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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第二章 恋するエグゼクティブ(後編)

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第三十二話 始業式と、それぞれの未来

冬休みが終わり、三学期が始まった。

始業式の日。

久しぶりの校舎には、生徒たちの笑い声が戻ってきていた。

「会長! あけましておめでとうございます!」

「今年もよろしく!」

「あ、お年玉ください!」

「却下!」

朝から生徒たちに囲まれ、玲は笑いながら手を振る。

(学校だぁ!!)

推しが歩いて、笑って、尊い。

(これこれ! これが『恋エグ』なんだよね!)


「朝から元気だな。」

烈が呆れたように笑う。

「だって三学期イベントだよ!」

「始業式をイベント扱いするの、お前くらいだぞ。」

「人生全部イベントだから!」

「意味分かんねぇ。」

そう言いながらも、烈は笑っていた。

そのやり取りを見た一年生たちまで笑う。

冬休みで止まっていた学校が、少しずつ動き始めていた。


始業式が終わると、校内の空気は少しだけ変わる。

「受験、頑張ってください!」

「卒業まであと少しですね。」

三年生へ向けられる声。

浮かれていた一年生や二年生とは違い、三年生の表情には少しだけ緊張が混じっていた。


放課後。

いつもの生徒会室。

見慣れた景色の中で、玲はふと机の上へ目を向ける。

冴の机には、東京の大学の資料。

烈の机には、何冊もの大学案内。

卒業。

その二文字が、急に現実味を帯びた。


「冴先輩、東京に行くんですね。」

玲がぽつりと呟く。

冴は静かに頷いた。

「ああ。」

短い返事。

それだけなのに、決意は十分伝わってくる。

「寂しい……。」

玲の眉が少し下がる。

その様子を見た冴は目を細め、玲へ近づいた。

何も言わず、そっと頭に手を置く。

「……冴、先輩?」

その顔を見上げる。やっぱり何も言わない。

けれど、その視線は今までにないくらい優しかった。

静かな時間が、生徒会室を包む。


「なぁ、会長。」

烈の方から声を掛けてきた。

「少しいいか?」

「もちろん。」

二人は窓際へ移動する。

冬の夕陽が教室を橙色に染めていた。

烈は大学案内を眺めながら言う。

「俺さ。」

少し間を置く。

「大学に行くか、就職するか迷ってる。」

玲は何も言わずに続きを待つ。

「親は大学でもいいって言ってくれてる。でも……」

ページをめくる。

「別にやりたいこともねぇのに、なんとなく大学行くのも違う気がする。」

消防、警察、教師、スポーツ関係……いろいろ調べた。

でも、どれも決め手がない。

これだ。と、思えるものが見つからない。


玲は少しだけ考えた。

「烈。」

「ん?」

「最近、一番楽しかったことって何?」

突然の質問だった。

烈は首を傾げる。

「最近?」

「うん。」

少し考えて、自然と口を開く。

「……劇かな。」

「あ。」

玲は笑った。

「ハロウィンの時の?」

「そう。」

烈も笑う。

「あれはマジで楽しかった! あんなに大笑いしたの、初めてだったかも。」

その一言を聞いて、玲は少し嬉しそうに笑う。

「じゃあさ。」

「?」

「烈は何になりたいかじゃなくて、どんな時間が好きかを考えた方がいいのかも。」

烈は目を瞬かせる。

「どんな時間?」

「うん。」

玲は頷く。

「ゲームってさ。」

突然の話題に、烈が首を傾げる。

「最初からラスボス攻略ルートだけ、なんて選ばないよね。」

「……まあ。」

「寄り道して、サブイベント回収して……最初は興味なかったキャラが、気付いたら最推しになってたりするし。」

玲は窓の外を見つめながら続けた。

「だから……、まだエンディングを決めなくてもいいと思う。」

玲は笑った。

「ゲームだって、一周目じゃ全部分からないでしょ?」


烈は思わず吹き出した。

「その例え、お前しか言わねぇな。」

二人で笑う。

笑い終わったあと、烈は静かに大学案内を閉じた。

「……なんかさ。」

照れくさそうに頭をかく。

「答えをもらったわけじゃないのに……少し楽になった。」

玲はにっこり笑う。

「それなら良かった!」

「ありがとな。」

その一言は、夕陽の中へ静かに溶けていった。


下校時間。

「また明日!」

「気を付けて帰れよ!」

笑いながら校門を出る生徒会メンバー。

夕焼けに染まる歩道。

その向こうから、一人の少女が歩いてきた。

銀色の髪。

ダークブルーの瞳。

玲とすれ違う。

ほんの一瞬。

玲は小さく振り返った。

(……あれ? どこかで……。)


「如月ー!」

豪の声が飛ぶ。

「今行くー!」

玲は笑って仲間の方へ駆けていく。


少女は立ち止まらない。

振り返らない。

ただすれ違いざまに、玲たちの笑い声だけを聞いていた。

夕暮れの風が吹く。

銀色の髪が、静かに揺れた。

まだ、二人の未来は交わらない。

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