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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第一章 恋するエグゼクティブ(前編)

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第ニ十一話 消えた笑顔と白い世界!?

「お前は……誰なんだ?」

鬼塚烈の低い声が、生徒会室に重く響いた。

静まり返る室内。

全員の視線が、一人の人物へと集まる。

如月玲は怪訝そうに眉を寄せた。

アメジスト色の瞳が、まっすぐ烈を見つめる。

「何を言っている? 俺は如月玲だ」

「違う!」

烈が思わず叫ぶ。

「お前……おかしいんだよ! 屋上の階段のところで倒れてて……何があったんだ!?」

「おかしい?」

玲は心底不思議そうな顔をした。

「元から俺はこんな感じだったと思うが……何か異論があるのか?」

その言葉に、みんな押し黙る。

確かに、元々の玲はそうだった。でも――。


パンッ、パンッ!

重い空気を断ち切るように、黒崎冴が手を叩いた。

「今日は解散だ」

驚いたように全員の視線が集まる。

「今のままでは感情的になるだけだ。今日はこのまま解散しよう」

「……分かった」

悔しそうに拳を握る烈。

濡れた目元を擦る律。

不安そうなサクラ。

怒りを押し殺す豪。

何も言わない絢。

次々と部屋を後にしていく。

そして最後に、生徒会室には玲と冴だけが残った。

「玲」

「はい、黒崎先輩。何か御用でしょうか?」

冴はしばらく玲を見つめていた。

昔と変わらない顔。昔と変わらない口調。それなのに。

「……面白くないな」

「?」

「今のお前は……つまらない」

玲が小さく首を傾げる。

「……どういうことでしょうか?」

「分からなくていい……」

冴は踵を返す。

「俺は簡単には諦めない――」

そう言い残し、生徒会室を後にした。


――時間は少し遡る。

屋上で烈との告白イベント(未遂)があった後、私は慌てて階段を駆け下りていた。

その時、一人の生徒とぶつかり、その生徒が落とした端末を拾おうとした瞬間――。

閃光。そして、世界は真っ白になった。


「……え?」

気が付くと、辺り一面は白一色。何もない。

ただ一つ、目の前に巨大なモニターだけが存在していた。

そこには『恋するエグゼクティブ』のロゴ。

そして、先程まで一緒にいた生徒会のみんなの姿が映し出されていた。

「えっ? みんな!? なんでそこに……?」

慌てて駆け寄る。

すると、そこには私自身(玲)の姿があった。

『俺には必要ない』『俺が頼んだか?』

冷たい声。傷付く律。怒る豪。不安そうなサクラ。

「あーーっ!! 玲っ!!」

私は思わずモニターを叩いた。

「何言ってんの!? 律を泣かせたら駄目じゃん!! 豪にもそんな言い方して……ちゃんと謝って!!」

ドンドンと叩く。でも、声は届かない。

「もぉ〜〜! 一体どうなって……」

そこで、ふと思い出した。あのエラーウィンドウ。

『▶システムエラー発生』

『▶キャラクター「如月玲」を初期化します』

「……え? 初期化? ……もしかして……」

嫌な予感が全身を駆け巡る。

「あそこにいるのは元の玲で……じゃあ、バグって……私?」

息が止まった。

ここは『恋エグ』。私が作ったゲームの世界。

本来の如月玲は、あれが正しい。

ゲーム内でサクラ達と交流し、少しずつ心を開いていく。その過程が正規ルート。なら――。

「ゲームの修正システムが働いて……バグの私は……消されちゃったってこと?」

ここ数ヶ月。みんなと過ごした時間が走馬灯のように蘇る。

笑った日。怒った日。泣いた日。全部、大切な思い出だった。

「みんなとの思い出は……嘘じゃない……」

涙が零れる。

「如月玲じゃなくなった私は……どうなるの?」

震える声。答える人はいない。

「ねぇ、律! 豪! 絢! 烈! 冴先輩!!」

私は再びモニターを叩く。

そこには、生徒会室を後にするみんなの姿。

「待って! お願い! 行かないで!」

誰も振り向かない。

「私、ここにいるよ!! 一人にしないで!!」

涙が溢れる。

「嫌だよ……消えたくない……お願い……誰か……助けて……」

私の声は、白い世界に吸い込まれていった。


生徒会の業務は滞りなく進んでいた。

むしろ以前より効率はいい。

雑談もない。脱線もない。完璧だ。なのに――。

「なんか……つまんねぇな」

豪がぽつりと呟いた。

「豪くん……」

サクラも寂しそうに俯く。


昼休み。律は少しでも以前の玲を思い出してほしくて、明るく声をかけた。

「玲! この前好きだって言ってた新作ゲームなんだけど、続編が発表されたんだ!」

「……そうか」

会話は続かない。律は寂しそうに笑った。


放課後。絢がさりげなく話題を振る。

「玲、以前行ったカフェに季節限定メニューが出たそうですよ?」

「……そうか」

絢は微笑んだまま目を伏せる。


烈もわざと明るく声をかける。

「駅前のラーメン屋の食事券が手に入ったんだ! 今から一緒に行こうぜ!」

「……無理だな」

「チッ」

烈は小さく舌打ちした。

誰の言葉も届かない。そんな中。

冴だけは何も言わず、静かに玲を見つめていた。


その頃――白い世界。

「新作ゲームの続編!? 本当!? 律と一緒にゲームした〜いっ!!」

「カフェの季節限定メニュー!? 絶対美味しいやつじゃん!! 絢様と食べたかったぁ〜!」

「ラーメン屋!? 行列できる人気店なんだよ!? なんで断ってんの!? 玲のバカバカバカ!!」

どれだけ叫んでも、手を伸ばしても、みんなには届かない。

「はぁ〜……」

私はその場に座り込んだ。

「みんなに会いたいよ……」


数日後。

重苦しい空気の漂う生徒会室で、冴が不意に口を開いた。

「玲。先日のテーマパークの入場券は持っているか?」

全員が顔を上げた。

「はい、あります」

冴は淡々と告げる。

「よし。こんなはずではなかったが……予定変更だ。全員で行くぞ」

「えっ?」

律が目を丸くする。豪も烈も絢もサクラも驚いていた。

玲でさえ僅かに眉を寄せる。

「……それは生徒会業務の一環でしょうか?」

「ああ」

冴は平然と答えた。

「私の命令だ」

「はい、承知しました」

玲はそれ以上何も聞かなかった。

「準備しておけ」

それだけ言い残し、冴は生徒会室を後にする。

重く沈んでいた空気の中に、ほんの少しだけ。希望の光が差し込んだ。

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