーーん!! 後ろ、気をつけてーーっ!!」

コートのすぐ脇から、よく通る澄んだ声が響き渡った。

凌がハッとして顔を上げると、そこにはメガホンを両手で握りしめ、全力でこちらに身を乗り出している玲の姿があった。

「凌くん! 今の身のこなし、すっごく綺麗だったよ! 次、カウンター狙っちゃえ!!」

「……ッ!?」


『他の誰でもない、凌くんが生徒会に入ってくれて嬉しいんだから』


脳裏に、数日前の夕暮れ時の言葉が蘇る。

凌の瞳に、一瞬で鋭い光が戻った。

(……そうだ。あいつに不様な姿を見せたくない!!)


そこからの凌のプレーは圧巻だった。

相手のエースが放った剛速球を、胸元できれいに吸い込むようにノーバウンドキャッチ。

どっと沸くギャラリー。

凌はすかさず、捕った勢いのまま相手コートの死角へ向かって、弾丸のようなストレートを投げ込んだ。

ズバァンッ! 

小気味いい音がして、相手の内野が一人仕留められる。

凌は小さくガッツポーズをしながら、真っ直ぐに玲の方を見た。

「かっこいいよ、凌くん!」

玲が、自分のことのように飛び跳ねて喜んでいる。

それを見て、凌の口元がほんの少しだけ、嬉しそうに綻んだ。


大会の締めくくりは――エキシビションマッチ。

それは、各学年の優秀クラス選抜チームと、急遽結成された「生徒会・実行委員チーム」によるドッジボール対決だった。


「ええっと……私、ドッジボールなんて中学生以来なんだけど、大丈夫かな……?」

恐る恐るコートの内野に立つ玲(中身アラサー女子)。

その瞬間、同じチームのメンバーたちの目の色が変わった。

「玲、俺の背中の後ろから一歩も動くなよ。指一本触れさせねえから」

豪が玲の前に立ちはだかり、巨大な壁となる。

「玲、もしボールが来たら俺を盾にしてね。身代わりになるの、全然嫌じゃないから……」

律が玲の斜め前にスッと立ち、眠たげな目を一変させて相手コートを睨みつける。

「玲を狙おうなどという不届き者がいたら……ふふっ、分かってますよね?」

外野に配属された千早絢(ちはやあや)が、極上の、けれど完全にマイナス百度の笑顔で相手チームを威嚇していた。

(人間盾の結成が早すぎる!!! っていうかみんな過保護の鬼!?)

ソノがベンチで戦慄(せんりつ)する中、試合が始まった。


豪の剛速球と律の精密なコントロール、そして外野からの絢の冷酷なアタックにより、相手チームは次々と仕留められていく。

しかし、相手の選抜チームもなかなかのもの。

隙を突いた鋭いパスワークで、ついに豪と律のディフェンスを()(くぐ)り、ボールがフリーになった。

「チャンスだ! 生徒会長を狙え!!」

相手の男子生徒が、内野の奥にいた玲に向けて、渾身(こんしん)の力でボールを投げ放った。


(どうしよう……玲のチート能力で本気で投げたら、相手チームの人に怪我させちゃうかな……。ここはみんなに任せて、大人しく当たって、サクラちゃんと応援しよう!)

そう判断した、その瞬間だった――。


「――危ないッ!!」

鋭い怒声とともに、横から光の速さで飛び込んできた影があった。――黒崎凌だ。

凌は玲の細い腰をガシッと片腕で引き寄せると、そのままの勢いで玲を抱きすくめるようにして、自分の体ごとコートへ滑り込ませた。

強烈なボールが、二人の頭上をかすめて背後の壁に激突する。

砂埃が舞うコートの上。

凌は玲を床との間に庇うようにして、完全に抱きしめる形で息を弾ませていた。

「……おい、お前……避けろよ、バカっ!! なんであんな棒立ちしてんだよっ!?」

凌が険しい表情で玲を見下ろす。

二人の距離は、お互いの吐息がかかるほどに近かった。

「あ、あれ? 凌くん……? う、うん。助けてくれてありがとう……?」

自分を必死に守ってくれた不器用な後輩の優しさに、玲は腕の中でふにゃりと笑った。

その至近距離での笑顔の破壊力に、凌はドクンと心臓が跳ね上がるのを感じた。

「……っっ!!!?」

凌の顔が、一瞬で耳の裏まで爆発したように真っ赤に染まる。

「な、な、何笑ってんだよ!! こっちは必死に……っ!!」

凌は慌てて玲をパッと放すと、ガバッと立ち上がり、ボフッと顔を両手で覆って絶叫した。

「クソッ……! なんなんだよもう!! わけわかんねえ!!」

「あはは、ごめんね? でも、本当に王子様みたいで格好よかったよ?」

起き上がりながら、玲はなおも無自覚な天然たらしを炸裂させていた。


その一部始終をベンチで見ていたソノは、持っていたスコアボードのペンを思わずペキリと折った。

(それ!! 『恋エグ2』のメインビジュアルにも使われてた、凌ルートの神スチル『危機一髪、密着抱擁』じゃん!! また、玲のスチルになってる!!)

ソノは心の中で、本日何度目か分からない涙を流していた。


すると――。

「おや、ソノさん。ペンが折れてますよ?」

背後から、上品な、けれど妙に冷たい声がした。

振り返ると、いつの間にかコートから戻ってきた絢が、冷え切った笑顔で立っていた。

ふぅっと、絢は軽く息を吐く。

「……新入生は、少々玲に甘えすぎな気がしますね。生徒会の『教育』が必要でしょうか……。」

「あ、あの、千早先輩……。私怨(しえん)で権力を使うのはやめてあげてください……」


(もうダメだ、この世界……)

ソノは空を見上げた。五月の青空が、やけに眩しく、そして切なかった。

(私の推しは天然の魔性だし、周りの攻略対象は全員重度の同担拒否オタク。……誰か、このバグだらけのゲームの修正パッチを当ててください……!!)


ソノの切実な祈りも虚しく、玲を巡る生徒会の歪んだ(?)絆は、この日さらに強固なものになっていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