第三十話 聖夜の交換会と小さな贈り物
季節は、あっという間に冬を迎えていた。
放課後の生徒会室。
窓の外には、ちらちらと舞い始めた初雪。
街ではクリスマスソングが流れ、校内もどこか浮き足立っている。
「玲会長、クリスマスって予定ありますか?」
書類をまとめながら、サクラが何気なく尋ねた。
その瞬間――。
ピクリ。
豪の肩が動く。
絢の手が止まる。
律がスマホから顔を上げる。
烈が飲みかけの缶コーヒーを止める。
冴も本から視線を上げた。
生徒会室が妙な緊張感に包まれる。
そんな空気に全く気付かない玲は、うーんと首を傾げた。
「その日は如月コーポレーションのホームパーティーがあるんだよね……」
「…………」
一瞬、静寂が落ちる。
「あ、そうなんですね!」
サクラは笑顔を作った。
他の面々は何も言わなかった。
しかし――。
全員、分かりやすいほど肩を落としていた。
「せっかくだし、俺たちだけでもクリスマスパーティーやるか!」
烈の一言に、空気が変わる。
「いいですね!!」
こうして、玲を除く生徒会メンバーだけのクリスマス会が開催されることになった。
クリスマス当日。
放課後の生徒会室は、手作りのツリーやリースで華やかに飾られていた。
机の上にはケーキやクッキー、ポテトチップスにジュース。
「完成ですっ!」
サクラが満足げに胸を張る。
「おー! いい感じじゃん!」
「豪くん、星ちょっと曲がってますっ!」
「えっ!?」
賑やかな声が飛び交う。
「それでは――」
絢がティーカップを置きながら微笑んだ。
「メリークリスマス!!!!!!」
乾杯と共に歓声が上がる。
ビンゴ大会、トランプ、ジェンガ。
みんなで笑って、騒いで。
そして、最後はお待ちかねのプレゼント交換。
「誰のが当たるかな?」
サクラが目を輝かせる。
音楽に合わせてプレゼントを回し、最後に手元に残った包みを開ける。
最初に包みを開けたのは律だった。
「……手作りクッキー?」
「はいっ、私です!」
サクラが嬉しそうに手を上げる。
「変な物じゃなくて良かった……」
律はほっとしたように微笑んだ。
次に開けた絢は、ポップな色合いのキーホルダーを見て目を丸くした。
「これは……?」
「俺! ゲームセンターで取ったやつ」
律が照れながら答える。
「ふふっ。自分では選ばないデザインですから、新鮮ですね」
絢は思わず笑みをこぼした。
続いて烈。
「お、コーヒーセット?」
「僕です」
絢が優雅に微笑んだ。
「へー、気が利くじゃん。それに高級ブランド!」
箱を見た烈は目を見開く。
「いつもお世話になっていますから」
「ありがたくいただくぜ」
烈は嬉しそうに笑った。
「次は私か……」
冴が開けた箱には入浴剤セット。
「……烈か」
「たまには風呂でゆっくりしろよ」
「お前から入浴剤をもらうとはな……」
冴は小さく目を細めた。
「気が向いた時に使わせてもらう」
「素直じゃねぇなぁ」
次に、豪が目の前にあった箱を開けた。
中身は参考書だった。
「うっ……黒崎先輩!?」
豪が顔を引きつらせる。
「期末考査の対策本だ」
「ありがたいけど……今は見たくねぇ!」
生徒会室が笑いに包まれる。
そして、最後にサクラ。
「プロテイン?」
「俺だ!」
豪が胸を張る。
「筋肉にはタンパク質が大事だからな!」
「飲んだことないんですけど……どうやって飲むんですか?」
「牛乳で割るとうまいぞ!」
「へぇ~!」
みんなで笑い合う。
楽しい。楽しいはずなのに――。
ふと、静寂が落ちた。
「………………」
誰からともなく、視線が空席へ向く。
生徒会長席。
そこだけが、ぽっかり空いていた。
「……やっぱり、あいつがいねぇとなんか締まらねぇな」
豪が苦笑する。
「そろそろ片付けるか?」
その時だった。
パタパタパタパタ――!!
