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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第二章 恋するエグゼクティブ(後編)

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第三十一話 初詣と、銀髪の少女

新しい年がやってきた。

冬休み最終日。

「みんなで初詣に行こう!」

如月玲の一言で、生徒会メンバーは近くの神社へ集まっていた。


「寒いですねぇ……」

白い息を吐きながら、サクラが肩をすくめる。

「その分、帰りのおしるこがうまくなるな!」

豪が笑う。

「単純……でも、そう考えるのも悪くないですね」

絢がくすりと微笑む。

「褒めてる?」

「半分は」

そんなやり取りに、小さな笑いが広がる。

その中心で――玲だけは別の意味で浮かれていた。

(来た……! 初詣イベント!)

『恋エグ』正月イベント。

本来なら主人公・サクラが攻略対象を一人だけ誘って初詣へ行く特別シナリオだ。

なのに今は――

「玲、あっち屋台あるよ」

「玲会長、甘酒飲みます?」

「迷子になるなよ?」

攻略対象が全員いる、想定外のフルパーティ初詣が成立していた。

(これ、バグイベントじゃない? いや最高なんだけど!!)


心の中で盛大にツッコミを入れながら、玲は屋台へ視線を泳がせた。

焼きそば。

りんご飴。

たこ焼き。

ベビーカステラ。

(全部食べたい。)

その時だった。


「ねぇ、玲」

袖をちょん、と引かれる。

振り向くと、律が少し照れくさそうに小箱を差し出していた。

「これ……」

中には、アメジスト色のブレスレット。

冬の日差しを受け、紫の石が静かに輝く。

「魔除けになるんだって」

ぽつり、と律が言う。

「本当はクリスマスに渡したかった。でも、あれから会えなくて……」

少しだけ視線を落とし、

「今、受け取ってくれる?」

玲はぱちりと瞬きをして、それから嬉しそうに笑った。

「もちろん!」

ブレスレットをそっと受け取る。

「すっごく綺麗……ありがとう、律。」

その笑顔だけで十分だった。

律は小さく息を吐き、頬を緩めた。


その様子を見ていたサクラが、おずおずと前へ出る。

「あ、あの……玲会長!」

両手で大切そうに抱えていた包みを差し出した。

「私も、本当はクリスマスに渡したかったんです。」

包みを開くと、甘いバターの香り。

「フィナンシェです! 今日のために、もう一回焼きました!」

「えっ、作り直してくれたの!?」

玲の瞳が輝く。

「ありがとう! 絶対おいしいやつだ!」

その言葉だけで、サクラの笑顔も花が咲くように明るくなった。


「あ、あー……俺も」

豪が珍しく歯切れ悪く声を上げる。

「何選べばいいか全然分かんなくてさ……」

差し出された封筒。

中を見る。

『豪の本気マッサージ券 一回無料』

「子どもか!」

烈のツッコミが響いた。

「うるせぇ!」

豪は真っ赤になって反論する。

「俺なりに考えたんだよ! スポーツトレーナー目指してるし! 疲れ取れるかなって!」

玲は吹き出しながら券を胸に抱えた。

「めっちゃ実用的! 最高じゃん!」

その一言で、豪は照れ隠しに頭をかいた。


続いて絢が静かに歩み寄る。

「玲。」

差し出された小箱を開く。

雪が舞う、小さなスノードーム。

陽の光を受け、白い結晶がゆっくりと降り積もる。

「あなたの部屋に飾っていただけたらと思って。」

玲は思わず見入った。

「……綺麗。」

それだけで、絢には十分だった。

「喜んでもらえて安心しました。」

優しく微笑む。


「えぇ!? みんな用意してたのかよ!」

烈が頭を抱える。

「黒崎は?」

「私はクリスマスの日に渡した。」

「くっ……!」

烈は悔しそうに唸る。

そして玲へ向き直った。

「俺のは後日! 期待しとけ!」

「うん!」

玲は迷いなく頷いた。

「楽しみにしてる!」

それだけで烈は満足そうに笑った。


今年は、きっと良い一年になる。

そう思っていた。

だから。

その違和感は、あまりにも突然だった。


――ぞくり。


背中を冷たい指先でなぞられたような感覚。

玲はゆっくり振り返る。

鳥居の向こうの人混みの中――

銀色の髪を二つに結んだ少女が立っていた。

冷たいダークブルーの瞳がただ真っ直ぐに、玲だけを見ている。

(……誰?)

その瞳だけが、妙に胸へ引っかかった。

瞬きをした一瞬で、少女は人混みに消えていた。


「玲?」

「……ううん。」

首を振る。

「何でもない。」

そう答えたのに。

胸の奥の違和感だけは、消えなかった。


「よし! 最後はおみくじだ!」

烈の声で空気が戻る。

玲も笑顔で一本引き抜き、紙を開いた。

「……凶。」

沈黙。

「マジか。」

豪が思わず漏らす。

「珍しいですね。」

絢が覗き込む。

「恋愛運……前途多難。」

冴が淡々と読む。

「逆にここから上がるだけだろ!」

烈が笑い飛ばした。

サクラも慌てて続ける。

「悪い運勢は、みんなで変えればいいんです!」

その言葉に、玲は笑う。

「じゃあ頼りにしてる。みんなで運勢、上書きしよう!」

玲も明るい声で応える。

ちらり、と先程の少女の姿が過ぎったが、今は考えないように頭の隅に追いやった。


誰もが笑う。

その輪を。

石段の上から、一人の少女が静かに見下ろしていた。

笑っている――あの人が。

仲間に囲まれて、幸せそうに。


少女はゆっくりと目を細める。

「……違う。」

その声には、困惑と苛立ちが滲んでいた。

「私の知ってる如月玲は――」

指先が、静かに震える。

「そんなふうに笑う人じゃない。」

冷たい風が吹き抜ける。

その言葉だけが、冬空に溶けた。

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