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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第二章 恋するエグゼクティブ(後編)

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第ニ十五話 赤薔薇の誓い〜ずっと隣にいたい人

はじめは――

「綺麗な人……けれど、冷たい人」

そんな印象だった。

如月グループの御曹司らしく、隙ひとつなく制服を着こなした姿。

誰にも付け入る余地を与えない、凛とした佇まい。

それが、生徒会長・如月玲の第一印象だった。けれど――。

勢いよく生徒会室の扉を開けて、満面の笑みを浮かべながら現れたその日から。

僕の日常は、少しずつ色を変えていった――。


『絢って本当に綺麗だよね』

初めてそう言われた時は、正直困惑した。

男の僕に向けられる言葉ではないと思っていたから。

けれど玲は、そんなことなど気にも留めない。

『今度デートしよう?』

揶揄(からか)われているのかとも思った。

けれど――

『好き! 大好き!』

『俺の大事な連れなんだ』

一緒に過ごす時間が増えていくほど、それが決して嘘ではないことを知った。

優しくて。真っ直ぐで。

誰かのためなら、自分のことなど後回しにしてしまう。

そんな人。だからこそ――。


デートをしたあの日。

『今度は、僕があなたを守ります』

自然と口から零れた言葉は、紛れもなく本心だった。

けれど、まだその約束は果たせていない。

フォークダンスの時。

『最後に隣にいるのが僕なら、それだけで十分です』

……あれは、少し嘘だった。本当は、最後と言わずずっとあなたの隣にいたい。

もう、自分の気持ちを誤魔化すことはできなくなっていた。

やっぱり、僕は――


静かな自室。

絢はペンを置き、日記をそっと閉じた。

窓の外では夕陽が沈み始めている。

穏やかな静寂。その時――。

パタパタと軽快な足音が廊下から近付いてきた。

そして、自分の部屋の前で止まる。

コンコン、とノックが響く。

「絢? いる? 今、時間いい?」

聞き慣れた声。

「ええ、玲。大丈夫ですよ」

扉を開けると、つい先程まで想いを馳せていた人物がそこにいた。

「やった!」

玲はぱあっと表情を明るくし、嬉しそうに笑った。

(うっ……。その笑顔が、罪深いんですよ……)

思わず胸が締め付けられる。

けれど、それを悟られないように、絢は穏やかな笑みを浮かべた。

「どうかしたんですか?」

「そうそう! 絢にお礼がしたいと思って!」

玲は後ろ手に隠していた紙袋を差し出す。

「この前、猫のキーホルダー買ってくれたでしょ? 同じ雑貨店で薔薇のブローチを見つけたんだ! 絢に似合うなぁ〜って思って!」

「……っ」

紙袋を開く。中に入っていたのは、赤薔薇を模したブローチだった。

深紅の花弁。繊細な細工。

夕陽を受けてキラキラと輝くそれは、まるで宝石のようだった。

けれど、絢にはどんな高価な宝石より価値あるものに思えた。

玲が、自分のことを思って選んでくれた。その事実だけで十分だった。

そっと手のひらに乗せる。

不思議と、胸の奥に温かな火が灯ったような気がした。

「ありがとう、玲。一生、大切にします」

「ふふっ、そんなに喜んでもらえて良かった! また、一緒に行こうね!」

眩しいほどに向けられる笑顔。

(本当に……敵いませんね)

自然と目元が緩む。

「玲……」

帰ろうとしていた彼を呼び止める。

「ん?」

振り返る玲。

その顔を見た瞬間、胸の奥にある想いが喉元まで込み上げてきた。

「…………好きですよ」

「えっ?」

アメジスト色の瞳が大きく見開かれる。

そして、みるみるうちに頬が赤く染まっていった。

「その笑顔が……とても」

「!! ……もう、絢ったら! そっち!?」

玲は胸を押さえながら、恥ずかしそうに笑う。

「びっくりしたぁ……」

「ふふ、すみません」

「でも、嬉しい! ありがとう!」

そう言って笑う玲を見て、絢もまた小さく笑った。

「じゃあね!」

「ええ。また」


パタパタと足音を響かせながら去っていく玲。

静かになった部屋。

絢は赤薔薇のブローチを、胸元にそっと付けてみる。

「……似合いますか?」

返事はない。けれど――

『うん! すごく似合う!』

そう言って満面の笑みを浮かべる玲の姿が、容易に想像できてしまった。

「ふふっ……困りましたね」

鏡の中の自分は、はにかんだ笑みを浮かべていた。


その時、静かなノックの音がした。

訪問者は冴だった。

「借りていた本を返しに来たんだが……何かあったのか?」

ドキッ! 絢の心臓が跳ねる。

「えっ?」

「顔がにやけている」

「……黒崎先輩にはお見通しですね」

絢は苦笑する。そして、胸元の赤薔薇に触れると冴を見据えた。

「もう、後戻りはできないみたいです。……諦められそうにありません。」

冴はその言葉で全てを察したようだった。

「そうか……」

それだけ答えると部屋を出ていく。間際、振り返った冴は少し目を細めながら言った。

「悪いが……私も諦めるつもりはない」

そう絢に伝えると、扉を閉めて部屋を後にした。


絢は冴が閉めた扉を見つめ、もう一度胸のブローチに触れた。

玲から貰った大切な贈り物。

そして、この想いを伝えると決めた日の証。

(いつか、本当の意味であなたにこの想いを伝えなくては。――ずっと、あなたの隣にいるために)

静かな部屋に、夕陽の優しい光が差し込む。

胸元の赤薔薇は、夕焼けを受けて静かに輝いていた。

それはまるで、気付かれぬまま咲き続ける恋心のように。

――その花は、もう決して枯れることはない。

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