廊下から慌ただしい足音。
バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「遅れてごめん!!」
雪を髪につけたまま、息を切らせた玲が立っていた。
「家の用事が思ったより早く終わったから!」
アメジスト色の瞳を輝かせながら、満面の笑みを浮かべる。
「みんな、まだ終わってないよね!?」
一瞬、誰も言葉を失った。
そして――。
「玲会長!」
「如月!」
「玲!」
「遅いですよ!」
「おせぇ!」
「……来たか」
生徒会室が、一気に笑顔で満たされた。
「ふふっ。間に合った!」
玲は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、誰もが思った。
――やっぱり、この人がいないと始まらない。
先程までどこか物足りなかった生徒会室が、一瞬で明るくなる。
「ごめんごめん! でも、ちゃんと用意してきたんだから!」
玲は両手いっぱいの紙袋を机の上に置いた。
玲は得意げに胸を張る。
「じゃーん! みんなの分のプレゼント!」
玲は一つ一つ包みを取り出した。
「まずはサクラ!」
「はいっ!」
「桜色のティーカップ!」
淡い桜色の可愛らしいカップ。
「前に紅茶好きって言ってたから!」
「覚えててくれたんですか!?」
サクラは感激したように胸に抱き締める。
「次は律!」
「うん?」
「律が好きなゲームのキーホルダー!」
「……限定版!?」
律が目を丸くする。
「これ、売ってなかったやつ……」
「ネットで探したんだ!」
「ありがとう、玲」
律は嬉しそうに微笑んだ。
「豪!」
「おう!」
「スポーツタオル!」
「おおっ!」
豪が歓声を上げる。
「これ俺の好きなブランドじゃねぇか!」
「前に雑誌見てたから覚えてた!」
「マジかよ……」
豪の顔が緩む。
「絢!」
「はい」
「紅茶とマカロンセット!」
絢のルビー色の瞳が大きく開く。
「これは、私の好きなメーカーの……」
「この前、一緒に買い物した時に見てたでしょ?」
「……ありがとうございます」
嬉しそうに微笑む絢。
「烈!」
「おう?」
「シルバーアクセサリー!」
「えっ?」
烈が固まる。
「これ……俺がいつも付けてるブランドじゃねぇか」
「似合うかな~って!」
「……ははっ」
烈は思わず笑った。
「お前は、ほんとよく見てるよな?」
「最後は冴先輩!」
「私か」
「メガネケース!」
「……」
冴が静かに箱を開く。
黒を基調とした落ち着いたデザイン。
「使ってるペンケースと同じブランドだったから、揃えたらおしゃれかなって」
「……そうか」
ほんの少しだけ、冴の口元が緩んだ。
「ありがとう。大切に使わせてもらう」
「ふふっ!」
玲は満足そうに笑った。
「久しぶりに、開発者知識が役に立った〜!」
「開発者……?」
「ううん、こっちの話!」
誰もが笑顔だった。
やっぱり、この人がいると違う。
賑やかで、暖かくて、自然と笑顔になれる。
そんな時間はあっという間に過ぎていき――。
「じゃあ、片付けるか!」
豪の声で、クリスマス会は幕を閉じた。
帰り道――雪が静かに降っている。
「玲」
背後から呼び止められた。
「冴先輩?」
街灯の下。黒崎冴が一人、静かに立っていた。
「これは、お前へのプレゼントだ」
「えっ?」
差し出されたのは、小さな箱。
「今日会えたら渡そうと思っていた」
「ありがとうございます!」
玲は嬉しそうに包みを開く。
中から現れたのは、上質な革のブックカバー。
そして、金色に輝く栞。
「わぁ~、おしゃれ……!」
目を輝かせる玲。
「すごく素敵ですね!」
「気に入ったか?」
「もちろん!」
玲は大切そうに胸に抱いた。
「大事にしますね!」
その笑顔に、冴は小さく目を細める。
(……お前は気付いているだろうか)
革のブックカバー――長い時間を共に過ごしたい。
金色の栞――お前の物語を、静かに見守りたい。
そんな願いを込めた贈り物。
だが。
「今度、このブックカバーに合う本を探しに行きたいですね!」
玲は無邪気に笑っていた。
(いや、気付いていないな)
冴は小さく息を吐く。
「そうだな」
その口元は優しく微笑んでいた。
「その時は付き合おう」
「ほんとですか!? 約束ですよ!」
雪の中で、玲は子供のようにはしゃいだ。
そんな姿を見つめながら、冴は静かに思う。
(急ぐつもりはない)
(お前の隣に立つ者が誰になるのか……まだ分からない)
(だから、今はその物語を、一番近くで見守っていたい)
ちらちらと降る雪。
白く染まる夜の街。
玲は嬉しそうにプレゼントを抱えながら歩いていく。
その少し後ろを、冴は穏やかな表情で見つめていた。
この距離が、今の自分たちにはちょうどいい。
いつか隣に並ぶ日が来ることを願いながら――。
聖夜の雪は、二人を優しく包み込んでいた。




