第二十九話 ハロウィンと暴走するシンデレラ!?
十月三十一日――ハロウィン当日。
放課後の生徒会室は、かぼちゃやお化けの飾りで彩られ、いつも以上に賑やかだった。
「せっかくのハロウィンですし、みんなで仮装しませんかっ!」
声を上げたのはサクラだった。
「いいね! 楽しそう!」
玲も目を輝かせる。
「でも、衣装なんてどうすんだ?」
豪が腕を組むと、絢が穏やかに微笑んだ。
「演劇部に頼んでみたらどうでしょう?」
「おっ、いいじゃねぇか!」
烈も乗り気だ。
「文化祭でできなかった演劇の代わりになるかもしれねーし?」
「悪くないな」
冴も静かに頷く。
話はあっという間にまとまり、数十分後。
「うわぁ……!」
「すげぇ……!」
「本物みたい……!」
運び込まれた衣装の山に、生徒会室は歓声に包まれた。
文化祭で中止になってしまった演劇企画。
その代わりとして、生徒会メンバーによる即興劇を開催することになった。
演目は――『シンデレラ』。
「配役はこんな感じでしょうか?」
絢がみんなに台本を配る。
シンデレラ……サクラ。
魔法使い……律。
王子……玲。
継母……冴。
意地悪な姉……絢。
ナレーション……豪。
オペラ座の怪人……烈。
「待て待て待て!」
烈が台本を見て顔をしかめる。
「なんでシンデレラなのに、オペラ座の怪人がいるんだよっ!?」
「うーん、似合うから?」
玲が悪気なく笑う。
すると烈の口元が不敵に吊り上がった。
「……面白ぇ。やってやるよ」
ステージの幕が上がった――
「シンデレラ……誰が掃除をやめていいと言った?」
黒いドレスに身を包んだ冴が、冷たく言い放つ。
妖艶な美貌。鋭い眼光。圧倒的な威圧感。
「ひっ……!」
サクラが本気で怯えた。
「シンデレラ? あぁ、そこにいたのですか……」
隣では絢が優雅に微笑む。
「とても小さくて見えませんでした」
「ご、ごめんなさい……」
「その程度の仕事もできないなんて……困った子ですね?」
(怖っ!! 二人ともすごい迫力……。これ演技……だよね!?)
舞台袖で見守る玲は震えていた。
客席からも、
「二人とも迫真の演技なんだけどっ!」
「怖っ!! 圧がすごっ!」
「なんか……ひれ伏したくなる」
悲鳴混じりの歓声が上がる。
「あぁ……私も舞踏会へ行きたい……」
涙ぐむシンデレラ。
その時。
ぽんっ、と煙と共に現れたのは魔法使い律だった。
「俺が連れて行ってあげる」
眠そうな目を細めながら、優しく微笑む。
「でも、十二時までには帰ってきてね? 約束!」
「きゃああ!」
「かわいい!」
「白砂先輩、天使!」
客席から黄色い歓声が飛んだ。
そして――舞踏会。
白い王子衣装に身を包んだ玲が、サクラへ手を差し伸べた。
「なんて可憐なお姫様、一緒に踊って頂けますか?」
「は、はいっ!」
頬を染めながら微笑むサクラ。
王子とシンデレラ。
まるで絵本から飛び出してきたような美しい光景。
(サクラちゃん可愛い……これこれ、これが見たかった!!)
玲のオタク魂が震える。
その時だった。
バンッ!!
勢いよく扉が開かれた。
「待ちな!」
漆黒の仮面。黒いマント。
オペラ座の怪人――鬼塚烈。
「俺が先に目をつけていたお姫様だぜ? 返してもらおうか?」
「何!?」
玲は剣を構える。
「シンデレラは渡さない!」
本来ならここで王子が勝利し、愛の力でハッピーエンド。
――のはずだった。
ガキィン!!
「なっ!?」
烈が一撃で、玲の剣を弾き飛ばした。
「悪ぃな王子様……俺の獲物だ」
そして――。
ぐいっ。
「え?」
腰を抱き寄せられた玲は目を瞬かせた。
「ちょっ……!?」
ひょいっ。
「えええええっ!?」
お姫様ではなく、王子が担ぎ上げられた。
「烈ーーっ!? 違う!! 攫う相手違うから!!」
「こっちの方が面白ぇだろ?」
烈はニヤリと笑う。
「姫は置いていく。 王子はもらってくぜ!」
「ちょっとぉぉー!?」
呆然とするサクラ。
固まる観客。
そして。
「きゃああああ!!」
会場が爆発した。
「鬼塚先輩最高!!」
「玲会長が攫われた!!」
「待って無理!! 烈玲、尊い!!」
舞台袖では、
「……シナリオ無視しすぎです!」
絢が頭を抱え、
「くっ……面白い……」
冴が肩を震わせる。
律はスマホを抱えたまま、ぷるぷる震えていた。
「え、えっと!」
唯一、豪だけが慌てふためく。
「その後……オペラ座の怪人は、王子を連れ去って幸せに暮らしました! めでたしめでたし!」
「違うからぁぁー!!」
玲の絶叫と共に、慌てて幕が下ろされた。
舞台裏。
「烈ぅぅぅ!!」
担がれていた玲は頬を膨らませた。
「サクラちゃん置いて、攫う人ってある!?」
「いや、だってよ」
烈は腹を抱えて笑う。
「お前、王子様似合いすぎなんだもん。攫いたくなった」
「ならないから普通!」
「はははは!」
大笑いする烈。
その二人を見ながら、サクラは小さく微笑んだ。
(ふふっ……)
王子様姿の玲会長。
優しく差し出された手。
一緒に踊った時間。
本当の王子様みたいでドキドキした。
そして、玲が烈に攫われた瞬間――
胸の奥が、ざわりと揺れた。
(玲会長が誰かに連れて行かれるの、嫌だって思っちゃった……)
自分でもよく分からない。
でも、一つだけ分かるのは――
もっと一緒にいたい。
もっと笑っていたい。
そんな願いが、心の奥で小さく芽吹いていた。
「また、みんなでやりましょうね!」
そう呟いたサクラの頬は、ハロウィンの灯りに照らされて、ほんのり赤く染まっていた。
こうして――
ハロウィンに起きた生徒会による暴走シンデレラ劇は、『王子誘拐事件』と呼ばれ女子生徒たちの間で伝説となった。
そしてこの日、シンデレラの胸に芽生えた小さな気持ちが少しずつ大きくなっていくことを――まだ誰も知らなかった。




